4月11日、パキスタンのイスラマバードで米国とイランの和平交渉が始まった。米側はバンス副大統領とオマーンでイランと交渉を務めたウィトコフ、クシュナーという二人のユダヤ人が加わっている。この両名は米国代表というよりもイスラエルを代表、代弁する人物である。イスラエルにとってはウラン濃縮の停止、核開発の放棄、弾道ミサイル開発の停止、レバノン、シリア、イエメンへのイラン支援停止は戦争終結に不可欠な条件である。米国にとってはホルムズ海峡の自由航行が譲れない。ウィトコフ、クシュナーはこれらをイランに受諾させることに必死に取り組むはずだ。はたして、このような条件をイランが呑むだろうか。おそらく、米国がイランに損害賠償するなどの好条件を示さない限り、イランは交渉を打ち切り、交渉決裂、戦闘の再開になるだろう。
今回の米国のイラン攻撃は、イスラエルの中東で最大の強敵で目障りなイランを叩き潰し、米傀儡政権の樹立を目的としたものであった。依然、イスラエル・ロビーは米政権を牛耳っており、米国には戦争する大義がないにもかかわらず、イランの指導者を暗殺、攻撃した。昨年からイラン・リヤルを暴落させ、経済面から攻めていたが、それでは体制を覆すことはできず、今度はイラン最高指導者を暗殺する非道手段に出た。ベネズエラの大統領拉致が首尾よく達成されたことに味を占め、米国は安易にイランを攻めた。しかし、最高指導者を葬っても体制は揺らぐことはなく、米国とイスラエルの最大の目的は達成されなかった。イスラエルが恐れていたイランの核施設についても破壊することはできず、イラン攻撃はなにの成果も得られなかった。つまり、米国とイスラエルはイランに負けたのである。
トランプはヒットラーを彷彿させる数々の暴言を発しているが、主要国の指導者たちはトランプに立ち向うことなく、民主主義を守ろうとはしなかった。高市首相や茂木外相、木原官房長官たちは一言もトランプの暗殺などの蛮行に言及することなく、沈黙するだけであった。彼らは日本国憲法の平和主義を今こそ、米国や世界に発信しなければならないのだが、正義も勇気も持ち合わせていない木偶の坊なのだ。
イラン攻撃だけでなく、これまでのトランプの言動によって、米国は世界から蔑まれ、米帝国は崩壊しつつある。「暗殺国家」であることを明確にした米国を、だれが信頼するのだろうか。信用は地に落ち、米国ほど酷い国はなく、その最悪の国と日本は同盟関係にあるのだ。
米国では三権分立は瓦解しており、軍とCIAに支えられているトランプの独裁政権なのだ。中国を共産党独裁と非難するけれども、まだ中国のほうがまともな議論を展開し、政治と経済を運営しているのではないか。日本は米国との絆を強くすればするほど、世界から見下され、孤立していくだろう。
和平交渉で折り合いがつかず、再び戦争になれば、ホルムズ海峡は閉鎖され、日本など中東産原油に依存している国は、原油不足と原油高によって経済は打撃をうけるだろう。原油の量と価格がどの程度になるかで影響は違ってくる。
米国のイラン攻撃後、WTIは急騰し、4月7日には1バレル112.95ドル、攻撃以前に比べて68.5%の上昇である。先週末は96.57ドルに低下しているが、それでも100ドル近い高水準が持続すれば、CPIは間違いなく上昇し、消費者の購買意欲は低下するなど経済は圧迫される。しかも、2度の石油危機やロシアのウクライナ侵攻では価格が高騰しただけであり、供給は確保されていた。だが、今回は輸入量の大半が止まっており、供給が脅かされているかつてない深刻な状況下にある。しかも円安ドル高であり、円建ての原油価格は過去最高に達している。
原油価格の急騰と供給不安は景況感や消費者心理にすでに表れている。内閣府の『景気ウォッチャー調査』によれば、3月の「景気の現状判断DI」は42.2と前月を6.7ポイント下回り、2022年2月以来約4年ぶりの低水準に落ち込んだ。「景気の先行き判断DI」は38.7と前月比11.3ポイント低下し、2020年12月以来となり、数カ月先の見通しは現状よりもさらに悲観的。同じ内閣府が公表した3月の「消費者態度指数」も33.3と前月比6.4ポイント低下するなど景気や消費者マインドは急速に悪化している。
米国のイラン攻撃後、ホルムズ海峡はイラン支配が続いており、米国は手が出せなかった。イランはホルムズ海峡を簡単に手放すことはない。そうであれば、和平交渉は暗礁に乗り上げ、戦闘が始まり緊迫した状態に戻ることになる。
和平交渉の期間、米国とイスラエルは戦闘態勢を構築するための時間稼ぎをしているとも考えられる。米国は武器・弾薬が不足しており、軍需産業はフル生産でミサイル等を生産しているはずだ。USCensusによれば、今年2月の米軍需資本財出荷は前年比27.0%の173億ドルであった。2022年6月を底に軍需資本財出荷は増加の一途をたどっているが、特に、2025年以降、出荷の増加傾向は一段強まっている。2022年6月から2024年12月までの30カ月間に出荷は1.22倍になったが、2026年2月までの13カ月間では1.25倍に拡大しているからだ。1992年以降の統計では、軍需資本財出荷がこれほどの増加を経験したことはない。トランプ政権は軍需品の生産に躍起になっていることが窺える。
イスラエルは今回のイラン攻撃で徹底的にイランを潰し、できれば崩壊させたいのだ。そのためには単独では難しく、米国の支援が欠かせない。イスラエル・ロビーは今もトランプに硬軟織り交ぜ懐柔しているのではないだろうか。今回のイラン攻撃によって、世界最強と言われている米軍事力に問題があることが露呈するなど、これ以上イランに深入りすることは、政治的にも経済的にも得るものはなにもない。一方、トランプ支持率は低下し、中間選挙も劣勢になるなどマイナス面が露わになる。だから和平交渉に至ったのだが、イスラエルが言うことをきかない。
ウィトコフ(不動産弁護士でトランプは顧客の一人)、クシュナー(トランプの娘婿、不動産開発業、投資家)という二人のユダヤ人が交渉に加わっていることから、米国は和平交渉でイランに譲歩する考えはないのだ。最初から合意することは頭の片隅にもなかった。トランプは11日、「合意するかどうかは私にとって違いはない。われわれは勝利したからだ」と語っており、和平交渉は米国民への言い訳にすぎないと受け取れる。
高市首相は7日、「年を超えての供給確保にめどがついた」というが、戦争継続で中東原油が輸入できない事態が続くならば、めどがついていても供給不安感と物価上昇で経済活動は麻痺するだろう。
財務省の『貿易統計』によれば、2025年、日本が輸入した原油と粗油は13,717万klであり、一日当たりでは37.58万klである。中東からの原油と粗油の輸入量は12,896万klと全体の94.0%である。昨年末の石油の備蓄量は7,157万kl、中東輸入量の55.5%に当たり、中東産原油が途絶えた場合、この備蓄量では200日しか持たない。つまり、代替輸入がなければ、10月には備蓄は底をつくことになる。米国からの原油等の輸入量は525.8万kl、総輸入量の3.8%にすぎず、消費量の14日分でしかない。米国産原油の輸入量を5倍に拡大しても中東産輸入量の20%であり、焼け石に水といったところだ。高市首相はめどがついたそうだが、東南アジアの国はみな原油不足に直面しており、原油の奪い合いになるのは必至で、代替輸入が簡単に見つかるとは考えにくい。
原油不足で危機的な経済状態に追い詰められていてもトランプに一言も言えないとは、政治の放棄ではないか。常々、「暮らしの安全と安心を確保」すると言いながら、「暮らしの安全と安心」が危うくなっても、その元凶については追及することなく、石油探しに奔走するほかないとは、なんと情けない政治ではないか。