株式を安全資産に変えた政府と中央銀行

投稿者 曽我純, 1月19日 午前9:03, 2026年

昨年11月のプライム加重平均利回りは2.05%(日本取引所グループの『統計月報』)であった。同6月の2.42%から低下しており、現状の株式配当利回りはさらに低下していることは間違いない。一方、10年債利回りは上昇し続けており、先週末には2.185%へと1997年以来約29年ぶりの高い水準となった。債券利回りが株式配当利回りを完全に上回り、株式の優位性は消えてしまった。債券か株式かといえば債券が選好される時代になったと言える。

債券か株式かということだけでなく、債券利回りの上昇は、企業利益などが一定の仮定のもとでは将来の株式価額は減価することになる。たとえば時価100万円の株式を保有している人にとって、債券利回りが1%から2%に上昇するだけで、10年後の株式現在価値は約10%減少することになる。企業業績が堅調さを持続し、配当も増配ということになれば、債券利回りの上昇を相殺してしまうかもしれない。だが、債券利回りが3%近くへと一段上昇することになれば、その限りではない。

円ドル相場が円安に向かっていることが、株高と債券安を引き起こしている。円安傾向が持続していけば、株式はさらに買われ、上昇するだろう。だが、こうした傾向が永遠に続くことはない。円安は物価を上昇させ、利上げ観測が強まり、債券利回りは高くなる。債券利回りの上昇は株式の現在価値を押し下げるだけでなく、利回りの観点からも魅力は薄れる。債券利回りが高くなれば、流動性資産から債券に乗り換える動きが強まるだろう。また円高は企業業績を悪化させるため、株式から債券へ乗り換えるうごきを強める。

今の円安ドル高は日米の債券利回りの格差とは別の要因による。消費を元気にするには賃金を増やさなければならないと官民挙げて叫んでいるが、掛け声だけで、一向に賃金は上がらない。『毎月勤労統計』によれば、昨年11月の現金給与総額は前年比0.5%、実質では-2.8%、『家計調査』でも勤労者世帯(二人以上の世帯)の実収入(勤め先収入のほか、事業・内職収入、社会保障給付、財産収入など)は前年比1.0%、そのうち世帯主収入は-0.3%である。2024年の世帯主収入(男)は43.7万円、前年比4.6%伸びたが、2000年の44.6万円にまだ達していない。これでは消費が良くなるわけがない。政府と企業は実力主義とか非正規雇用とかの制度改革で全体の賃金が増えないような仕組みにしてしまった。

実収入が曲がりなりにも増加しているのは世帯主の配偶者収入増による。例えば、2014年から2024年までの10年間の伸びは世帯主収入の1.112倍に対してその配偶者収入は1.733倍である。実収入に占める配偶者収入の割合は2000年には9.7%にすぎなかったが、2024年は16.5%に上がっている。収入の配偶者依存度は高まり、配偶者の収入がなければ生活が成り立たない状況に追い込まれている。配偶者が働くことは当たり前になっているが、生活は忙しなく、決してゆとりのある時間を過ごせるわけではなく、出生率の低下も避けられない。賃金上昇が抑制され、生活が逼迫し、出生数が減少し、人口減が年93万人超となれば、日本経済の衰退は不可避。長期的な経済の衰退見通しが為替相場に現れているのではないか。

日経平均株価の年間上昇率が過去10年のうちマイナスになったのは2回(2018年、2022年)だけであり、2025年末までの過去10年間の上昇率は2.64倍、100万円で購入した株式が264万円になったということである。日本株は米株の写真相場と言われているが、その通りで、NYダウも過去10年で前年比減となったのは2018年と2022年の2回だけだ。同10年間の上昇率は2.75倍と日本を上回った。2022年から2025年の直近3年間では日本の1.92倍に対して米国は1.44倍と日本は3年で倍近い伸びとなっている。

2022年末から2025年末までの急騰(1.92倍)は、バブル期のピークである1989年末までの3年間の上昇率(2.08倍)に匹敵する伸びである。しかも昨年末から約2週間しか経過していないにもかかわらず、先週末の日経平均株価は昨年末比7.1%も上昇している。先週末は2022年末比2.06倍となり、これがバブルでないなら、どれほどの株価上昇をバブルというのだろうか。

株式が急騰すれば実体経済にも少しはそのお零れが回ってくるのだが、そのような現象を読み取ることはできない。日銀の『資金循環』によれば、昨年9月末の上場株の33.0%は外人保有であり、個人は17.8%にすぎない。しかも、個人の富は偏在しており、2024年、日本ではトップ1%が富の24.6%、ボトム50%は4.6%(出所:前号と同じ)しか保有していない。おそらく、同様に、株式も一部の富裕者が大半を保有しており、そうした富者は手持ちの株式が値上がりしても、それで消費行動を変えるようなことはしない。

いくら株価が値上がりしても、大半の庶民には関係のない話なのである。年末値の日経平均株価のバブル以降の底である2011年末(8455円)から先週末までに6.37倍へとほぼ一本調子で上がったが、2011年第4四半期から昨年第3四半期までの約14年間で実質GDPは1.145倍(年率0.97%)、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)は1.017倍しか伸びず、消費はほぼ横ばいであった。過去14年間の株価高騰はなにだったのだろうか。政府と日銀の良識に欠けた超金融緩和策(ゼロ・マイナス金利、マネタリーベース異常な拡大、日銀の株式購入)、こうした措置により、株式は国家管理下に置かれ、株式はリスク資産ではなく安全資産だと認識されるようになった。米株式も国家管理下にあるといってよい。なにかあれば、政府とFRBがすぐに出動し、救済してくれる。だから、株式はリスク資産ではなく債券のようにリスクフリー資産なのである。博打の様相を呈していようが、政府と中央銀行は賑わっているところが欲しいのである。

トランプのベネズエラへの軍事行動や彼の気まぐれな政治、日本の解散総選挙といった先行き不透明な材料が目白押しのなかでの急騰なのである。常になにか事を起こし注目されていないと不安でしかたがないトランプの予測できない病的な行動に鑑みれば、到底、米国経済が正常な針路を進むとは考えられない。

過去に独裁者が国民経済をまともな姿にした試しなどなく、政治・経済をずたずた破壊したことが思い出される。トランプのでたらめな行動にブレーキを掛ける術が米国にないことが、米国経済を予想もできないような世界へ追い込むかもしれない。米国にまだ独裁ではなく民主主義が生きているならば、反トランプの烽火が方々で上がるのではないだろうか。米国が民主主義を復活させることができなければ、米国衰退の速度は一層速まるだろう。

トランプの我儘な行動が米国社会を蝕んでいながら、米株は過去最高値を維持している。昨年9月末の米株式価額は108.4兆ドル(出所:FRB)と初めて100兆ドルを超えた。名目GDPの3.52倍の規模に膨れ、対GDP比では過去最高を更新した。日銀によれば、日本の株式等の価額は昨年9月末、1,896兆円であり、名目GDPの2.85倍であり、米国や日本の株式がいかに実体経済から乖離しているかがわかる。因みに、ドイツの株式・GDP比は0.55倍とGDPの半分ほどの規模なのである。ドイツの統計は資金循環ベースのものではないので、この比率よりも高くなるけれども、それでも1倍を下回るだろう。いずれにしても、日米の株式価額は世界のなかでも抜きんでていて、投機的な金融経済が肥大化した特異な経済と言えるだろう。

こうした株価急騰も日米同盟の賜物なのだろうか。政治、経済さらに軍事を米国に追随していくことで、日本が米国型にはめ込まれていくことの結果なのであろうか。独裁政治が当たり前のようになっている力だけの米国と同盟をより進化させれば、日本も力に頼る国になるということだ。

軍事力という力の政治へと舵を切れば、相手も軍事力を強めることは必定。こうした米国の力でねじ伏せる遣り方に従えば、戦争のリスクは高まることになる。2022年2月にウクライナ戦争が始まったが、戦争が勃発してから米株は勢いづいた。戦争による特需が米国経済を活気付かせ、株式は上昇力を増していった。ウォール街は保守強権的であり、戦争は好材料と捉える。戦争の特需とその破壊による復興需要が期待できるため、常に、米国は問題をでっち上げ、戦争を仕掛ける。それで米国経済は潤うという仕組みなのだ。米株が上がれば、相対的に安い国の株を買うしかない。そうした資金の流入で日本株も上がっているのだ。

日本も米国と同じように金融経済肥大化の道を進んでいる。金融経済が肥大化していることは金融資産が実物資産の成長よりも速いことである。ヒト、モノ、カネが金融部門により多く流れ込み、経済構造は変わっていく。安全資産になった株式はバブルと化しているが、政府と中央銀行はこの化け物をいかに料理するつもりなのだろうか。料理する腕があるとは思えないが。

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