昨年10月から今年5月まで8カ月間に、外人は日本の10年債を買い越してきた。だが、6月は第3週まで売り越しており、買いから売りへと転じたようだ。10年債利回りは6月8日の2.715%がピークになったと想定している。外人はこれまで安く仕入れた多額の債券を債券価格の上昇過程で売却するだろう。
円ドル相場は膠着しているが、早晩162円を突破し、円安ドル高に進むだろう。今年第1四半期の実質GDPは米国の前年比2.7%に対して日本は0.4%しか伸びていないからだ。これだけの成長格差があれば、しかもこれから、この格差が大きくなるという見通しのもとでは円安ドル高は不可避である。成長率格差は債券利回り格差拡大につながり、先を見通した円売りがしつこく持続する相場が展開されるだろう。
5月の『米製造業耐久財受注』(US Census Bureau)によれば、非国防資本財(航空機除く)は前年比10.5%と2カ月連続の2桁増となり、1992年以降では過去最高を更新した。一方、国防資本財受注は20.7%と非国防よりも高く、同出荷は28.5%も伸びている。同出荷はウクライナ戦争開始後の2022年6月を底に急増しており、今年5月の出荷は2022年6月の1.64倍に拡大。国防資本財受注の増加は非国防にも波及し、耐久財全体を押し上げている。だが、5月の米製造業稼働率は75.7%と2022年6月77.7%を下回っているのだ。人や機械設備等の問題により、製造業は稼働率の上限に達しており、国防資本財の生産を増産するには、他の部門の生産を落とさなければならない状況にあるのではないか。
米製造業は戦争がなければ成り立たないほど、軍事産業の影響力が大きいのだ。米軍事産業は武器輸出で潤っている。直近の2025会計年度の米武器輸出額は3,500億ドル程度だろう。2025年の米国のモノ輸出額は2.19兆ドル、武器輸出額はその16%を占める。
イラン攻撃が停戦を余儀なくされたのは、武器弾薬の在庫が底をついたからだろう。トランプは軍事産業に発破をかけ、今、米軍事産業はフル稼働の状態であるはずだ。だから、国防資本財出荷が過去最高を更新し続けている。
だが、米製造業は長期的に衰退してきており、おいそれとは生産を拡大することはできない。1997年の製造業のGDPに占める割合は16.1%だったが、2025年には9.4%に低下している。1997年から2025年までの28年間に、GDPは3.58倍に増加しているが、製造業は2.09倍、なかでも耐久財は1.88倍しか伸びておらず、自動車をはじめコンピューターや電子製品などは輸入に頼らざるを得ず、モノづくりの衰退が顕著である、非耐久財ではアパレルやテキスタイルなどの繊維類の生産は1倍以下となり繊維産業は壊滅状態にある。
自国の生産が縮小してしまって、国内需要を国内生産で賄うことができなければ、輸入に頼らざるを得ない。米製造業の衰退につれて、モノの輸入が拡大することは当然の成り行きである。輸入しなければ、米国経済は成立しないのである。2025年の米国のモノの収支は-1.25兆ドルと過去最大の赤字となり、関税引き上げてもさらに赤字額は増加し、その効果は一時的であった。これにサービス収支、利子・配当などの第1次所得収支、官民の無償資金協力、寄付、贈与などの第2次所得収支を加えた2025年の米経常収支は-1.17兆ドルと前年から僅かに改善しただけである。これは第1次、2次所得の赤字額が減少したからである。第1次所得は2023年までは黒字を維持していたが、2024年からは赤字に転落している。
月次の米モノ輸入額をみると関税引き上げが、前倒し輸入とその後の反動減を招き大きく変動した。2025年3月が輸入額のピーク、同10月がボトムとなり、今年3月までは前年割れだったが、4月、5月は2カ月連続のプラスだ。モノの赤字額も5月まで4カ月連続で拡大しており、5月としては過去最大である。高関税を課したけれども、その効果は一過性であり、高関税を導入しても、米製造業の復活には結びつかないのである。人材や生産設備さらにはノウハウといった製造業を支える土台が崩れているからだ。
2021-2022年度、米国の学士号授与数は200万件、うち工学部は12.3万件、全体6.2%である。第1位は経営学部の37.5万件、18.8%を占めており、工学部の3倍である。過去10年では工学部の学士号取得者は5割ほど増えているが、まだ経営学部に比べれば少ない。しかも工学部の学位取得者は外人比率が高く、米国人には人気がないのである。それは、経営学部などに比べて製造業の給与は低いからだ。給与の高いところへ自然に人材は流れていく。賃金格差が縮小しない限り、実用主義が依然根を張っている米国では、製造業への人材流入は起こらない
BEAのフルタイムの賃金・給与統計によれば、2024年の製造業は88,991ドル、全産業平均85,361ドルよりも少し良い程度である。だが、情報関連186,683ドル、証券296,353ドル、コンピューターシステムデザイン169,664ドルなど製造業をはるかに上回る産業があり、これだけの賃金格差があれば、高収入産業になびくのはしかたがない。
貯蓄=投資の観点から米国経済をみるならば、名目GDPに占める個人消費支出(PCE)の割合が高く、貯蓄(GDP-PCE)が少ないことが米国経済の最大の特徴であり、問題点だと言える。2025年のPCE・GDP比率は68.1%、2011年(68.6%)以来14年ぶりの高い比率である。統計が利用可能な1929年以降では大恐慌後の1932年の81.8%が最高であり、第2次世界大戦が終わる直前の1944年、48.4%まで急低下した。その後は再び上昇し、1960年代には60%に近いところで推移していた。1970年代には60%を少し超えていたが、1980年代に入り徐々に同比率は高くなり、2011年まで上昇傾向が続いた。
PCE・GDP比率が70%に近い国はない。日本やドイツは52.9%、53.1%であり、米国よりも約15%pも低い。米国ではGDPの約7割が消費されていることは、設備投資や公的支出の部門が日本やドイツと比較してGDP比では小さいのである。米国経済は高消費・低投資という構造なのである。消費される割合が多ければ多いだけ、設備投資等に振り向ける割合は小さくなる。
高消費ということは貯蓄率が低いことでもある。貯蓄率とPCE・GDP比率は逆相関関係にあり、貯蓄率が高いとPCE・GDP比率は低下する。逆もまた然り。米国の貯蓄率は2025年、4.6%であり、ドイツ10.3%は米国の約倍だが、日本は2024年6.0%と米国とそれほどの違いはない。リーマンショック後は7.9%、新型コロナの2020年には15.3%と1945年以来75年ぶりの高貯蓄率となった。極めて深刻な事態に直面すると米国民も将来への不安から貯蓄に走るのである。
米製造業の相対的縮小は米国民の過剰消費に起因している。過剰消費が過少貯蓄・過少投資となり、製造業の増産を阻害し、生産性の向上を阻む。製造業部門が若者を引き寄せることができず、高収入産業志向による人材不足と生産設備の高齢化が輸出競争力を低下させている。
金融や情報産業に比べれば、米製造業の賃金は低いが、1ドル=160円では年1,423万円である。これほどの高給を支払えば、とても世界市場で打勝つことはできない。高賃金が高消費を生み出し、低投資を招き、製造業の生き残りを難しくしている。