「根拠なき狂乱」相場と米国防費

投稿者 曽我純, 5月11日 午前8:52, 2026年

前週比、日経平均株価は5.4%も上昇し、ナスダック総合(4.5%)をも上回り、過去最高値を更新した。プライムの売買代金は5月7日、8日と二日連続で10兆円を超えた。米国とイランの停戦合意成立に掛けた相場だ。妄想に取りつかれているトランプの言動に、市場関係者は異議を唱えていない。博打としては、政治体制は問わず、材料はなにでも構わないのである。相場が凪になるよりは、トランプが不確かな発信を繰り返すことのほうが、そのたびに相場が翻弄され、上下に激しくぶれるが、この変動は好ましいことなのである。

米株式も過去最高値を更新しているが、日本と同様、株高は実体経済とはなにの関わりもない。リーマンショック後の底値から昨年末までの約16年間で、NYダウは7.3倍に急騰したけれども、米名目GDPは2.12倍、個人消費支出も2.11倍にとどまり、株高が消費や設備投資などの実体経済に影響した跡は見えない。

FRBによれば、昨年末、米国の株式時価総額(非上場を含む)は111.3兆ドルだが、その42.3%、47.1兆ドルを個人が所有、非金融法人は3.6兆ドルにすぎない。ミューチュアルファンドは17.0兆ドル、外人は20.4兆ドルという所有構造になっている。個人がこれだけの株式を保有し、値上がりしても個人消費を引き上げるには至っていない。

昨年末の時価総額は昨年第4四半期の米名目GDP(31.4兆ドル)の3.54倍に当たる。これは1951年以降では最高倍率である。1990年代半ばまでは1倍以下であったが、ナスダック市場にシリコンバレーのベンチャー企業の上場が相次ぎ、相場が熱気に包まれていくにつれて、株価は上げ足を速めた。1996年には1,000程度であったナスダック総合は、2000年3月には5,000を突破、これによって米株式時価総額は引き上げられ、時価総額・GDP比は2倍を超えた。その後、ITバブル崩壊やリーマンショックにより1倍を割り込んだけれども、FRBのゼロ金利と巨額の債券購入によって、2014年第2四半期には2倍超と過去最高を更新した。以後、一時的な低下を除けば、株式は実体経済からますます離れていき、2021年第3四半期には3倍を超えた。そして、昨年第4四半期には3.54倍へと上昇し、米株式は糸の切れた凧のように舞い上がっている。

1990年代半ば以降の相場は「根拠なき熱狂」と呼ばれていたが、現状ではどのように表現したらよいのだろうか。「根拠なき狂乱」とでも言えるのではないか。因みに、昨年末の日本の株式時価総額・名目GDP比は3.06倍と3倍を超えている(株式時価総額は日銀の「資金循環」で非上場を含む)。

日米の株式は共に暴走中である。車が暴走すれば、最近の事故のようにガードレールに突っ込み、多数の死傷者を出すことになる。アクセルだけでなくブレーキも必要なのだが、政府を筆頭にアクセルだけを踏み続けている。これに対してだれも異を唱えず、ブレーキ役は不在。年中、笛や太鼓の音色を楽しんでいたいのか。全員が同じ考えに収斂したときほど恐ろしいことはない。「根拠なき狂乱」の果てはいかなる景色になるのだろうか。だが、お祭り騒ぎの最中に、為政者は次から次へと戦前の体制への回帰を企てている。株式はまさに目くらましなのだ。

人間、忘れやすいのか、1990年代のバブル崩壊のことは、頭の片隅にも残っていないのだろう。バブル崩壊過程の苦しみを経験し、記憶している人も少なくなってきている。市場経済が貫徹されていれば、多くの銀行や証券会社は破綻を免れなかった。バブル崩壊の尻ぬぐいをさせられたのは、家計だということを忘れてはいけない。日銀のゼロ、マイナス金利というでたらめな政策は家計の金利収入を激減させた半面、支払利息を減らすことで企業を救済したのだ。資本主義でもなんでもない、国家管理経済下にいまも置かれている。

今年第1四半期の米実質GDPは前年比2.7%、前期よりも0.7%p高くなり、2024年第3四半期以来、6四半期ぶりの高い伸びとなった。ただ、個人消費支出(PCE)は2.4%とGDPの伸びを下回った。2025年第4四半期までの6四半期はPCEがGDPの伸びを上回っていたが、PCEは少し減速してきたのかもしれない。特に、耐久消費財が前年比横ばいになったことが、PCEの伸びの低下に繋がった。今年5月のミシガン消費者信頼感指数は48.2と過去最低を更新、米国のイラン攻撃が、消費者マインドへ少なからず影響しているようだ。

PCEの前年比2.4%に対して民間設備投資は5.8%と2024年の第4四半期を底に勢いは増している。情報関連機器やソフトウェア等が設備投資を牽引している。WSTSによれば、2026年の世界の半導体生産は9,754億ドル、前年比26.3%伸び、なかでも米国は34.4%増と予想されている。半導体関連の好調さが持続すれば、米国経済は設備投資に支えられ、実質2%台の成長を続けるだろう。

ウクライナや中近東での戦争で大量のドローンやミサイルが使われているが、これらには最先端の電子部品や高性能半導体が搭載されている。これらの兵器は戦争に投入されれば、一回の使用で終わりになるため、軍用の半導体等の需要は逼迫しているのではないか。米鉱工業生産によれば、3月のコンピューター及びその関連機器や半導体等の生産は前年比10.1%、7.7%それぞれ伸びており、製造業の0.5%を大幅に上回っている。

消耗の激しい兵器用の特需が半導体や電子部品産業の生産拡大に寄与し、製造業の衰退をある程度防いでいるのだろう。今回は原油高が消費者の懐を直撃しているけれども、一方では戦争特需で沸いているところもある。米国経済は軍需産業を維持するために戦争が途絶えては困るのだ。戦争や紛争による特需がなければ、経済が機能しない軍産複合体という構造に米国経済は立脚していると言える。

今年第1四半期の米名目国防費は1.17兆ドル、前年比4.9%とGDPの6.0%を下回っているが、これは3四半期連続である。ロシアとウクライナの戦争が始まる2022年第1四半期の国防費は前年比-0.1%だったが、その後、増勢に転じ2023年第3四半期には9.7%に拡大、以降も高い伸びを保っていたが、2025年第1四半期から伸びは4四半期連続で低下、昨年第4四半期には3.3%に鈍化した。今年第1四半期は4.9%に反発したが、増加した要因は隊員サポートやミサイル増強などであり、隊員サポートは15.2%、ミサイルは56.9%も急増している。ミサイルの金額は91億ドルであり、これは1991年の湾岸戦争時の増産がまだ継続していた1992年第4四半期以来約33年ぶりである。これをみても米国がミサイル生産に必死になっていることがわかる。

今年第1四半期の米国防費は対GDP比3.7%であり、5四半期連続変わっていない。2022年第3四半期には3.5%まで低下し、これは1990年以降では最低であり、現状も対GDP比では最低水準に抑えられている。ウクライナでの代理戦争やイラン攻撃などで国防費は拡大していると予想されるが、対GDP比では安定しているのだ。

雇用の拡大も続いており、4月も非農業部門雇用者は前年比32.7万人増加しが、製造業は7.3万人減である。製造業雇用は1,255万人、民間の非農業部門雇用者に占める割合は9.3%である(日本の製造業雇用は969万人、全雇用の15.8%、今年3月の『労働力調査』)。増加しているのは、日本と同じようにヘルスケア46.7万人、公的扶助20.1万人などのサービス部門である。

コンピューターシステムデザイン等が前年比-3.9万人と減少に転じている。AIの普及は目覚ましいが、AIの進展によってAIが人の代わりになりつつあり、AI部門の人員減となってあらわれてきている。AIの進捗がAI雇用を脅かし、さらに進めば、AIに置き換わってしまいかねない。システムデザインに限らず、弁護士、会計士、医師などこれまで高度な技術や知識を要求されていた仕事ほど、AIに太刀打ちできなくなる時代になりつつある。

 

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