バブル期よりもさらに高い伸びをしていることは、バブルだということだ。バブルで酔いしれ、その後の崩壊で、どれほど苦しい思いをしたのかを思い起こす必要がある。日経平均株価が崩壊後の底値をつけたのはピークの19年3カ月後の2009年3月10日(7054円98銭)であった。リーマンショックが加わり、バブル最高値から81.9%も急落してしまった。底値の格言として知られている「半値八掛け二割引」をさらに上回る下げとなり、その間、破綻企業が相次ぎ株券の多くは紙屑やそれに近いほぼ無価値になっていった。
政府と一体に行われた日銀のゼロ・マイナス金利、国債の購入、株式購入などによって、株価は回復、バブル後の底値から15年後の2024年2月22日にやっと1989年末の最高値を超えた。1989年末の高値更新には34年2カ月の月日を要したことになる。一旦、バブルが崩壊すると回復するまでには長期間掛かるだけでなく、今もまだ後遺症に悩まされているように、精神的ダメージや経済的損失は計り知れない。
1980年代のバブルを記憶にとどめている人達が少なくなってきていることも気掛かりである。バブルが崩壊すれば、資産の大幅減価により資産の売却で負債を返済できなくなり、債務超過になる。1980年代のバブルは株式に加えて不動産も投機によって膨張、この二つのバブルが弾け、数百兆円を超える資産が吹き飛んだ。今回も株式だけでなく不動産も都市部を中心にバブル化しており、1980年代に似ている。日本不動産研究所の『市街地価格指数』によれば、今年3月末の東京区部の商業地と住宅地は前年比10.1%、8.6%それぞれ上昇し、GDPの伸びを上回っている。特に、東京区部の新築マンション価格は異常な値上がりを示している。不動産経済研究所によれば、2023年以降、価格の上昇が目立ち、2025年、東京区部新築マンション価格(中央値)の上昇率は前年比27.3%、今年4月は38.9%も急騰している(単価㎡は34.1%)。一方、資金の借入コストは急上昇している。2023年末の10年物国債利回りは0.615%だったが、2024年末1.09%、2025年末2.06%、今年5月末2.65%へと上昇しており、これに連動して住宅ローン金利も引き上げられ長期では4~5%となっている。過去10年間の名目GDPが年率1.96%しか伸びず、住宅ローン金利がこれをはるかに上回っていることは、借りることができたとしても行き詰まることになる。
なぜ、これほど日経平均株価が値上がりするのだろうか。日本取引所グループ(JPX)の売買状況(東証プライム)によれば、外人は5月第3週まで3週連続で計2.2兆円を買い越している。今年に入ってから、3月は売り越したが、4月だけで5.7兆円を買い越し、今年1月から5月第3週までの買い越し累計額は10.77兆円と記録的な買いである。暦年では2023年以降、買い越しており、2025年までの3年間の買越額は9.49兆円だが、今年は、半年も経過していないが、10兆円を突破し、これまでにない大規模な外人買いと言える。JPXの『海外投資家地域別株券売買状況』(全国証券取引所)によると、今年4月までの4カ月間、欧州が5.07兆円と外人総買越額の57.9%を占めており、これまで通り、欧州主導の日本株買いが持続している。
なぜ、外人がこれほど日本株を買うのだろうか。ドルなど外国通貨に対して円安が続いていることがその理由の一つに挙げられる。訪日外国人が増加傾向にあるのも円安が背景にあるからだ。人民元をはじめアジア通貨にたいしても円安が進行しており、日本へは行きやすく、日本でものを買うこともたやすくなっており、円安が日本行きを掻き立てている。
株式も同じ理屈なのである。ドルやユーロは長期的に対円で強くなっており、円が安いことはもの同様、日本株も安く買える、だから買うという流れが続いている。長期の日経平均株価と円ドル相場の関係をみると円高ドル安局面では株価は下落し、円安ドル高では株価は上昇するという関係を大まかに捉えることができる。
円高局面の一例として1985年9月のプラザ合意後を見てみよう。プラザ合意によって、ドル高是正は一気に進んだ。その過程で、外人はその前年の1984年には日本株を売り越し、1987年の売り越し額は8.5兆円に拡大、1990年まで7年連続で売り続け、売り越し額は合計22.9兆円に達した。が、それでも1989年末には最高値を付けた。銀行、投資信託、保険が大幅に買い越したからだ。
日経平均株価がバブル後の底値を付けた月の2009年3月末の株価は8,109円、円ドル相場は1ドル=98円であった。今年5月末は66,329円、159円である。株価は8.1倍に拡大し、円ドル相場は61%の円安となった。8,109円の株式を購入するにはその時の為替レートで82ドルを要する。今では、8,109円が66,329円に値上がりし、現在の為替レート159円でドルに換えても417ドルになり、円ベースを下回るものの5.1倍にもなっている。円安傾向が持続すると自動的にドルやユーロの円購買力は大きくなり、日本株の購入意欲は高まる。ドルに換える場合、円安がマイナスに作用するけれども、株式の値上がり益は為替のマイナスなど無視できるほど大きいのである。
日本株は円高では売られ、円安では買われるようになっている。プライム市場では委託売買代金の7割近くを外人が支配しているからだ。外人が買う大前提は外人の保有している通貨の価値が上がる円安場面だと言える。したがって、これからも外人が日本株を買うには円安が持続しなければならない。円安から円高に向かうことになれば、円を保有していない外人は日本株を買いにくくなる。
為替相場を決めるのは国力であり、その代理に名目GDPを用いよう。過去10年間の名目GDPは米国の年率5.55%に対して日本は1.96%である。経済成長力に2倍以上の開きがあり、今後10年間も過去10年間と同じような格差が持続するならば、円安ドル高基調に変わりはないだろう。
今、10年物の国債利回りは米国4.43%、日本2.65%%である。過去10年間の年率成長率に比べると、米国の利回りはGDPの伸びを下回り、日本は上回っている。10年債利回りは10年後の経済成長率見通しを睨みながら変動するけれども、過去10年の実績も無視できない。
さらに長期の過去30年間のGDP年率の伸びは米国4.76%、日本0.75%と日米の格差は甚だしい。米国では過去10年間の成長率が過去30年を0.79%p上回っており、年率5.55%を維持していくことは難しいことがわかる。一方、日本の過去10年は過去30年間の伸びよりも1.21%pも高く、過去10年間のような高い成長は期待できない。新型コロナによって、それまでゼロ近辺でほとんど上昇していなかった物価が急に上昇したことが、名目GDPを嵩上げしており、こうした特殊要因を除けば、これほどの変化はなかった。
10年間と30年間の経済成長率をみることによって、10年後がどのようになるのかをある程度予測することができる。米国は5.55%から4%台へ、日本は1.96%から1%前後へと大幅に低下するだろうと言う具合に。
先週末の日米10年債利回りは米国が日本より1.78%p高い。2023年10月には4%pを超えていたが、日本の利回りの上昇によって、格差は半分以下に縮小した。これほどの利回り格差の縮小過程では、円高ドル安が進行するはずだが、未だに160円を試みている。こうした円安ドル高への動きが衰えないのは、利回り格差の縮小は一時的であり、近いうちに再び利回り格差は拡大するだろうと投機家は予想しているからだ。
過去10年間の日米成長率格差は3.59%p米国が上回っていたが、10年後も同じくらいの成長率格差になるだろう。そうであれば、円ドル相場は今の円安ドル高基調を続けることになる。米債利回り4.43%はもっと上がり、日本の2.65%は低下するだろう。米債利回りが上がり、日本が下がる見通しに立てば、円安ドル高に進むことになる。
円安ドル高が進行するならば、日本株は買われることになるだろう。だが、1980年代後半のバブル期以上に急騰している時に、買うことは勇気のいることだ。ババを掴む恐怖心が売買を躊躇させる。バブルに目をつむり、行くところまで付いて行くしかないとの方針なのだろうか。1ドル=160円の壁を乗り越えたところが山場になるのだろうか。あるいは170円、180円へと為替目標をさらに引き上げて、日本株の買い増しにうごくのだろうか。