GDP統計、家計消費の推計に疑義あり

投稿者 曽我純, 5月25日 午前8:53, 2026年

内閣府によれば、今年第1四半期の実質GDPは前年比0.6%と3四半期連続の1.0%未満の低い伸びとなった。だが、民間最終消費支出(PC)は1.0%と5四半期連続で1%台の伸びを維持している。PCはGDPの51.5%を占めているので、これだけで0.51%pGDPを押し上げたことになる。GDP統計はあくまでも他の(推計)統計から推計したものであり、推計の推計で、どこまで実態をあらわしているか、定かではない。

PCはGDPの半分以上を占めるためPCの推計は、より慎重に正確に行わねばならぬ。今年第1四半期、PCは本当に前年比1.0%伸びたのだろうか。PCのうち家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く、CH)はその79.1%を占めており、PCの帰趨はCHで決まるといってよいだろう。

総務省の『家計調査』によれば、総世帯の今年第1四半期の消費支出は名目前年比-0.3%と3四半期連続で伸びは鈍化し、当期はマイナスになった。CPIで実質化すれば昨年第4四半期もマイナスになり、今年第1四半期は-1.7%になる。経済産業省の『商業動態統計』でも今年第1四半期の小売業売上高は名目前年比1.2%であり、実質では-0.2%になり、CHの前年比1.0%増は非常に疑わしい。

実質CHが前年割れになっていれば、実質GDPもマイナスになっていた。昨年第4四半期の実質GDPは前年比0.2%であり、CHの寄与度が0.6%pだからだ。寄与度が半分の0.3%pに低下するだけでマイナス成長になり、CHが前年割れになれば、マイナス幅は拡大する。今年第1四半期の実質GDPは0.6%と前期を上回ったが、例えば他の項目は変わらず、CHが1.7%減となっていれば、実質GDPは前年割れになり、2四半期連続のマイナス成長になる。

GDPはほんの少しの推計の仕方を変えるだけで、プラスにもマイナスにもなる。内閣府という政府機関、特に、内閣総理大臣を補佐する重要な行政機関がGDPを推計しているのだ。できれば、高市内閣にとって好ましい数値がでるように、というバイアスが常にかかっているはずだ。GDP算出作業は、内閣の意向を忖度しながら行われているのでは、と外部からはみられても不思議ではない。本来、GDPの計算には、内閣から離れた独立性の高いところでする仕事なのだ。高市首相と直結している場所でする仕事ではない。

実質CHの今年第1四半期と10年前の2016年第1四半期を比較すると0.98倍とマイナスになっている。これだけ消費が伸びないのは、雇用者報酬が同期間実質1.021倍しか増えていないからだ。

雇用者報酬を名目でみると2025年度は前年比3.6%増加し、2021年度以降5年連続増である。だが、実質では2025年度も0.6%にとどまり、購買意欲を高めるような伸びではない。こうした雇用者報酬の低い伸びが一過性であれば、消費にそれほどの悪影響を及ぼすことはないが、恒常化しているため、消費者の節約志向はそのまま継続されることになる。2021年度以降、雇用者報酬は毎年名目プラスだったが、実質では2022年度、2023年度、1.2%、1.7%それぞれ減少し、最大でも1.2%増しか伸びていない。

1994年度から2025年度までの31年間の雇用者報酬の伸びは名目年率0.69%、実質0.39%であった。同期間、CHはどうかというと名目0.66%、実質0.39%であり、雇用者報酬と同じであった。これからのCHも過去31年間の伸びを維持できれば良いほうだ。超少子化と超高齢化、さらに人口減が加わり、消費が拡大する要因はどこにもない。企業は賃金を実質でも1%未満(過去2年間では0.87%)に抑えるだろう。そうであれば、CHも低空飛行を続け、延いてはGDPもこれまでのような超低成長から抜け出せないことになる。

2025年度の名目GDPは669.9兆円、前年比4.2%増加した。ただ、2025年度までの10年間では年率1.95%である。2025年度、GDPデフレーターが前年比3.4%も伸び、このかさ上げ分を除いた実質GDPは0.8%である。実質GDPの過去10年間の年率の伸びは0.47%だったが、CHは-0.25%とマイナスであった。実質CHの実質GDPに占める割合は2015年度の44.3%から2025年度には41.2%へと3.1%pも低下した。PCの対GDP比は2015年度の54.7%から2025年度には52.1%へと低下しており、消費の低迷、貯蓄増、成長鈍化といった悪循環が持続していることを示している。これほどPCの対GDP比が低い国は先進国のなかではなく、日本のGDP構造は特異なのだ。企業が賃金分配分を引き下げている限り、低消費と高貯蓄による悪循環は止まらず、日本経済の成長率は低下し、世界経済に占める日本の地位は落ちていくばかりである。

世界での経済的地位が沈下していながら、そのことへの真剣な取り組みはそっちのけで、軍備増強に走り、憲法改正を企てている。国の劣化から国民の目をそらすために、ことさら軍備と憲法を全面に出しているのだろう。なにの問題もない軍備と憲法を問題にし、問題にしなければならない経済は問題にしない。しかも、目先しか見ず、長期の時間のかかる問題は見て見ぬふりをする。だから、日本経済は惰性で動いていくしかないのである。

これほど問題がはっきりしているにもかかわらず、企業は利益の最大化と株主優遇策を変えようとはしない。こうした企業行動が日本経済の活力を奪っているのだ。政官財が結託し、それぞれが甘い汁を吸うことだけに注力し、その他は適当にあしらわれている。戦後、自民党がほぼ政界を支配し続け、官財の奥深いとこまで自民党は入り込んでいる。自民党に楯突けば、たちまち干され、地位や金を失ってしまうことになる。自民党が独裁政治を続けていくことができたのは、自民党が官財を自由に使うことができ、日本全国にその力を網の目のように張り巡らしているからだ。政官財の関係はより強固なものになっており、そうした政官財の強い力が今の企業行動を正当化していると言える。消費の低迷に起因する経済の停滞など、利益が拡大している限り、企業は気にはしない。

 

売られすぎの債券(買い場)

4月のCPIは前年比1.4%と今年1月以降、1%台で推移している。トランプとネタニヤフのイラン攻撃で原油が高騰、ナフサ不足になっており、CPIはこの事態がいつまで続くかに掛かっている。もしトランプが攻撃を再開することになれば、イランの反撃は湾岸諸国の重要施設に向けられ、湾岸国からの原油や液化天然ガス等の重要物資は途絶えることになろう。そうなれば、世界経済は大不況に陥ることになる。そこまでトランプは実力行使するだろうか。事実上、トランプはイランに敗北しているので、イランの要求を呑まざるを得ない。ロイター(5月18日までの4日間調査)によれば、トランプ支持率は35%まで落ちた。中間選挙が約半年後に迫ってきており、このまま戦争が泥沼化していけば、選挙に勝つことは不可能だ。なんとか面子を保つことができれば、早期にトランプは手を引くだろう。

5月中にも戦争が終われば、WTIは60、70ドルの水準に戻り、CPIの上昇も軽いものにとどまるはずだ。当面、WTI高と円安ドル高がCPIを押し上げるけれども、戦争の終結により、驚くような物価高は回避されるだろう。

週末、10物国債の利回りは2.76%、4月のCPI上昇率を1.36%p上回った。2025年度までの10年間の名目GDPは年率1.95%であり、利回りがGDPよりも0.81%p高い。実質利回りがプラスで利回りがGDPの伸びを上回っていることは、債券利回りは上がりすぎている状態にある。日銀の政策金利を債券利回りは200bp上回っているが、これも債券利回りの行き過ぎを示している。2025年までの30年間の名目GDPは年率0.75%だったことに留意すれば、債券はかなり売られすぎと言える。

2025年度までの過去10年間のCPI上昇率は年率1.34%、同30年間では年率0.53%であった。過去10年間では新型コロナやウクライナ戦争等により、CPIは1%を超えたけれども、30年間の長期をみれば年率0.53%にすぎない。これが、本来の日本のCPIなのだと言える。過去30年間の名目GDP(年率0.75%)が日本経済の姿をあらわしている。こうしたGDP、CPIの示す値に債券利回りは整合していない。

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