飲食料品の消費税率の2年間限定引き下げには反対だが、恒久的に消費税を下げることには賛成だ。今回の2年間限定の税率引き下げにも、不足財源はどうするのかという指摘がよく聞かれる。前号でも言及したが、1980年代以降の税制変更と逆の税制改革を進めれば、財源は問題ではなくなる。もし、財源が不足すれば、国債を発行すればよい。国債の増発と国債利回りには、なにの関係もないからだ。
すでに国は1,145兆円(普通国債残高、2026年度末見込み)の借金を抱えており、さらに借金を増やせば、日本の財政は破綻してしまうのではないか、と国債の発行には反対する人が多い。逆に、1,145兆円の国債を発行していなければ、日本経済はどうなっていただろう、と問いたい。
1990年代以降の日本経済は完全に停滞し、1994年から2025年の31年間の名目GDPの年率成長率は0.79%であった。が、これは1,145兆円の国債を発行して国が需要を作り出したからであり、もし1,145兆円の需要が加わっていなければ、日本経済は壊滅状態に陥っていただろう。
10年物国債の利回りは今、3%を超えているが、消費税減による不足財源を国債発行で補うことになれば、利回りはさらに上昇し、経済にマイナスに作用するとも言われている。だが、国債利回りが上昇するのは国債発行を増やすからではない。国債の増発が国債利回りを引き上げるのであれば、とっくの昔に利回りは急上昇していなければいけない。
1990年代初めから毎年、国債発行額は増加し続けていたが、それに反比例して国債利回りは低下していった。その傾向が顕著に現れたのはリーマンショック後であり、2009年度の国債発行額は51.9兆円、税収38.7兆円の1.34倍に急増した。2011年度は東北大震災、福島第1のメルトダウンにより54兆円と2009年度を上回った。極みは2020年度の新型コロナによって、発行額は108.5兆円、税収60.8兆円の1.78倍に拡大し、過去最大の増発となった。
100兆円を超える国債を出しても、10年国債の利回りは2020年末0.02%、2021年末0.07%とほぼゼロの水準に張り付いたままであった。ということは、国債利回りは国債発行額では決まらないということだ。国債発行ではないほかの要因によって利回りは決まるのである。
なぜ、これだけ巨額の国債を売りに出していながら、未だに国債が財政や利回りに悪影響を及ぼす、という批判がなくならないのだろうか、不思議でならない。30年以上の長い国債増発の経験をしていながら、そこからなにの知識も汲み取っていないのである。おそらくいくら経験を積んだとしても、経験が経験として生かされることは少ないのだ。だから、戦争と同じで、同じことが何度でも繰り返されることになる。
1,000兆円超の国債を発行しても、国債は値崩れすることなく消化されたのであり、これからも問題なく消化されるだろう。なぜか、国債を購入できる資金が国内にあるからだ。1990年代以降の景気低迷の主因は家計最終消費支出(持家の帰属家賃除く)が冷え切っていたからだ。2025年までの31年間、家計最終消費支出は年率0.65%と名目GDPの伸び(0.79%)を下回った。所得の伸びも低かったが、消費支出は所得の伸びよりもさらに低かった。経済の先行きに期待を持てないことから貯蓄を所得の伸び以上に増やした。家計は消費性向を下げ、貯蓄性向を上げていくことに懸命であった。
総務省の『家計調査』(二人以上の勤労者世帯)によれば、2000年から2025年までの25年間で実収入は1.16倍(年率0.6%)に増加したが、消費支出は1.01倍とほぼ横ばいであった。2000年の平均消費性向は72.1%、その後、2017年までは70%台を維持していたが、2018年以降(2018年には西日本大豪雨、北海道胆振東部地震、大阪北部地震などが発生)は60%台に低下しており、2025年は65.0%、2026年に入っても7月まで7カ月連続で前年を下回り続けている。未だに、家計は消費を抑制し、貯蓄性向を高めているのだ。高市首相が「強い経済」の実現を叫んでも、現実は変わらないのだと大半の国民は諦めているからだ。政府は何度となく「骨太の方針」を打ち出しており、与党のこうした経済政策が効果を発揮するものであったならば、10年も20年も前に、日本経済は今よりもはるかに豊かな経済になっていただろう。
人口減と少子高齢化だけを取り上げてみても、将来、日本経済は活力を失うだろう。そうした問題に国が真剣に取り組んでいないことが、なおさら、不安を呼んでいるのだ。政府は目先の現象を追いかけているだけで、最も大事なことはお座なりにしている
家計が収入の3割以上も使わずに溜め込んでいれば、経済に力が湧いてこないのは当然である。この事態を放置していれば、ますますものやサービスは売れなくなり、経済は後退していくだけだ。ただ、貯蓄と投資の関係から超過貯蓄は政府部門と貿易によって、必然的に辻褄が合うことになる。
1990年代以降、超過貯蓄を吸い上げたのは主に政府部門なのである。1,145兆円まで積み上がった国債によって、超過貯蓄は超過貯蓄ではなくなったわけだ。そして曲がりなりにも、日本経済は存続できたのである。だが、日本の一人当たりの名目GDP(35,703ドル)は、なんと世界52位(IMF、ドル表示、2026年)まで落ち込んだ(10年前の2016年は40,251ドル)。G7では最下位であり、日本の前の6番目にイタリア(35位、46,505ドル)がくる。
国力の衰退によって円は弱くなっているが、長期的に円はさらに売られるだろう。そして一人当たりのGDPも相対的に低下し、世界の順位は下がるだろう。
今でも収入の3割超の貯蓄していることは、消費税引き下げによる税収不足を国債で穴埋めすることは、いとも簡単なことだ。国債で超過貯蓄を吸収することができなければ、経済は落ち込むだけである。
日銀の『資金循環』によれば、今年6月末の家計の金融資産残高は2,519兆円、そのうち現金・預金は1,132兆円である。中央政府の国債・財投債は928兆円であり、家計の現金・預金よりも少ない。中央政府の資産と負債の差額はマイナス786兆円だが、中央政府に地方公共団体と社会保障基金を加えた一般政府ではマイナス380兆円と中央政府の半分以下である。
民間非金融法人の資金不足額は1,089兆円であり、中央政府の不足額(786兆円)を上回っているが、民間非金融法人の財政破綻など話題にならない。家計だけで過剰資金は2,103兆円もあり、この余剰資金が一般政府や民間非金融法人の資金不足に充てられている。
家計の現預金は金融機関に預けられ、金融機関は預金等を貸出や有価証券で運用し、利益を得る。元をただせば、国債は家計の預金が国に貸し出された証書に過ぎない。
金融機関や機関投資家が保有していた国債を日銀が大量に購入し(2012年3月末、日銀は国債等残高の9.6%を保有)、ピークの2023年12月末には47.9%と半分近くに達した。今年6月末の国債等の残高は1,142兆円だが、日銀はその41.16%(470兆円)まで保有比率を落としている。今年6月末、保険・年金基金16.29% 金融機関14.88%、家計1.92%、海外13.12%という保有状態だが、家計は22兆円の保有にとどまり、いかにも国債保有額が少ない。10年国債の利回りが3%に上昇(3%超は1996年7月以来)し、株式配当利回りを1%p弱上回っている。利回り3%は相当魅力的であり、国債の購入を増やすべきだ。30年物の超長期国債のクーポンは4%を超えており、使い道のない金やわけのわからない投資信託は解約し、既発30年国債に資金を移動させたほうがよい。
日銀の利上げ、円安、原油高による物価上昇等の要因により、先行き金利は上昇するだろうという見方が優勢になり、国債は売られている。国債を売却し、流動性を重視する姿勢を取っているのだ。国債の価格が底を付くころになれば、今度は逆に流動性を手放し国債買いに転じるだろう。今は既発債の長期国債を仕入れるときだと思う。
国債利回りを左右する現下の最大のポイントは、トランプが仕掛けたイラン戦争がどうなるかで決まる。トランプが敗北を認め、ホルムズ海峡の航行が自由になるかどうかだ。ホルムズ海峡が戦争前の状態に戻れば、原油価格は急落し、物価高の懸念は払拭され、国債は買われることになる。米国がイランへの攻撃を続けることになれば、原油高が持続し、国債の利回りはさらに上昇するだろう。
9月30日、2003年以降駐留していた米軍はイラクから撤退した。湾岸諸国にある米軍基地も撤収し、中東から米軍はいなくなるかもしれない。ホルムズ海峡でさえ米軍は支配することができないのだ。加えて、米軍はイランの湾岸諸国への攻撃を守ることができないことが、今回の戦争で明らかになった。中東地域を支配できなければ、当地域に駐留する理由がなくなる。
今回のイラン攻撃の張本人であるイスラエルが困るだけである。9月27日、ネタニヤフは秘密裡にアラブ首長国連邦を訪問し、ムハンマド大統領と会談した。米軍撤退ともなれば、イスラエルの立場は極めて弱くなる半面、イランは湾岸の支配者となる。そうした権力構造の変動に慌てて、ネタニヤフはアラブ首長国連邦に飛んだのかもしれない。