もともとバブルであったところへ、さらに株式を煽るように、日経は今年4月1日、無配当のキオクシアを日経平均の銘柄に採用した。日経平均に採用された当日のキオクシアの終値は21,800円だったが、6月22日には108,700円まで急騰した。3カ月も経たない短期間で約5倍になってしまった。
AIブームに乗ったとは言え、これこそまさにバブルではないか。キオクシアの高騰と同時に、日経平均株価も勢いを増し、4月1日の5万3,739円からキオクシアが最高値を付けた6月22日には7万2,353円まで駆け上った。3カ月弱で34.6%の急騰となったが、同期間、キオクシアの日経平均への寄与は15.6%である。7月17日、キオクシアの株価は52,110円、最高値から56,590下落し、日経平均も6万4,141円と6月22日から8,212円も下落したが、この下落へのキオクシアの寄与は23%であり、キオクシア主導で、日経平均株価も急速に下がったのである。日経平均は225銘柄の単純平均だが、そのうちの1銘柄で潰されたのだ。
博打に理屈などない。丁か半かの世界なのだが、この博打の恐ろしい闇の世界に嵌った人のなんと多いことか。証券会社やマスコミがAIブームを鼓舞し、AI株の値上がりに心を躍らせ、理屈抜きで買い進むから、このような異常な高騰下においても何の疑問も抱かず、大衆は博打にのめり込んでしまう。
AI関連企業であれば、情報通信機器があれば、後はデジタル技術を駆使して、より高度なAIモデルを作るだけのことだ。AI技術は陳腐化が速く、最新のモデル構築を常に追い求めるという過程を辿ることになる。家電や自動車のような実体のあるものではなく、デジタル技術で作られ、そこが居場所であるため、目にすることはできない。そのようなデジタルには当然表と裏があり、いくらAIを駆使して商品を作り上げても、欠陥はある。AI同士の戦いもすでに始まっている。AIで防御し、AIで攻撃するという無駄なコストも発生する。AIを追求すればするほど電力消費量も増加の一途となる。AIは限りない再生産を繰り返さざるを得ず、省エネとは無縁の技術と言える。
7月17日のキオクシアの売買代金は2.2兆円、プライムは10.9兆円であり、1銘柄で2割を占めていた。昨年のプライム売買代金の一日平均は5.8兆円だったが、今年に入り膨らみ続け、5月は12.1兆円と昨年の2倍以上になった。これほど売買代金が急増しているのは平均売買代金が昨年の2,437円から今年5月には3,605円、最近では4,000円を超える日もあったからだ。
今の株式は実体経済とはほとんど関係がない。株価の値上がりによって個人消費が増えることもなく、民間設備投資が活発になることもない。ただ、流通市場で一日当たり10兆円超もの金が動いているだけなのだ。これだけ株式流通市場に金が出入りしているが、日銀券は2023年12月以降、前年割れが2年7カ月も続いている。5兆円動こうが、10兆円動こうが世の中に何の関係もない。流通市場がざわついているだけなのである。金が動いているだけであるから、何かを生み出すこともなく、胴元やブローカーが手数料を得ているだけなのだ。だから、できる限り売買が活況になり、売買代金が膨れることを株式等を生業にしている企業は好む。株式の売買高が膨れれば、証券業、投資信託、信託銀行、投資顧問等の会社は潤う。
金融機関の利益が増加し、そこで雇用されている従業員の家族は消費を増やすかもしれないが、全体の消費を引き上げるほどの力はない。金融機関で雇用されている人たちの給与は相対的に高く、給与が増加したからといって、消費を大きく増やすという行動を取らないからだ(野村証券の平均年間給与1,325万円(平均年齢42歳)、三井住友銀行同933万円(同41歳)、出所:2026年3月期の『有価証券報告書』)。
株式保有は高齢者に偏っており、こうした保有構造も消費の引き上げを難しくしている。『World Inequality DataBase』によれば、米国ほど資産格差は極端ではないが、日本でも富の格差はトップ10%が59.1%、ボトム50%は4.6%にすぎず、所得はトップ10%の43.5%に対してボトム50%は18.2%(2024年)である。米国の富はトップ10%の69.5%、ボトム50%はたったの1.0%、所得についてはトップ10%の46.8%に対してボトム50%は13.4%であり、富の格差は米国で著しく、株式の高騰によって格差はますます拡大しつつある。
株式は富の格差を拡大させる機械なのだ。トップ1%が富の34.9%を所有することができるのは株式あってのことなのである。そして、このトップ1%いやトップ0.1%(3億4267万人の34。2万人)が米国を支配しており、かれらのための政治が行われている。残りの99.9%は切り捨てられているのが米国社会なのであり、民主主義とは似て非なる体制なのだ。
製造業がGDPの10%(2025年の製造業9.4%、金融・保険は7.9% 出所:BEA)を割る事態になっても株価が上昇していれば、トップ0.1%にとってはなにの問題もないのだ。実体を伴わないAIブラックボックスでもなにでも話題になり、ストーリーになるものならなにでも構わないのである。AIブラックボックスにみんなが注目し、観客が増えればよいのだ。そうなれば、自然に株式は人気となり、祭り気分となる。株式は米国の心臓なのである。
1929年の株式大暴落による大恐慌を教訓に1933年6月、銀行と証券の分離が法律で定められた(グラス・スティーガル法)。それが、クリントンが大統領であった1999年11月、金融制度改革法(グラム・リーチ・ブライリー法)を成立させたことで、銀行業と証券業の垣根が取っ払われた。その時の財務長官はロバート・ルービン(1995~1999)とローレンス・サマーズ(1999~2001)だが、ゴ-ルドマン・サックスのトップに上り詰めたルービン、そこにFRB議長アラン・グリーンスパンが加わり、金融制度改革法を成立させ、サマーズに引き継いだ(3人ともユダヤ)。ルービンは金融制度改革法が制定される1カ月前の1999年10月に財務長官を退任し、シティーグループの会長に就任した。これほどの私利私欲に走ったケースは米国でも稀だ。
1933年以前の自由な金融制度が確立したことによって、巨大金融持株会社が続々誕生し、証券業に参入、銀行に預けられていた預金が株式などに流れて行く仕組みが整った。日本でも、ゆうちょ銀行で投資信託を買うことができるようになった。要するに、金融機関は総力を挙げて株式や株式を組み込んだいかがわしい商品を販売し、利益の嵩上げを追求してきたのである。
消費者には消費税で苦しめる一方、企業には法人税の引き下げで優遇するという本末転倒の税制変更を行った。これによって、経済の原動力である消費を萎縮させ、長期不況を招いた。政官財は経済を行き詰らせる政策を積極的に採用していったのである。バブル崩壊過程で、消費を冷やす愚策を遂行したために日本経済は立ち上がれなくなった。
財務省の『法人企業統計』によれば、2024年度の全産業全規模の税前当期純利益は115.1兆円と4年連続で過去最高を更新した。10年前の2014年度比1.9倍とバブルピーク時の1989年度までの10年間の2.2倍に近い拡大だ。一方、法人税等は2024年度・2014年度比、1.49倍と利益の伸びを下回った。1989年度・1979年度比では2.35倍と利益を上回っていた。これをみても政官財の癒着によって、企業がいかに優遇されていたのかがはっきりする。
法人税等が税前当期純利益のどの程度を占めていたかを調べてみると1979年度50.6%、1989年度53.8%だったが、2014年度29.2%、2024年度22.9%とバブル期の半分以下に比率は低下している。1960年度の統計開始以降、最低を更新し、法人税等は著しく引き下げられていることがわかる。これによって、当期純利益は89.6兆円と4年連続で過去最高を更新、配当に40兆円、社内留保に49.5兆円を振り分けた。1989年度の純利益17.9兆円、配当4.1兆円、社内留保13兆円に比べれば雲泥の差があることがわかる。
1989年度の支払利息等は26兆円だったが、ピークの1991年度には37.9兆円に急増、その後、日銀のゼロ、マイナス金利政策によって、支払利息等は減少し続け、2019年度5.6兆円まで負担は低下し、2024年度は9.6兆円まで戻している。それでも、2024年度の支払利息等は1989年度の36.9%に過ぎない。
さらに利益拡大要因としては円安ドル高が外せない。2020年度の106円04銭(年度平均)から4年連続で円安ドル高が進行し、2024年度には152円60銭まで円は売られた。2025年度は150円34銭と僅かに円高ドル安に振れたが、今は162円と昨年度よりも12円ほどの円安であり、輸出企業は引き続き円安の為替益で利益は上振れしている。
企業は高収益だが、消費者の税と社会保障費の負担は重く、積極的に消費する気持ちにはなれない。税前当期純利益の2014年度・2024年度比は1.9倍だったが、賃金は1.18倍しか増えていない。しかも給与は1.16倍に抑えられ、賞与の1.32倍で誤魔化す。利益と賃金の格差は拡大するばかりだ。2014年度の利益は賃金の47.4%だったが、2024年度には78.0%に上昇している。企業は税を支払える余力が十分にありながら、負担を逃れている。1989年度の法人税等を基に2024年度を求めると60兆円を企業から徴収することも可能だ。1980年代の租税体系に戻ることが、日本経済をまともな姿に変えることができる唯一無二の策だと考える。
★今回で夏休みにはいり、2カ月ほど休みます。