米国の代理戦争に巻き込まれ、いまでは欧州がロシアと対峙しようとしている。フォン・デア・ライエン欧州委員長やカヤ・カッラス欧州連合外務・安全保障上級代表は強硬な姿勢を示し、ロシアとの外交は途絶えている。ロシアとの関係が悪化すれば、欧州経済はますます苦境に立たされるだろう。エネルギーは経済を動かす原動力であり、原油等の供給不安や価格上昇が起これば、経済機能は低下を余儀なくされる。豊富で安価なエネルギーが供給されて、はじめて経済は支障なく動いていくのである。
ユーロ圏の実質GDPは新型コロナにより、2020年、前年比-6.1%の大幅マイナスになったが、2年連続で増加し、2022年には2019年の水準を超えた。だが、2022年2月にはじまったロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアに金融・経済制裁を課したことからロシアとの貿易が途絶え、2023年、2024年は0.5%、0.9%へと成長率は急低下した。2025年は1.4%へと伸びたけれども、四半期でみれば2025年第1四半期の1.7%をピークに4四半期連続で伸びは鈍化、2026年第1四半期は0.3%と2023年第4四半期以来9四半期ぶりの低成長となった。
ユーロ圏経済が低迷している原因のひとつはユーロ圏の盟主と言われているドイツ経済が不況に陥っているからだ。ドイツはユーロ圏経済を牽引するのではなく足を引っ張っているのだ。2021年以降、ユーロ圏経済はプラス成長を続けていたが、ドイツは2023年-0.9%、2024年-0.5%と2年連続のマイナスとなり、2025年も0.2%の微増にとどまり、2026年第1四半期も0.3%の低空飛行を続けており、不況下にある。
ドイツは、かつてはユーロ圏実質GDPの34%超を占めていたが、2025年には27%に低下、これは2009年を下回り、1960年以降では最低となった。それだけドイツはユーロ圏経済に及ぼす力が低下したことを示している。
名目ベースでは、ドイツの世界GDPに占める割合は1979年の8.7%が最高で、1985年には5.6%に低下したが、東西ドイツ統一後の1992年は8.4%まで上昇、だが、その後は低下し続け、2024年は4.2%である。因みに、日本の世界GDPに占める比率は1994年の17.9%が最高であり、富士山型になっている。両端に当たる1960年3.5%と2024年3.6%はほぼ同じであり、2024年の日本の世界GDPに占める割合は64年ぶりの低水準なのである。日本ほど極端に経済的地位が落ちている国は稀だ。円が売られるのは無理もないことだ。
ドイツ経済が振るわないのはなぜか。2023年の実質GDPが前年比-0.9%に沈んだのは、最終消費支出や粗固定資本形成など内需がマイナスになったほか外需も低迷したからだ。2024年、最終消費支出は回復したけれども、設備投資は引き続き前年割れとなり、外需は3年連続減となった。2025年、外需が前年比37.1%も落ち込んだが、内需増によって辛うじて0.2%のプラスになった。
2025年の粗固定資本形成は3.3%増加したが、新型コロナ以降、世界需要の回復の遅れから、ドイツ企業の設備投資意欲は低下した。2019年にすでに前年割れとなり、2025年までの7年間のうち5年はマイナスだった。設備投資意欲を冷やしているのは世界景気の低迷であり、それの影響を直接受けているのが輸出である。輸出はドイツ経済の生命線であり、外需でドイツ経済は成長してきたと言える。
10年毎の実質GDP増加額を内需と外需に分けてみると2005年までの10年間の外需増加額は内需増加額の71%であったが、2015年までの10年間では32%、2025年までではマイナス40%であり、外需はドイツ経済の成長に負の要因になってきている。
旧共産主義国家の西側への体制転換という歴史的な激動がドイツ経済を躍動させた。日本と同様、敗戦国となり廃墟のなかから復興し、それから約45年後に再び経済的に遅れていた東側が資本主義経済に組み込まれたことによって、その最大の恩恵をうけたのがドイツだった。新たな需要が創出され、そこに企業は進出し、消費需要と設備投資需要がドイツ経済を潤した。
しかし、時間の経過とともに、特需と言われる要因も消えてしまい、正常な状態に戻れば、成長が落ちていくのは当然のことだ。そうしたところへ新型コロナやウクライナ戦争、さらには米国とイスラエルのイラン攻撃といった人為的攪乱要因が加わり、ドイツ経済の成長は止まってしまった。
IMFによれば、2026年の世界の実質GDPは前年比3.1%と2025年よりも0.3%p低下し、2027年は3.2%と予想されている。エネルギー価格の上昇はあらゆる分野の価格を引き上げ、需要を抑制し、経済活動を低下させることになる。ものやサービスの価格の上昇は世界経済にも伝播していき、世界貿易の伸びを鈍化させることになる。
ドイツの最大の貿易相手国は米国だが、トランプ関税によって対米輸出は減少しており、2026年1月~4月の対米輸出は前年比16.4%減だ。一方、エネルギー価格の上昇によって、2021年と2022年の輸入額は前年比16.5%、26.0%それぞれ増加し、貿易バランスは大幅に縮小した。2025年の貿易バランスは2,016億ユーロであり、2016年2,489億ユーロを下回ったままである。
ドイツの天然ガスの価格は2020年、3,386(ユーロ/Terajoule)だったが、2022年23,919へと急騰、2023年11,946、2025年10,708へと低下したが、それでも2020年の安値に比べれば3倍である(今年3月は13,512)。天然ガス同様、原油価格も2020年、283(ユーロ/Ton)だったものが、2022年には685へと2.4倍に急騰、その後、低下していたが、今年3月は615に値上がりしている。こうした天然ガスと原油の高騰がサービス価格にまで浸透、生産コストを引き上げ、ドイツ企業の国際競争力を削いでいる。
機械設備などの設備投資は2015年までの10年間の伸びは26.4%であったが、2025年までの10年間では16.9%に鈍化しており、設備投資に占める政府比率は2005年の13.3%から2025年には19.5%に上昇、総付加価値に占める製造業の割合は2005年の21.9%から2025年には19.5%に低下した。今年3月の独製造業生産指数は90.5(2021年=100)であり、ウクライナ戦争前を10%pほど下回っている。主力産業の自動車、機械、化学工業などの競争力低下が製造業を弱体化させている。フォルクスワーゲン(VW)やベンツの業績は急激に落ち込んでいるが、回復の目途は立たず、VWは軍需産業への再参入を検討しているようだ。業績悪化だけでなく、ロシアとの関係悪化もドイツ産業界の軍需品生産への参入を促している。ドイツ経済の景気低迷が長引けば、米国のように、ドイツも軍産複合体という戦争を前提にした経済へと進んでいくのではないか。
高市政権下で日本も軍事費を拡大しており、軍産複合体がより強力になっている。軍産複合体を成立させるには軍事力強化と戦争である。戦争がなければ、軍事品はそのまま在庫としていつまでも倉庫に保管されているだけで、それでは生産は止まってしまうからだ。軍産複合体を維持するには戦争が不可欠なのだ。日本もドイツも敗戦国でありながら、軍備を増強する道を進んでいる。嘆かわしいかぎりである。