NATOの軍事費拡大とウクライナ加担で、きな臭くなる欧州

投稿者 曽我純, 7月13日 午前9:00, 2026年

独裁者トランプが世界の政治と経済を壊している。拉致、殺人、戦争などのすべてに手を染め、悪の限りを尽くし、世界の法と秩序を葬った。こうした悪行はワールドカップにまで及び、FIFAの体質もトランプに類似していることがあからさまになった。8日、トランプはスペインとの貿易停止を指示、イランとの締結した覚書は「終わった」、イラン指導者を「病んだ人々だ」と蔑む。「覚書を反故にし」、「病んで狂っている」のはトランプなのだが、主要国の指導者も国連も米議会もトランプに引導を渡せない。米国の民主政治は崩壊してしまった。

独裁者トランプ一人により原油高が起こり、世界経済は攪乱しているが、問題は経済だけにとどまらず、トランプを野放しにしていることで、法や秩序を蔑ろにすることに抵抗を感ぜず、トランプ流の言動が悪いことではないのだという風潮が広まることだ。トランプの数々の無法な行為を取り締まることができなければ、どのような犯罪も犯罪ではなくなる。トランプの邪悪な行いが世界に蔓延し、普通のことになることが一番怖い。

日本は北朝鮮による拉致問題を抱えているが、米国とトランプは北朝鮮とは比較にならないほど拉致と殺人を繰り返している。日本政府は北朝鮮の拉致は大いに問題にする(問題にするだけだ)けれども、トランプの拉致・殺人には、だんまりを決め込む。高市首相にトランプの拉致・殺人についての見解を聞くべきだ。

独裁者トランプの米国と同盟関係を結んでいることは、日本は米国と同類だと見做される。トランプを容認することは拉致・殺人を認めることになる。北朝鮮の行動も問題ではなくなり、中国やロシアの強権政治も非難するに値しないことになる。

日米は同盟関係ではなく、日本は米軍の植民地だと言ったほうが正確である。植民地であれば、トランプは日本を思うままに操作できる。日米合同委員会という月2回開催の非公開の会合で重要事項は決定されている。日米合同委員会では日本国憲法には目もくれず、米軍人と日本の官僚によってすべては決まる。日米合同委員会には日本国憲法の縛りはないのである。米軍人の主張が合同委員会で認められれば、日本の政治に反映されることになる。国会など素通りして米軍の要求が直接、政治に反映されるのだ。

ウクライナは米国の代わりに戦争しているが、米国からNATOの代理戦争へと変わりつつある。米国はNATOの一員だが、欧州をウクライナ戦争へ本格的に介入させようとしている。昨年のNATOハーグサミットで、同盟国は2035年までにGDPの5%を防衛(軍事)支出し軍事力を強化すると約束した。この5%はコア防衛費に3.5%、重要インフラの保護やネットワークの防衛などより広い防衛・安全保障関連投資に1.5%を振り向けられる。

NATO(欧州とカナダ)のコア防衛費・実質GDP比は2025年、2.31%と2024年の1.96%から0.35%pも上昇し、2026年には2.53%へとさらに上昇すると予測されている(出所:2026年NATOアンカラサミット、2025年と2026年は推計値)。2014年の1.4%から上昇していたとは言え、極めて緩やかであったが、ウクライナ戦争以降NATO(欧州とカナダ)のコア防衛費は急速に引き上げられており、今後、さらに軍事国家に傾斜していくことになる。軍事費に加えて軍人(欧州とカナダ)も2022年・2014年比4.09%増に対して2026年・2022年比では7.64%も増加している。

一方、米国のコア防衛費・実質GDP比は2014年以降では2014年の3.71%が最大で2026年は3.17%へと大幅に低下している。2024年は3.3%に上昇したが、これを除けば、ウクライナ戦争後も対実質GDP比では低下しており、NATO(欧州とカナダ)とは対照的である。2026年時点では米国の比率は欧州・カナダより高いが、2014年から2026年(推計)までの12年間のコア防衛費は米国の57.9%増に対して欧州・カナダは168.6%増と米国の約3倍の高い伸びである。同期間、米国のGDPは84.8%増だが、欧州・カナダは48.9%と米国が圧倒している。コア防衛費を米国はGDPの伸び以下に抑えているが、欧州・カナダはGDPをはるかに上回っており、コア防衛費支出の急増が非防衛部門を圧迫しているのではないだろうか。

一人当たりコア防衛費(2026年)は米国の2,481ドルに対して欧州・カナダは976ドルと米国の半分以下だが、ノルウェー3,168ドル、デンマーク2,595ドル、スウェーデン2,007ドルなど米国を上回る支出国もある。米国では防衛費に国民一人当たり約40万円も負担させているのだ。ノルウェーでは約51万円も防衛費に支出しているが、これからさらに国民の負担は増すことは間違いない。

2035年目標のコア防衛費・実質GDP比3.5%をすでに達成している国もある。2026年、リトアニア5.33%、エストニア5.10%、ラトビア4.92%、ポーランド4.68%、ギリシャ3.65%の5カ国が3.5%を超えているようだ。バルト3国とポーランドはいずれもロシアに接しており、防衛費を急増させている。ラトビアとリトアニアは2014年には1%未満であったが、特に2022年以降は防衛費増に拍車がかかり、一人当たりのコア防衛費の2026年・2014年比は6.94倍、9.01倍となっている。

NATO32カ国が防衛費(軍事費)の拡大に走り続ければ、その先に起こることは戦争だ。戦争を想定しているから軍事費に糸目をつけないのである。ロシアはこうしたNATOの軍事費拡大に目を光らせており、NATOの戦時体制が整う前に叩いておくべきではないか、との考えも持ち上がってきているのではないか。

第2次世界大戦が始まる前の1930年代は各国軍備拡大に走った。ドイツの軍事費・国家財政比率は1930年には6.5%であったが、1937年には67.0%へと急激に上昇している。1930年、日本の軍事費・国家財政比率は28.5%とドイツとは掛け離れていた。明治に変わってからは富国強兵とアジアへの進出によって、同比率は50%超も珍しくなかった。それでも満州事変(1931年)や日中戦争(1937年)によって1938年には77.0%となり、ドイツだけではなくイギリスやフランスよりも高く、軍事国家に突き進んでいったのである。

NATOの5.0%目標に比べれば、第2次世界大戦前の軍備増強は桁違い(1938年、ドイツの軍事費・国民所得比21.0%)であったが、長期間1%台であったことを想起すれば、5%目標を目指すことはただ事ではない。NATOがこれだけ軍事費を増額させれば、他の国も軍事部門により多くの資金を注ぎ込むだろう。そうした軍拡競争がさらに軍事費を積み上げるという軍事拡大循環を招くことになる。挙句の果ては、戦争が待ち構えている。

戦争国家米国が関与したウクライナ戦争とイラン攻撃が継続中であることに留意し、NATOからの支援で戦っているウクライナの状況に鑑みれば、ロシアが兵器供給国、ウクライナ加担国を攻撃することは不思議な事ではない。ロシア深部の石油精製所にまでドローン攻撃が頻繁に行われ、ガソリン不足が深刻化している状況下では、いつNATO加盟国が攻撃されるかわからない。

米国のトランプの脅迫的な軍事拡大を受け入れて、戦争を想定した軍事産業を育成していくことになれば、欧州はまたしても第2次大戦のような惨禍に見舞われることになるだろう。戦後81年経過し、第2次大戦経験者は僅かになり、戦争への自制心は薄れてきている。そのようなときに、実際に起こっている戦争を目の当たりにすれば、ロシア強硬派は参戦意欲を強めることになる。欧州のリーダーの支持率は地に落ちており、指導者不在という政治状況が外交交渉を遠ざけている。

欧州委員会の外相カヤ・カッラス(エストニア元首相)はロシア強硬派であり、各国の首脳ではなく、欧州委員会主導で対ロ政策が決められている。外交よりも軍事力に傾斜しているのだ。このまま話し合いもなく、ロシアへの攻撃が強まることになれば、ますます欧州はきな臭くなる。

「わたしたちには人類進化の全くの断絶、理性的な存在としての人間の完全な崩壊を目撃しているように思われた」(イアン・カーショー(2017)、『地獄の淵から』、白水社)。

Author(s)