米敗北による株高と株高が経済に無力なわけ

投稿者 曽我純, 4月27日 午前9:12, 2026年

日経平均株価は一時6万円を超え、過去最高値を更新した。昨年末比18.6%高だが、今年3月末比以降だけで16.9%も値上がりしており、上昇のほとんどは米国とイスラエルのイラン攻撃以降ということになる。ナスダック総合は3月末比15.0%伸び、過去最高を更新したが、日経平均株価の伸びがやや上回っている。3月末比、NYダウは6.2%増にとどまっている。

イラン攻撃によって、ホルムズ海峡は封鎖されており、3月以降、湾岸諸国からの原油輸入は途絶え、この状態が続けば、日本経済は麻痺してしまう。米国は原油を自国で賄えるため、ホルムズ海峡が封鎖されても、量的には問題ない。原油がなくなることは日本にとっては死活にかかわることであり、株式どころではないのだが、これに反して、最高値を付ける異常な相場になっている。

原油の輸入ストップでもっとも被害を被る国の株価が、最大の値上がりをしている。最も、3月末比、TOPIXは6.3%と日経平均株価の伸びを10%pも下回っており、NYダウ並みである。日経平均株価とナスダック総合だけが、一部のハイテク、値嵩株によって引き上げられているという特異な動きをしている。

円ドルやその他の為替相場は昨年末から大きく変わっていないが、原油の急騰によって、主要国の10年債利回りはいずれも昨年末比上昇している。特にイギリスと日本が44bp、37bpそれぞれ上昇し、米国の14bpを上回っている。

原油の急騰によって債券利回りは上昇しているが、株式はきわめて堅調に推移している。こうした株高が成り立つのは、早期に、ホルムズ海峡の封鎖が解かれ、以前と同じように原油が世界に行き渡り、価格もイラン攻撃以前の水準に低下するという見通しに立脚している。投機家たちは、戦争の早期終結に掛けているのだ。

4月以降の日経平均株価の急騰を牽引したのは外人買いだ。3月、外人は2.24兆円売り越したが、その後、買い越しに転じ、4月第3週までに4.52兆円を買い越している。プライム市場の委託に占める外人の割合は4月第3週、66.4%であり、これだけの市場支配力があれば、株価は外人の売買によって決まることになる。

米国とイスラエルはイランの指導者を暗殺し、空爆とミサイルを撃ち込んだけれども、イランの体制は崩壊せず、米国とイスラエルのシナリオはすべて崩れた。逆に、米国はイランに攻撃してから、ホルムズ海峡を制圧することができず、イランの支配下に置かれることになった。ペルシャ湾湾岸諸国に駐留する米軍基地もイランの攻撃を受け、米軍基地は機能しなくなった。ホルムズ海峡と湾岸諸国がイランに支配されたことは米国とイスラエルの敗北以外のなにものでもない。

米国の敗北によって、イラクが和平交渉の主導権を握った。もし、再度、米国とイスラエルがイランを攻撃することになれば、イランは湾岸諸国の石油関連施設や淡水化装置等の重要施設を攻撃、そうなれば、世界経済は大不況に陥ることは間違いない。いくら、トランプでも世界経済をそこまで悲惨な状態に陥れるような決断はしないだろう。イランが米国に示した10項目を、米国はほぼ受諾することになるはずだ。

米国は製造業が衰退し、ミサイルの増産も思うように進展していない。最大の軍需企業であるロッキード・マーチンの今年第1四半期のミサイル等の売上高は36.4億ドル、前期比-9.2%、前年比8.2%であり、生産能力の限界に達しているようだ。従業員数も過去6年間で7.9%増にとどまり、人的な要因やさまざまな原材料・部品の調達難からも生産の拡大は難しいのではないか。

武器・弾薬の不足はイラン攻撃以前から、いやウクライナ以降すでに問題に上がっていた。今回のイラン攻撃は入念に練った計画に基づいたものではなく、イスラエルの無謀な試みにはめられ戦争であった。米国にとっては攻撃する理由はないにもかかわらず、攻撃したことにより、米国の軍事力や生産力などの実態が露わになった。

米国の名目GDPはイランの約60倍、これだけの経済格差がありながら、イランに敗北したことは、米国の経済的軍事的地位の失墜ではないか。また、トランプの支離滅裂な判断・決断は米国の政治システムが崩壊してかけている現状をあからさまにした。拉致や暗殺を大統領独断で行うことは民主主義を標榜する考えとは180度違う。米国は民主主義国ではなく、ならず者の独裁国家であり、世界で一番危険な国という評価が定まった。

前号で日本の男女賃金格差はOECDのなかでも最も酷い国であることを指摘しておいた。女性が男性並みの賃金を支払われたと仮定すると、企業利益は大幅に減少することになる。全体の賃金を抑えただけでなく、女性を搾取した結果、得られた利益だということをわすれてはいけない。早期に、この男女間の賃金格差をなくさなければならない。夢にも、男性の賃金を抑制したり、引き下げるようなことがあってはいけない。男女の賃金を同一にしてはじめて、企業は社会的責任を果たせたといえる。

国税庁の『民間給与実態統計調査』から、2024年の男女賃金差異を企業規模別にみると資本金10億円以上の大企業が最も大きく、女性は男性の54.0%である。2千万円未満は56.8%と大企業よりも高いが、平均給与は大企業の女性426万円に対して2千万円未満は277万円であり、大企業の65.0%である。男性の格差はさらに大きく、2千万円未満は大企業の61.8%に過ぎない。

5年前の2019年には大企業の男女賃金差異は48.7%と女性は男性の半分以下であったが、5年間に平均給与は男性の6.8%に対して女性は18.6%引き上げられ、54.0%まで格差は縮小した。平均給与の低い女性の賃金を引き上げることによって、総額を抑えたのである。

資本金10億円以上の大企業の女性賃金を男性と同じにすると10兆円の人件費増になる。『法人企業統計』によれば、2024年度の大企業営業利益は48.4兆円だが、女性の賃金増加分10兆円を差し引くと、38.4兆円になる。他の条件を不変とすれば当期純利益も約20%減少する。日経平均の株価収益率は20倍から25倍へと高くなり、配当利回りは1%近くまで低下し、債券利回り(2.435%)を大幅に下回る。現時点でも日経平均の配当利回り(1.5%)よりも債券利回りが高く、株式よりも債券が選好される状況にある。

2024年度の大企業税前利益は69.8兆円、これから法人税等11.3兆円を支払えば、当期純利益は59.2兆になる。当期純利益59.2兆円は配当金29.6兆円と社内留保29.5兆円へと均等に配分されている。それにしても配当金が税金の2.6倍もの規模とは驚くべきことだ。10年前の2014年度の税金は8.5兆円、配当金12兆円に比較すれば、2024年度は税金1.32倍、配当金2.46倍である。配当金の4割にも満たない税金を納めているだけで、大企業は社会的責任を果たしていると言えるのだろうか。

国税庁の『会社標本調査』によると、単体法人(事業年度区分年1回)のうち利益法人は117.5万社、欠損は179.5万社と欠損が60.2%を占める。資本金10億円以上では、利益2,323社、欠損978社となっており、大企業でも3割近い企業が欠損企業なのである。欠損していれば法人税、地方法人税、法人事業税は免除される。すべての法人の60.2%は主な税金を支払っていないのだ。

巨額の配当金を株主は懐に入れているが、その配当金というものが日本経済のどこにもみえない。証券保管振替機構の『属性別株式保有残高状況』によると、2026年3月期末の株式時価総額は968兆円。このうち個人(居住者)の151.3兆円保有に対して、居住者法人と非居住者法人は479.6兆円、337.2兆円をそれぞれ保有している。個人は15.6%しか保有しておらず、残りはすべて法人が持っているのだ。

個人は配当の15.6%しか受け取ることができないのだが、その多くは高齢者のものなのだ。『年齢別株式保有金額分布状況』(時価総額)によれば、40歳未満は個人配当の4.4%しか持っていない。40歳から60歳未満の保有比率は23.9%に上昇するけれども、60歳以上の保有率66%に比べれば半分にも満たない。70歳以上でも配当の42.4%を保有しており、配当は高齢者に偏っていることがわかる。

『法人企業統計』によれば、2024年度の大企業の配当金は29.6兆円だが、『年齢別株式保有金額分布状況』に従えば、個人へ分配されるのは4.6兆円であり、このうち3兆円は60歳以上が受け取るのだ。このように個人は配当金の分け前がすくなく、しかも高齢者に極端に偏っていることが、配当金の経済への影響を無力にしている。

国内法人と外国法人が配当金の14.6兆円(配当金の49.5%)、10.3兆円(34.8%)をせしめている。外人に10兆円分捕られているが、国内法人は結局、配当の半分を自分へ還流させているのだ。気前良く配当金を増額し、投資家を喜ばせているが、実は、そのうまい汁を吸うのは法人だということを知っておく必要がある。

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