2024年、エマニュエル・トッドは『西欧の敗北』を上梓したが、今や『西欧の敗北』ではなく『西欧の破綻』と言えるのではないか。トランプのベネズエラへの侵入、殺人、マドゥロ大統領夫妻拉致について、欧州や日本の首脳はありきたりなコメントでお茶を濁しているからだ。言論で戦争をしなければならない重大な政治局面なのだが、トランプの暴挙を容認するような態度しかとれない情けない首脳たちである。
このトランプの蛮行にノーを突きつけなかった代償はあまりにも大きく、取り戻すことはできないだろう。NATOのリーダーである米国が殺人、拉致や略奪などの犯罪に走り、そのことを容認することは、NATOもそうだということだ。NATOのリーダーでありながら、米国はNATOから距離を置き、身勝手に振舞い、NATOを身動きできないように仕向けている。
民主主義社会ではだれでも平等に扱われ、自由に発言できるのだが、その民主主義を守らなければならない首脳がトランプを忖度し、発言を控え黙認するのである。高市首相も年頭の記者会見で「我が国は、従来から、自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則を尊重してきた」と述べるだけで、米国に一言も批判めいたことは言わない(高市首相の「尊重」は一応守ろうとは思いますよくらいのもの)。彼らのよく口にする「自由、基本的人権や法」、「力による一方的な現状変更の試みを許してはなりません」も結局は口先だけのことなのだ。今回のように本当に異常な緊急事態に出くわした時にこそ、「自由、基本的人権や法」を死守しなければならないのだが。毅然とトランプの暴挙に立ち向かってこそ自由や平等の基本的人権が守られるのである。
トランプは現代のヒットラーだ。他国の大統領の寝室に急襲し、米国に連れ去り、石油も奪う。白昼夢のようだ。米国に背く中南米や欧州の政権を担っているトップは、いつ寝込みを襲われるかと枕を高くして眠ることはできなくなった。子供もわかる歴然とした法を逸脱した行動が罷り通ることになれば、世界は民主主義も人権もない野蛮な状態だと言うことになる。力(軍事力)がすべての社会だとも言える。暴力はいけないと子供によく言い聞かせるけれども、トランプの軍事行動の前では言葉に窮す。米国だけが傷つき、混沌とした社会になるだけでなく、超大国の影響は米国内にとどまらず、世界に波及することから米国を許してはならないのである。
米国は名目GDP31.0兆ドル、軍事費1.16兆ドル(いずれも昨年第3四半期)の経済・軍事大国だが、平均寿命はG7のなかでは78.39歳(2023年)と最低、しかも10年前の2013年(78.74歳)を下回っている。平均寿命が10年前を下回る国は極めて稀。因みにG7では日本がトップで84.04歳。平均寿命が低いだけでなく、乳児死亡率(1000人当たり、2023年、共に出所は世界銀行)も米国は5.5と最悪であり、ロシア(3.7)よりも悪い。日本は1.8とG7のなかではもっとも低い。糖尿病有病率も米国がG7では最も高く、経済と軍事力に比べて健康状態は劣悪。パンよりも大砲の軍事国家だからだ。
米国国民の健康状態が悪いひとつの原因に極めて大きい所得・富の格差を挙げることができる。2024年、米国ではトップ1%の所得(税前)は全所得の20.7%、富は34.8%を占めている(出所:World Inequality Database)。トップ1%が所得の20.7%を占有している一方、ボトム50%は13.4%しか手にしていない。富についてはトップ1%の34.8%に対してボトム50%は1.0%しか保有していないという異常な格差となっている。トップ1%の超富裕層はボトム50%の77倍超の所得、富については天文学的な格差となっている。しかも、新自由主義が蔓延る1978年を底として、トップ1%の所得・富の保有比率は上昇している。トランプが市場原理主義的経済政策を進めて行けば、さらに格差は拡大し、ボトム50%の米国民の生活はますます厳しくなるだろう。
経済的に余裕がなくなれば、衣食住のすべてにわたり十分ではなく、身体は蝕まれていく。だが、トランプの政策は衣食住を充実させるのではなく、あくまでも軍事拡大の帝国主義政策なのである。まともな為政者であれば、自国の国民の生活、健康、福祉を第1に考えるはずだ。しかも、実行しようと思えばできるだけの資金が米国にはあるのだが、国民生活は顧みられない。
世界を荒らしまわる独裁国家に米国を作り上げてきた責任の一端は国民にある。米民間人は4.3億丁(2023年)の銃を保有、世界の民間人保有の約半分を米民間人が保有しているのだ。米人口は3.43億人、一人当たり1.25丁持っていることになる。2024年の米殺人率は5.0件(人口10万人当たり)と減少しているが、日本は0.23件、他のG7でも1件以下のところが多く、米国の殺人は突出している。銃による殺人が大半を占めており、米国には銃、力で問題を処理する勢力がいるのだ。こうした勢力がトランプを支えているのだろう。米国内部にある暴力主義が治癒されない限り、米国は軍事専制国家から抜け出すことはできない。
トランプはコロンビア、メキシコやグリーンランドなどにも触手を伸ばしており、独裁者としての権力を思う存分振るっている。恐ろしいことに、米国は世界最大の軍事国家であり、大量核兵器保有国である。まさに気違いに刃物である。
このような土足で他国に侵入し、拉致することはどこの国でも許されることではなく、重大犯罪であり、トランプを刑務所に放り込むべきだ。法を歯牙にもかけない人物を大統領に選んだことが、最大の過ちだが、こうしたヒットラーのような大統領が選ばれたとしても、このような犯罪に至らない仕組みが、憲法に組み込まれていなければならない。ヒットラーだけでなく、レーガンやブッシュなどの歴代米大統領も他国を平気で侵略してきており、歴史は繰り返されているからだ。
アメリカ合衆国憲法もトランプを制御できず、最近のウクライナやガザの戦争でも国連が機能しないことは、国連を世界戦争が起こらないように、国連を再構築する以外には方法はない。5カ国に付与されている拒否権を剥奪する世界的な世論を巻き起こし、5カ国の暴政を阻止できる国連に作り変えるべきだ。
ベネズエラの主権を力で踏み躙る野蛮な行動にG7などの首脳はいずれも言葉を濁し、米国批判は封印した。子供でも分かる米国の蛮行に、そのことが認められるような発言をしていれば、世界はますますトランプを増長させることになるだろう。厳然たる事実に頬被りし、悪事を追求しなければ、どのようなことになるだろうか。都合の悪いことには目をつぶり、話題をそこから逸らす。日本や西欧の首脳のそのような言動は世界を悪い方向に導くことは間違いない。
社会を健全にする民主主義を育てるには、民主主義に反する行動が現れれば、それを摘み取らなければならない。それを放置することになれば、民主主義を後退させることになる。癌でも早期発見早期治療が鉄則だが、同様に、社会の悪事も早期発見早期治療に尽きる。悪性癌を放置しておけば、全身が癌に侵され、治癒不能になってしまう。国の過ちも、目をつぶって見ないふりをして遣り過ごせば、その国は専制色を強め、国民の思いとは掛け離れた姿になる。
なにごともタブーにしてはいけない。タブーに蓋をして問題を抱えた状態にあれば、その国に前途はない。タブーがあればあるほど、その国は身動きが取れなくなる。それによって縛り付けられ、国の発展は望めない。日米安保条約と日米同盟により日本は米国の支配下にあり、日本を米国の政治経済体制に組み込んできた。1980年代、新自由主義への制度変更が1990年代以降の長期低迷として現れた。日米安保条約と日米同盟はタブーとされているが、これこそ日本の針路を阻む最大の障害である。日米同盟を金科玉条とすることは大きな過ちだ。トランプのような非道な悪い国と仲良くすることは恥ずべきことではないか。世界を見渡せば同盟関係を結んでいない国はいくらでもある。いくら経済が衰退したとはいえ、日本は世界第4位の経済大国であり、悪い仲間と手を結ばなくても自力で生きていける。他にもタブーはある。天皇制や原発もマスコミはほとんど取り上げない。
高市首相の天皇崇拝、戦前への回帰への危険思想も論じられない。明治以降の富国強兵路線の復活を目論んでいる。高市首相はトランプの軍国主義の同調者であり、衆議院解散総選挙によって、過半数の議席が獲得できれば、軍拡のスピードは増し、自らアジアに緊張をもたらすことになる。
中国が高市首相に反発するのは、台湾有事発言だけではなく、高市首相が皇国史観の持主だからだ。思想に無頓着な日本人、集団主義から抜け出せず、お上の言いなりに行動する、戦前の行動様式のまま振舞う、だから高市が総理になり参政党などが躍進するのだ。高市政権の基盤が強くなれば、憲法9条は骨抜きにされるだろう。熱狂的な政治には宗教が介在する場合が多い。政治に宗教的要素が入り込むと人は狂信的になるという指摘がある。皇国史観をあからさまにしないことが、返って背後にある天皇教(神道)の威光を強めることになるかもしれない。戦前から思想的にはなにも変わっていないだけに、日本人はどこにでも靡く。プルードンの言葉をもじれば「人びとは理念なしに(戦後の)改革を行った。日本の国民とは、喜劇役者の群である」。