イラク攻撃は米軍を「極めて高いリスク」に晒す

投稿者 曽我純, 3月9日 午前8:59, 2026年

トランプの暴挙が世界の政治と経済を混沌とした状態にしている。他国に入り込み大統領をさらう、ミサイルを撃ち込むなど彼は暴君と化している。紛れもなく戦争犯罪人であり、ネタニヤフと共に逮捕されなければならない。このような人物が核を保有している事実に恐怖を覚える。米国は一日も早く、トランプを大統領の地位から引きずり降ろさねばならぬ。これが米国の喫緊の課題だ。

逆にいえば、支持率の低下やイスラエルへの米国民の反発などから、トランプは危機意識を強めており、だから無計画で無謀なイラクへの攻撃に踏み切ったとも考えられる。中間選挙の予備選挙が今月から始まり、エプスタイン問題などトランプは四面楚歌なのだ。この窮地から抜け出せるのは戦争しかないと腹をくくった。

だが、大国イランを倒せるだろうか。人口9,300万人、国土の面積163万平方キロメートル(日本の4.3倍)、しかも多数の理工系博士号取得者を抱え、技術力のある国を。過去、ベトナムを始め、イラク、アフガニスタン、ウクライナ等に侵攻・支援した結末を思い起こせば、それだけで米国の行動がいかに無謀で陳腐なものであるかは明らかである。

イスラエルが2023年10月、ガザに地上部隊を侵攻させでジェノサイドを行なっているが、それでもまだ決着はつかない。ウクライナ(人口約3,500万人、面積60.4万平方キロメートル)とロシアの戦争は4年もの長期戦となり泥沼状態にある。

米国は何度悲惨な結末を味わっても、懲りないのである。トランプの頭には過去を顧みる回路や歴史観は存在しないのだ。ただ、その時の思い付きで行動するのみ、行動した結果どうなるか、というところまでは考えていない。

テレビ司会者にトランプはユダヤ人大統領だと語っているほどイスラエル派なのだが、本当のところは、ユダヤ人に首根っこを掴まれ、かれらの忠誠な僕になっている。エプスタインの問題もあるし、なによりも中間選挙で勝たなければ、トランプの地位も崩れ去るかもしれないからだ。選挙には巨額の金がかかるが、最も頼りになるのはユダヤ人の富豪であり、彼らの機嫌を損ねれば、ただちに軍資金に支障をきたすことになる。トランプは国民のことなど頭の片隅にもなく、自分の懐と目先の選挙のことしか関心がないのだ。

イラク攻撃から1週間経過したが、日本の報道はトランプの発言やイラクへの爆撃などで占められており、イスラエルがどのようになっているのか、についてはほとんど報道されていない。イスラエルは人口990万人、2.2万平方キロメートルとイランに比べれば豆粒のような狭い国土であるだけに、ミサイル攻撃を受ければ被害は甚大になる。

イスラエルは昨年6月のときと同様、厳しい報道管制を敷いており、情報を入手しにくいのだけれども、それにしても報道は偏りすぎている。横を縦にするだけではとても報道などと言えるものではない。

元米軍やCIAに在籍した人の解説によれば、米軍のミサイルなどは今週か来週には枯渇するそうだ。昨年の12月前後にウクライナは深刻なミサイル不足に陥っていたが、パートナー国から「提供できる在庫がない」とすげない返事。ワシントン・ポスト(2月23日付)によれば、すでに、米軍統合参謀本部議長のダン・ケイン大将はトランプ大統領に「弾薬が足りません」、開戦は米軍を「極めて高いリスク」に晒すと警告していた。ダン・ケイン大将の警告通り、3月4日付のワシントン・ポストは迎撃ミサイルの枯渇から「数日以内に迎撃対象に優先順位を付けなければならない状況になる」そうだ。6日にはトランプ大統領はロッキード・マーチンなど軍事産業7社をホワイトハウスに集め、「最先端兵器生産を4倍に増やすように求めた」のだ。今頃、このような要求を出したところで、何年後の話であり、後の祭りである。人の話に耳を貸さず、後先なしに突っ走る愚かな大統領丸出しである。

ミサイル製造で中心を成すロッキード・マーチン社によれば、2025年のミサイル部門の売上高は144.5億ドル、前年比13.9%増であり、2024年の12.7%増を上回った。昨年第4四半期は17.8%と最も伸びが高く、生産拡大に躍起になっているようだ。2023年までの過去4年間の売上高はほぼ横ばいであり、ウクライナで戦争が始まっても変化はなかった。それが2024年からは発破がかかってきた。2025年末のミサイル部門の受注残は466.5億ドル、前年末比20.3%増、2022年末比では62.3%も増加しており、受注をこなし切れないでいる。

パトリオット(PAC-3MSE)の部品数だけで数万の精密部品で構成されており、トランプにせがまれても衰退している米製造業では増産は容易ではない。その他、システム全体(レーダーセット、管制装置、発射機、電力プラント、通信アンテナにミサイルを含むと総額10億ドル)ということになれば、一層部品数は多くなり、米国内だけで調達できるものではない。

米製造業のGDPに占める割合は2004年の13.2%から2024年11.4%、2024年には9.8%、昨年第3四半期の直近では9.5%と過去最低を更新しており、製造業の凋落は目を覆うばかりである。FRBの製造業生産指数でも今年1月、97.5(2017年=100)であり、2017年を下回っているだけでなく、過去最高108.5(2007年12月)から10.1%pも下落している。

米国では製造業は人気がなく、より給与の高い産業を目指している。トランプがいくら「米国を再び偉大にする」と叫んでも、モノ作りに人材を振り向けることはできない。モノ作りに人が集まらないことはミサイルも作れないということだ。

ロッキード・マーチンは昨年、パトリオット(PAC-3MSE)を620発製造したそうだ。ミサイル迎撃には少なくても2発撃たなければ、撃ち落とせないという。300発のミサイルが飛んでくれば、1年分のパトリオットが消費されてしまうことになる。この程度のミサイル生産では戦争などできないのだ。第2次世界大戦のときのように、米軍は見境なく戦争にのめり込んでいった日本軍と同じだ。

米GDP統計によれば、2025年第4四半期の国防支出(年率)は1兆1,593億ドル、前年比3.3%と伸びは4四半期連続で低下している。2022年第1四半期には前年比-0.1%とマイナスに落ち込んでいたが、ウクライナへの侵攻以降、支援のためか国防支出は拡大し、2023年第3四半期には9.7%、額にして898億ドルも増やした。だが、これ以上伸びることはなく、昨年第4四半期には3.3%に鈍化している。ただし、昨年第4四半期のミサイルは前年比20.5%と2021年第1四半期以来の高い伸びである。政府支出に占める国防費の割合は昨年第4四半期21.7%と過去1年半ではほぼ同じである。2021年第4四半期と比べても0.4%pの上昇にとどまっており、ウクライナ侵攻後も国防費は政府支出の伸びに近いものであった。ウクライナ以降も特段、国防費を増強したとはいえない。だから、ミサイルや弾薬が不足しているのだ。

ホルムズ海峡の封鎖により、先週末、WTIはバレル90.9ドル、前週比35.6%、昨年末比58.3%と急騰している。トランプとネタニヤフが戦争を始めたからだ。原油消費国にとってはとんでもない人災である。2025年、日本の原油・粗油輸入額は9.62兆円、他のさまざまな条件が変わらずに、原油輸入額が例えば58.3%増大するとすれば15.22兆円、前年よりも5.6兆円の負担増となる。液化天然ガス(2025年輸入額5.7兆円)の中東依存度は低いものの、価格は上昇しているため2.8兆円輸入額は増加するだろう。今年の輸入額は昨年を合計8.4兆円上回ることになり、これを家計が全額負担することになれば、一世帯当たりの年間追加負担額は年15万円超となる。

なぜ、これほどの大人災を引き起こした張本人に、主要国の首相たちは口をつぐみはぐらかしているのだろうか。自ら言論の自由を封印しているのだ。戦争はもとより表現の自由が力によって封じ込まれるのであれば、民主主義は成り立たなくなる。世界は毅然とした態度でトランプに正面から向き合わなければならない。

2月の日本のCPIは前年比1.6%と2カ月連続2%を下回り、物価高と言える状況ではなくなっているが、トランプのせいで、また物価がエネルギーを中心に値上がりすることになる。これは日本だけでなく世界的な現象となるのだ。それだけ原油の影響力は大きいのである。この物価高の影響を一番うけるのは低所得者層であり富裕層には関係がない。

原油・液化天然ガスの価格急騰により輸入額は急増、例えば今年の輸入額が昨年よりも8.4兆円増加すると仮定するならば、今年の貿易収支はそれだけ悪化することになる。昨年の赤字額は2.6兆円と縮小しているが、2021年以降5年連続である。原油高が持続するならば、今年の貿易赤字額は10兆円を超えることになるだろう。貿易収支の悪化が円安ドル高を招くことになれば、物価には二重の圧力が掛かってくる。

おそらく今週か来週には、ミサイルの枯渇などでトランプはイラク攻撃から手を引くのではないだろうか。そうであれば、原油等の価格はすぐに下落するはずだ。原油の高騰は一過性であることを願っている。

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