財務省の『対内証券売買契約等の状況』によれば、今年5月までの5カ月間に、外人は日本株等を9.9兆円買い越しただけでなく、中長期債等のネットの買いも11.8兆円と株式を上回っている。外人の債券買いは今年になって始まったわけではなく、2024年2.6兆円、2025年14.4兆円を買い越し、株式の2024年1.2兆円、2025年7.8兆円を上回っている。
外人はなぜこれほど日本の債券を買うのだろうか。2023年末の10年債利回りは0.615%だったが、2024年末1.09%、2025年末2.06%、先週末2.665%へと急激に上昇している。外人は、この利回りが上昇する過程で多額の日本債を購入したのである。ものでも有価証券でもその値段が安くなれば需要は増加する。債券利回りの上昇は債券価格の下落であるから債券には外人買い注文が続々と入ってきたのだ。
外人は今年5月までの過去5カ月で債券等をすでに11.8兆円もネットで購入しており、2025年のネット買いの8割超に達している。おそらく、外人は日本債の買い場だと思っているのだ。これからの債券の売買判断は、今後、どこまで利回りが上昇し、債券価格が下がるかだ。利回りがピークに達したと思われるところが、債券買いの最終地点となる。予測通りに債券価格が推移するかどうかわからないが、外人はそのようなシナリオに沿った債券運用をしているようだ。
債券利回りがピークアウトすれば、債券価格は上昇することになるので、これまでに安く仕入れた債券を売ることで、売却益が生まれることになり、買いではなく売り姿勢が強まるだろう。利回りの2%台後半はピークに近いのではないか。前号でも指摘したが、日本の過去10年間の名目GDPは年率1.96%、過去30年間では0.75%である。過去10年間の伸びが高いのは、新型コロナやウクライナ戦争といった特殊要因が物価を引き上げた結果であり、日本経済の真の姿を表していない。過去30年間がより真実に近く、おそらく長期経済成長率は1%に届かないだろう。日本経済の長期期待成長率を1%と想定すれば、現状2.665%の利回りは、それをはるかに超えている。かなり行き過ぎており、今後、利回りは1%前後に向かって低下していくことになるはずだ。
このような見通しに立つならば、当面、イラク問題などがCPIの上昇やものの供給不安を引き起こすかもしれないが、少し長い目で見れば、物価は落ち着き、債券利回りは低下していくだろう。日本の債券利回りが低下傾向をみせ、米債利回りが現状程度で推移するとすれば、日米の利回り格差は拡大することになり、円ドル相場は円安ドル高に進むことになる。
現状の円安ドル高はこうした先行きの円安ドル高期待に依拠している。2.665%という高い利回りでは、日本経済の足取りはますますおぼつかなくなるからだ。実体経済の実力以上の高い利回りでは、先行き利回りの低下が予想され、流動性資産が選好される。
日本経済に、成長が期待できる要因を見出すことは難しい。成長の原動力となるGDPの半分以上を占める家計消費が良くなるとは見通せないからだ。家計消費がいままでのような不振を続ければ、いくら設備投資や他の部門が頑張ったところで、その影響力はたかが知れている。そもそも最終消費が伸びずに、設備投資だけが拡大することはない。家計消費が旺盛になってはじめて設備投資は活気付くのだから。
消費を担う人口は深刻な事態に陥っている。厚生労働省の『人口動態統計(概数)』によれば、2025年の出生数は67.1万人、10年前の2015年は100.5万人であり、まさに出生は激減、様変わりした。一方、死亡数は158.9万人、前年比-1.0%と2020年以来のマイナスとなり、自然減も前年より約千人減の91.8万人。年90万人超の自然減が続くことになれば、10年間の減少数は900万人超となる。これだけの自然減が起これば、経済成長などを語ることはナンセスではないか。
総務庁によると、今年5月1日現在の日本の総人口は1億2281万人、前年比53万人減だ。これは外国人が前年比33万6千人増加(昨年12月1日現在)しているからだ。外国人の総数は392万5千人、日本総人口の3.19%を占め、外国人の流入で自然減を和らげている。だが、5歳刻みの人口(今年5月1日現在)は25~29歳の660万人から年齢が下がるにつれて減少し、0~4歳は373万人しかいない。15歳未満は1327万人と75歳以上2155万人(男865万人、女1290万人)のなかの女だけの人数ほどしかいないのである。
2年連続で微増した昨年の婚姻数は48.9万件、2015年は63.5万件だった。出生数は婚姻件数の関数であるが、結婚年齢が上昇し(2025年の平均初婚年齢、男31.0歳、女29.7歳)、第1子出生時の母の平均年齢が31.0歳に上昇していること、子供を産み育てることへの負担感などが加わり、2025年の合計特殊出生率は1.14と2015年の1.45から大幅に低下し、過去最低を更新した。
出生数がこれだけ深刻になっているが、政府の認識は十分ではなく、対応は姿勢を示すだけだ。自民党は票や金に結びつかない人口問題を重要な政策課題にしない。目先の時間が解決してくれる問題だけを取り上げる。子供よりもミサイルなのである。なにの危機もないところへ、あたかも危険が迫っているかのような表明を繰り返し、オオカミ少年のような振舞いをしている。政府は急速な人口減により、活力が失われ、国力の衰退に直面していながら、人口問題はそっちのけで、ミサイルに注力するまさに国を亡ぼす政策に熱中しているのだ。
企業は有給休暇や育児休暇の完全取得、労働時間の厳格化、労働分配分の引き上げなどに真剣に取り組んでいるのだろうか。企業の杜撰な労務政策が日本経済の長期停滞の原因のひとつであることは間違いない。財務省の『法人企業統計』によれば、2021年第1四半期から2026年第1四半期までの5年間の従業員賃金(給与+賞与、全産業全規模)は1.20倍と売上高の1.22倍を下回っている。同期間、賃上げがかなり喧しく言われていたが、実際は売上高の伸び以下に抑えられていた。賃金の抑制によって、売上原価も圧縮され、同期1.18倍となった。販管費は1.24倍と売上高の伸びを上回ったが、売上原価の27%ほどであり、営業利益は1.65倍に増加した。
人件費を抑え、売上原価も圧縮する経営を続けてきたが、それでは経済はうまく動かない。売上原価を削減することは売り手の収入減となり、その人たちの購買力が低下し、消費に悪影響を与えるからだ。バブル崩壊後、売上原価を絞り、購買力を低下させ、さらに売上原価を引き下げる、こうした悪循環が今も続いており、企業に対抗できる労働組合がなければ、この悪循環を止めることはできない。
経済の悪循環が続き、日本の成長がほとんど止まることが予想されれば、円ドル相場だけでなく、ユーロや人民元でも円安になるだろう。GDPの規模、一人当たりのGDPなどの世界順位は低下しているが、時間の経過につれて、順位はさらに下がるだろう。順位が落ちるにつれて円は売られ、1ドル=200円には予想外に早く到達するかもしれない。
4月のCPIは前年比1.4%と4カ月連続の1%台半ばであり、2025年1月の4.0%(ピーク)から大幅に低下している。政策金利を上げなくても物価は自然に低下していっている。政策金利で物価を均すことはできない。政策金利で物価を自由に手なずけることができるのであれば、物価は政策の対象にはならないことになる。
日銀は利上げするとしても高々0.25%である。このような小刻みの利上げで、なににどれほどの影響を与えることができるのだろうか。ひとつ言えることは、利上げのときが、債券利回りを低下させる契機になるかもしれない、ということだ。利上げにより、円ドル相場を是正させたいという考えを持っていたら、そうした思いは捨てなければならない。債券利回りの低下によって、まったく逆の円安ドル高を一層強める結果が予想されるからだ。
日本経済にとって政策金利は1%が上限なのだ。もはや、政策金利も出尽くし、介入でも効果なしの手詰まりとなり、投機筋はここぞとばかりに一気に大規模な円売りドル買いを仕掛けるのではないか。