不安と恐怖を煽る戦術が奏功した選挙

投稿者 曽我純, 2月9日 午前8:57, 2026年

今までできなかったことをこれからできるだろうか。強い経済がよりよい生活に結びつくものなのだろうか。強い経済ではなくより「暮らしやすい経済」を作り上げていかねばならい。強い経済は、これまでのように一部の階級に一層富を集中させるだけではないか。一番の問題は分配である。家計と企業の分配、富や所得が偏っている家計間の分配を是正することが最大の課題である。こうした分配の偏りを是正しない限り、日本経済に明るい展望を抱くことはできない。この格差を拡大させた所得と資産を是正するには税制の改革しかないのである。所得税、法人税だけでなく金融課税を強化しなければならない。強くするのは金融税制なのである。

2025年の日本の株式売買代金(市場合計、日本取引所グループ)は1,510兆円と1,500兆円を超え、2021年比1.81倍に膨れた。1%の課税でも15兆円になるのだ。株式バブルを適正、正常な状態に戻すためにも株式取引に課税する必要がある。バブルの米国株が破裂するまえに日本は先に手を打つのだ。米株が崩壊すれば、予想外の事態になることは間違いない。米株式価額108.4兆ドル(昨年9月末、FRB)が半値になれば50兆ドル超が霧散することになる。米GDPの約1.7倍の規模だ。これだけの崩落を被ることになれば、世界経済はどうなるか、だれもわからない。1930年代の世界不況のような酷い経済にならないとも限らない。だから、早めに手を打つのだ。強い金融課税が日本経済を救うことになる。

強い経済を実現するには経済成長力を高くしなければと言う。だが、『国民所得統計』によれば、2024年度までの過去30年間の実質GDP成長率は年率0.77%(名目0.69%)であった。これを1%超に引き上げることができるだろうか。いくら生産力を強化しても売れなければ絵に描いた餅である。

なぜこれほど日本経済が低迷しているかといえば、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)が年率0.37%(名目0.54%)しか伸びなかったからだ。GDPに占める割合が最大の家計最終消費支出が伸びなければGDPは伸びない。家計最終消費支出が冴えないのは家計の所得の伸びが低く、先行きもそうだとみているからである。

雇用者報酬のうち賃金・俸給が2024年度までの30年間に年率0.38%しか伸びなかった(名目でも0.44%にすぎない)。これでは消費を増やすわけにはいかない。賃金・俸給が1%を下回る低い伸びでは、とても積極的に消費にお金を使おうとは思わない。強い経済が実現するための大前提には、この家計消費の力強い伸びが不可欠なのだ。

賃金・俸給が伸びているといえないほどなのだが、いや、それだからこそ将来のために貯めなくてはと思うのだ。平均寿命が延び、長い老後を過ごすために少しでも多く蓄えておかなくては、と貯蓄に励むのである。賃金の伸びが高ければ、貯蓄はさておき、まずほしいものを買おうとする。

家計の財産所得のなかでは配当は1994年度、1.3兆円だったが、2024年度には10.2兆円へと急増する半面、受取利息は22.1兆円から6.5兆円へと大幅に減少し、配当を大幅に下回っている。こうした財産所得の変化も家計の所得や資産の歪みとなって現れ、消費行動に悪影響を及ぼしているはずだ。

一方、同期間の民間法人企業の所得は名目年率1.77%で拡大しており、賃金・俸給の4倍で伸びているのだ。非金融法人に限定すれば年率2.23%と桁違いの成長であり、企業と家計の所得分配が歪められていることがわかる。

『家計調査』によれば、2025年の実収入(世帯主や配偶者などすべての収入)は前年比2.8%増だが、世帯主(男)は1.7%にすぎず、実質ではー0.9%、-1.9%といずれもマイナスだった。2000年から2025年までの25年間の実収入は年率0.6%、世帯主収入(男)は2000年のレベルをやや下回る。このような無残な収入によって、消費支出も25年前とほぼ同じなのである。一方、直接税と社会保険料は同期間、年率1.03%、1.48%それぞれ伸びた。その結果、可処分所得は0.46%と実収入の0.6%を下回ることになった。使えるお金が年率0.46%では「弱い経済」になるしかない。

これほど賃金・俸給が低く抑えられている国があるだろうか。2024年までの30年間で米国の賃金・俸給は年率4.57%(BEA)、イギリス4.21%(1993~2023、National Accounts)、ドイツ2.59%(1991~2025,National Accounts)であり、日本の0.44%が米英独とは比較にならない異常に低い伸びだということがわかる。米英独は賃金・俸給の伸びが高いことによって、経済も成長を遂げているのだ。経済成長率が高いから賃金・俸給も高いのではない。

こうした異常な賃金・俸給の抑制によって、2024年のOECDの賃金(ドル購買力平価)ランキングで日本は26位(4.94万ドル)となり、韓国(25位)に続き、G7では最下位、OECD平均を約20%下回っている。一人当たりの国民所得もOECDで24番目であり、経済規模はまだ4位と上位だが、一人当たりの賃金でみれば、経済が強いとは言えないところまで落ちてしまっている。

 

選挙前の世論調査の通り、自民党が圧勝した。創価学会を頼りにしていた立憲民主党は梯子を外された。公明党が間抜けな野田佳彦と安住淳で率いる立憲民主党を潰した。

高市首相が登場してからは、戦前への回帰を一段強め、台湾有事発言により中国への対抗意識を露骨に表し、ナショナリストぶりを発揮した。が、中国との関係が拗れたことなどどこ吹く風、愛国者高市に熱狂するばかり。

戦前の天皇カルトと軍国主義が招いた大崩壊を忘れてしまったのか。威勢のよい演説に陶酔してしまった日本人。「高市政権になってからは戦争の足音が大股で近づいている」(伊勢崎賢治、2月5日の長周新聞)ことに、日本人はすこしも気づかないのだろうか。

中国との緊張を誇張することにより「みなさんの不安と恐怖を煽る。なぜか、自分たちの票のためだ。怖がることがすきなみなさんの心理につけ込み、その支持を集めるための常套手段だ」(前同)。緊張を煽れば煽るほど高市に票が集まることを思い知らされた。

なぜ、いとも簡単に高市に騙されてしまうのだろうか。つい80年ほど前は天皇カルトに酔心していたのだから、集団による熱狂につい誘い込まれ、もともと自己がふわふわしている日本人は己を失ってしまうのだろう。日本人は子供のままなのだから、何度、大惨事を経験しても繰り返される。第2次大戦、1980年代のバブルとその後のバブル崩壊、2011年3月11日の原発メルトダウン、急速な人口減など国が崩壊するような苦い経験を積んでもそれが活かされず、だれも責任を取らないことで通ってしまう。責任も反省もなければ、徹底的な究明もなされておらず、その結果、同じ問題が起きる可能性が大きくなる。そのような大惨事の繰り返しで日本は落ちぶれてしまうのかもしれない。

過去を葬る自民の圧勝により「弱い経済」は加速するだろう。

Author(s)