日本経済が名目4%超で成長し、所得も年率4%で上がって行けばなんとか返済することができるけれども、4%の成長と所得は不可能である。今年第3四半期までの過去10年間の名目GDPは年率1.64%である。2015年までの10年間のほぼ横ばいに比べれば格段に高い成長と言えるが、これは物価上昇による伸びが1.2%pも寄与しており、実質では年率0.41%にすぎない。2025年第3四半期までの過去30年間では年率0.63%であったことを考慮すれば、今後、日本経済が過去30年間の成長を大幅に上回ることは考えられないことだ。
このように過去の長期成長率に基づけば、これからも名目GDPの伸びは年率1%未満で推移するだろう。10年債利回りは2%に迫っているが、これは明らかに行き過ぎだ。日銀の利上げ観測に過度に反応した現象ではないか。せいぜい上昇したとしても1.5%程度が上限だろう。政策金利は1%以上に上げなければならない。予想されている0.25%pの小幅ではなく、一気に1%まで引き上げるべきだ。家計の利息を増やし、企業の利払い負担を高める金利にしなければならない。そして博打場と化している株式を正常な姿に戻すためにも政策金利は1%~1.5%へと早期に引き上げるべきだ。
10年債利回りの日米金利差は先週末、一段縮小したが、円ドル相場は1円も円高にならなかった。大局的に円ドル相場を観察すれば、2012年までの円高ドル安がそこを境に円安ドル高へと大きく変わり、現状もそのトレンド上にあるのではないか。円安ドル高基調が持続する理由は、日本の経済力が米国よりも弱い状態が予想されるからである。
日本の今年第3四半期までの10年間の名目GDPは年率1.64%だったが、米国は今年第2四半期までの10年間の伸びは年率5.24%と日本の3倍超で成長した。過去30年間でも米4.74%に対して日本0.63%と話にならないほどの格差があった。これでは円安ドル高は不可避である。
IMF発表の一人当たりの名目GDP(per capita、ドル建て)を日米で比較する。1995年にウインドウズ95が発売されパソコンの普及が加速した。そこで1995年までの15年間と2024年までの29年間のper capitaの年率の伸びがどうであったかを調べよう。1995年までの15年間では日本は年率10.66%だったが、米国は5.66%と日本が圧倒していた。だが、1995年から2024年までの29年間では米国の3.85%に対して日本は-1.05%とマイナスであった。IMFの先進国の統計でマイナスは日本だけである。この事実は、いかに日本のper capitaが酷く、日本経済が異常な状態にあったかを露わにする。
米国のper capitaを日本それで割った数値をみると1985年には米国が日本の1.541倍であったが、その後のバブル景気によって低下し、1995年には0.649倍まで低下し、日本が米国の伸びを上回り、逆転した。しかし、バブル崩壊が深刻さを増すにつれて、日本は伸び悩み、1998年には1.0を超え、再び米国経済が優位に立った。リーマンショックの前年の2007年には1.337倍まで上昇したが、2011年の1.026を底に米国のper capitaの伸びは日本を上回り続け、ほぼ右肩上がりとなり、2024年は2.641倍と1980年以降では最大となった。この日米per capitaの比率と長期の円ドル相場は概ね同じ動きをしている。
per capitaのトップはルクセンブルクだが、タックスヘイブンの特殊性があり、第2位のスイスも同様だが、スイスは日本の約3倍、米国も約2.6倍の格差がある。日本は韓国よりもわずかだが下回り、先進国では最低に落ち込んでいるのだ。
ウインドウズ95以後、通信情報技術は爆発的に発達普及したけれども、日本のper capitaからはその影響を受けた形跡は見当たらない。米国でも1995年以降のper capitaの年率の伸びはそれ以前よりも大幅に鈍化している。ITやAIの開発進歩は留まるところを知らぬ勢いだが、マクロ経済からはそれらのプラス効果をはっきりと認めることはできない。だれかがいっているようにIT、AIといっても、それらの本質はゼロと1とから成る「幻想産業複合体」であり、幻想だけが肥大化するだけであり、実体経済にはさしたる関係を持たないのだ。
日本政府は経済対策を打ち出したが、相変わらず小手先、短期的なメニューであり、これでは何の変化も起こらない。すでに何十回もやってきて、なにの手ごたえも得られなかったことの繰り返しだ。官僚の考えることでは、日本経済は動きだすことはない。
2012年をピークにper capitaが減少していることが、これまでの数々の経済対策では効き目がなかったことを証明している。per capitaの推移は日銀のゼロやマイナス金利も役に立たなかったことを裏付けている。過去の踏襲では埒が明かないのだ。制度的な問題や税制が経済対策を無力化している。民営化、非正規労働の導入、終身雇用・年功序列賃金の廃止、消費税の導入、所得税の累進性の緩和、法人税率の引き下げ等制度的な変更が日本的な経営を破壊し、所得・資産格差を拡大させ、労働意欲を喪失させた。
財務省の『法人企業統計』によれば、従業員一人当たりの売上高(全規模全産業)は2021年度以降4年連続で増加しているが、2007年度にも達していない。過去最高は1990年度だが、2024年度はその93.6%である。2008年のリーマンショックや2011年3月の福島第1メルトダウンによる2011年度、2012年度の不振から2013年度はやや持ち直したが、その後は横ばいで推移し、安倍政権最後の2020年度は2013年度を下回っている。つまり、経済対策を連発した長期安倍政権も従業員一人当たりの売上高を引き上げることはできなかったのだ。新型コロナにより、2020年度の一般会計歳出は147.5兆円(2019年度101.3兆円)もの規模になったが、それでも経済を回復させることはできなかった。これから判断しても、これまで通りの経済対策では経済対策にはならないのだ。
高校進学率は1974年に90%を超え、すでに95%前後に達している。一方、大学進学率は1990年の24.6%から上昇を続け、2024年には59.1%、大学学部学生数は1990年の198.8万人から2024年には262.8万人に増加した。これだけ大学進学率が上昇し、大学生が増加しても労働生産性は1990年以降、ほぼ横ばいなのである。バブル崩壊とそれによって発生した不良債権の処理の遅れが日本経済に圧し掛かり、経済成長が止まってしまい、雇用環境の悪化が生産性を悪化させた。
2012年末以降の政府・日銀の円安ドル高政策は日本経済を立ち直らせることはできなかった。円安ドル高は輸出増をもたらすが、半面、輸入物価を引き上げ、輸入財の需要を減少させる。外人観光客が押し寄せていることに象徴されるように、日本買いが方々で起こる事態を招くことになる。
意図的に円安ドル高を誘導することは、経済を歪めることになり、円安効果を相殺してしまう。政府と日銀は円安ドル高を望み、実際にそうなったのだが、円安ドル高によって、実体経済が良くなったか、といえばそうとは言えない。すでにみたように、日本のドル表示のper capitaは先進国の分類のなかで30番目に落ちてしまった。日米のper capitaの格差が拡大すればするほど円安ドル高が進むことになる。そうなれば、日米のper capitaはますます開いていくという悪循環に陥る。すでにそうした悪循環に陥っているのかもしれない。高市政権は「強い経済」ではなく、日本の経済的地位をますます低下させていく政策を遂行しているようだ。