日本を潰す日銀の金融政策

投稿者 曽我純, 6月21日 午前8:41, 2026年

日銀は6月16日、政策金利を0.25%p引き上げ、1.0%とした。昨年12月以来6カ月ぶりの利上げだ。15日に公表された米国とイランの暫定合意が先行きどうなるか、極めて不透明であり、本当に米国が戦争を止めるのかどうかわからない。そうした状況下での利上げであった。だが、0.25%pでなにが、どうかわるのだろうか。恐る恐る0.25%の利上げしかできない金融決定会合になにの意義があるのだろうか。クォーターポイントの変更で、これだけ時間を掛け議論するなど本当にばかげたことだ。しかも事前に利上げすることを漏らし、なにの意外性もなく、つつがなくおこなわれる。まるで宗教儀式であるかのようだ。

総務省によれば、日銀が目標にしている物価は5月、前年比1.4%だった。これで目標とする2%以内には2月以降4カ月連続で収まっていることになる。食料だけは3.5%と高く、これだけでCPIを1%p引き上げた。総合CPIは1.5%だったので、食料を除けば0.5%と日本の物価は超安定していると言える。これをマスコミなどは物価高だと叫んでいる。いった何を見ているのだろうか。あまりの見識のなさに呆れる。

日本のCPIは食料のウエイトが26.26%(米国13.51%、ユーロ圏18.98%)と高く、食料の値段が上がれば、欧米以上にCPIは上昇することになる。いかに食料の値段を下げるか、これが日本の物価を安定させる鍵となる。

また、トランプが戦争を再開すれば、話は変わってくるけれども、そうでなければ、CPIはしばらくトランプ戦争による資源高の影響を受けるが、半年もすぎれば、戦争の悪影響は出尽くし、元の物価環境に戻るだろう。

少し先をみれば、物価が日本経済を痛める要因にはならないのである。すなわち、物価問題で政策金利を上げる理由はないのだ。実体経済にしても、今年第1四半期の実質GDPは前年比0.4%、過去3四半期0.5%以下という低迷状態にある。なかでも民間需要は-0.1%と2024年第4四半期以来、5四半期ぶりのマイナスだった。民需は水面下にあり、さらに深く沈んでしまうかもしれない。そのようなときに、金利を上げればどのようになるか、このことの結末はだれでもわかるはずだ。

利上げは前に比べて金を借りにくくすることで、住宅や車の購入を手控えさせ、設備投資を抑制したりする。耐久財や設備投資需要の幾ばくかの減少によって、物価を抑える。しかし、今のように需要が弱いときに、需要をさらに摘むようなことをすれば、需要はますます弱くなり、経済はへたってしまう。そして、需要が弱くなれば、金利を下げねばならなくなる。すでに、10年債利回りは、先行きの経済を見通してか、ピークアウトしたようだ。

日銀は引き続き政策金利を引き上げていくそうだが、過去30年以上の金融の超緩和が日本経済に沁み込んでいるため、僅か0.25%pの金利上昇でも、身体に応えることになる。これまで問題なく流れていた血液が流れにくくなり、酸素供給量が少し不足、身体に不調を感じるようになるかもしれない。

これまでもゼロやマイナス金利は、実体経済にはそれほどの支えにはならなかった。2025年までの過去30年間の実質GDPが年率0.72%(名目でも0.74%)しか伸びなかったことが、そのことを裏付けている。

その効果が最大限に発揮されたのは株式と不動産である。債券利回りが一時2.7%台へ上昇したため、不動産には相当な逆風が吹いている。債券利回りの上昇など歯牙にもかけず、株式はまるで舞い上がっている。日銀は高々2%超の物価高に目くじらを立て、2%を死守しようとするのだが、株式については青天井で、上がるに任せている。株式の暴騰はなにの問題もないとの態度である。日銀は37兆円(6月10日現在)もの株式を保有している大株主だから、株価上昇は大歓迎なのだろう(含み益は70兆円ほど)。

1990年代のバブル崩壊の辛苦を舐めた人たちも退職していき、その辛さを記憶にとどめている人も少なくなってきている。そのような株式の暴騰と暴落を経験していない年齢層の増加に加えて政府の「貯蓄から投資」の誇大宣伝や税制優遇措置などにより、株式は安全な資産になるのだと思い込み、思い込まされているのではないか。

日経平均株価は昨年末比41.5%の暴騰だ。NYダウは7.3%、ナスダック総合でも14.1%の上昇にとどまっている。TOPIXは18.7%と日経平均株価に比べれば、上昇率は大幅に低いが、それでもナスダック総合よりも値上がりしている。日本の株式は世界のなかでも極めて特異な現象を示していると言える。

これほどの異常な急騰によって、株式は実体経済との隔たりが大きくなり、ついには持ちこたえることができなくなるだろう。最終的にはバブル崩壊という結末を迎えることになる。1990年代の日本にはまだ余力があったけれども、今は超低成長にみられるように、やっと歩いている状態なのだ。こうした足取りに不安を抱えているときに、バブル崩壊が起こればどのようなことになるのだろうか。1990年代よりもはるかに大きな破壊力が押し寄せ、日本経済は立ち直ることができなくなるのではないか。

先週末、プライムの時価総額は1,376兆円、2025年の名目GDP(663兆円)の約2倍である。バブル崩壊によって、プライム株価が暴落すれば、2025年の名目GDPぐらいはすぐに吹き飛んでしまう。1989年末の東証1部時価総額は590兆円、1989年名目GDPは428兆円、時価総額・名目GDP比は1.378であったが、今では2.075に上昇している。1989年よりも現状の株式は実体経済から一層乖離しており、株式バブル崩壊の実体経済への影響力も増している。現下のように、人口が急速に減少しているときに、株式バブル崩壊という大ショックが起これば、日本は想像を絶する落ちぶれた国になるのではないか。

2012年以降の株価上昇の引き金は日銀の超金融緩和である。すでに1995年以降、政策金利はほぼゼロへと金利のない異常な世界を作り上げてきた。そこへ、国債の大規模購入、株式購入の拡大といった株式の国家管理体制が築かれ、もしものときは国が助けてくれるという期待のもとで、株式は投機的な動きを強めていった。

日銀が株式バブルを発生させたのは今回だけでなく、1980年代後半のバブルもそうだ。第2次石油危機による物価高に対して、1980年3月に公定歩合を9.0%まで引き上げた。同年8月、8.25%に利下げしてから、1987年2月の2.5%まで計10回利下げしたのだ。しかも2.5%を消費税導入の翌月の1989年5月まで2年以上続けたのである。まさにバブルの最中である。実質GDPは1986年、前年比3.3%、1987年4.6%、1988年6.7%、1989年4.9%という具合に高成長しているときに引き下げたのである。

公定歩合の引き下げに伴い、日銀券発行残高は急増し、1987年2月は前年比10.2%と2ケタ台に上昇、1990年4月に14.4%のピークを付け、その1年後の1991年4月には-1.7%へと急減していった。公定歩合の引き下げによって、日銀券需要は急増し、実体経済の成長を上回る部分は株式や不動産といった金利に敏感な部門に流れ、バブルを加速させたのである。

今回、日銀は利上げしたとはいえ、政策金利は1.0%でしかない。CPIで実質化すれば-0.5%であり、お金を借りたほうが得になる。物価が上昇しているとき、現金資産は目減りするが、負債は負担減となり、借入が増加することになる。

政策金利1%では株式バブルを止めることはできず、破裂するまでバブルは膨らみ続ける。だが、「投機業者は企業の着実な流れに浮かぶ泡沫としてならばなんらの害も与えないであろう。しかし、企業が投機の渦巻のなかの泡沫となると事態は重大である」(ケインズ、『一般理論』)。

1980年代のバブルを忘れたのか、2024年度、日本企業は有価証券を444兆円も保有している(1989年度は50兆円、財務省『法人企業統計』)。企業が泡沫となるだけでも「事態は重大」だが、日本全体が泡沫となれば、いったい日本はどのような社会になるのだろうか。

物価だけに拘っているあいだに、バブルが膨らみきる事態に限りなく接近している。金利が上がらなくても、値段が上がれば、需要は落ち、自然に物価は下がっていくのだ。金融政策は物価ではなく株式など金融商品の安定に用いるべきである。

「遊技場を、公共の利益のために、近づき難くかつ金のかかるものとしなければならないということは、通常人々の一致した意見である」。そのためには「政府がすべての取引に対して相当重い移転税を課することが、実行可能なかぎりでの最も役立ちうる改革となるであろう」(ケインズ、『一般理論』)。日本を潰さないためには、早急に株式移転税を導入すべきである。

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