米株が世界の株式をリードするのが普通だが、現状をみれば、日本株が世界の株式を牽引しているようだ。日本経済が低迷しているにもかかわらず、なぜ、これほど日本株は強いのだろうか。
外人は確かに東京株式市場の売買代金の約7割を占める主要プレーヤーだが、2013年以降の13年間のうち6回は売り越している。一方、事業法人は13年間すべて買い越し、2013年から2025年10月までの累積買越額は約43兆円である。他方、外人の同期間累積買越額は約13兆円であり、事業法人の3割にすぎない。
これは2001年の商法改正によって自己株式が認められたからだ。さらに2006年の新会社法が自己株式の取得手続きを容易にし、事業法人は自己株式取得に邁進していった。しかも、2013年度から2024年度までに大企業の当期純利益2.47倍に急増、自己株式取得と配当に大盤振る舞いをしたのだ。
こうした自己株式や配当政策などは、米国から突き付けられた『年次改革要望書』により実施されたものだ。そこでは企業間の株式持ち合い、株主重視の企業統治、規制緩和等が要求されており、自己株式もこれに沿った政策を進めた結果なのである。
過去13年間で事業法人は43兆円もの自己株式を取得し、市場から株式を吸い上げた。株式を吸い上げれば、浮動株が少なくなり、株式の需給は逼迫することになる。もともと浮動株が少ないところへ43兆円の株式供給が減少することになれば、ますます需給はタイトになる。株式数の需給改善に事業法人買いという需要拡大の一石二鳥の効果が現れ、日本株を成層圏にまで引き上げたのだ。自己株式を取得したが、消却したのは一部であり、多くは金庫株として保有されたままなのである。
2025年10月までの10カ月間、事業法人はすでに8.8兆円を買い越し、2023年の7.7兆円を上回っている。この1年10カ月で事業法人は16.5兆円を買い越し、外人の3.7兆円を大きく引き離している。事業法人の大幅買い越しが奏功したせいか、今年11月末の日経平均株価は2023年末比、50.2%も急騰した。2023年末は2021年末比16.2%と50.2%に比べれば緩やかだ。2022年と2023年の事業法人の買越額は9.2兆円、外人は3.4兆円と事業法人がやはり圧倒している。
日本経済が停滞するなかで賃金分配を抑制し、円安ドル高、低金利、法人税の負担低減などの外部要因により、大企業は当期純利益を急増させていった。こうした棚から牡丹餅式の利益が日本株を支えていると言える。株式だけは活況だが、実体経済は相変わらず冴えない。活況だといっても、株式とお金が高速回転しているだけで、実体経済にお金が流入していないからだ。
株式による資金調達額は2023年、2024年ともに1.4兆円であり、今年も10月までで1.4兆円である。つまり、発行市場はほとんど機能していないのだ。そして流通市場だけが我が世の春に酔いしれているというはなはだ異常な状態にある。永遠にこのような宴が続くわけではないことは過去を振り返ればあきらかである。
米国の対日政策によって、日本経済は米国にように実体経済から金融経済へと変わりつつある。金融経済が活発になれば、金融部門の利益は拡大し、人材も引き付けることになる。金融経済に関連するITを始め弁護士、公認会計士などさまざまな仕事も増えだろう。他方、ものつくりの製造業は衰退していき、ものは海外からの輸入に依存することになる。米国の尻馬に乗った経済政策を進めるならば、10年も経過すれば、製造業は衰退し米国のようになるだろう。
米改革要望書に加えて、約30年におよぶ日銀のゼロ・マイナス金利と巨額の買いオペの金融政策が金融経済を推し進めた。しかし、このような金融政策は実体経済にほとんど寄与しなかった。寄与していれば日本経済はもっとましな姿になっていただろう。10年間も同じ金融政策を実施して効果がなければ、その政策は間違っているのだ。10年間というひと区切りで、考え直すという作業を日銀はやらずに、そのまま延々と同じ政策を30年間も続けたのだ。今も日銀の姿勢は変わってはいない。
0.25%p引き上げて何がかわるのだろうか。変わるとすれば金利コストが即座に影響する不動産や株式だろう。日銀が不動産と株式をバブル化したので、バブル崩壊の引き金を引きたくないので躊躇しているのだろうか。
日銀の金融政策は家計から企業へ巨額の資金援助機能を果たした。家計の保有する約1,000兆円もの預金にはほとんど利息が付かず、これを銀行は企業に超低金利で貸し出す。もし金利が3%であれば、家計は30兆円の利息を手に入れることができる。今年第3四半期の家計最終消費支出(名目、持家の帰属家賃を除く)284.3兆円だったが、30兆円といえばこの10.6%に相当する。消費税収を上回るこれだけの利息収入があれば、消費は盛り上がるはずだ。他方、企業の借入金利は預金金利よりも高いため、600兆円の借入でも30兆円の利払いが発生する。事実、1991年度の企業の支払利息等は37.9兆円、借入金利息は6.7%だった。それが2019年度には5.6兆円、1.0%まで減少、低下した。2024年度には支払利息等9.6兆円、借入金利息1.3%とやや増加、上昇したが、これほど恵まれた借入環境にある企業は世界でも稀だと思う。
このような家計から企業への極端な利息の移転を可能にしたのは日銀なのだ。経済構造を実体経済から金融経済へと変換したのも、30年間にも及ぶ日銀の金融政策なのである。失敗することが分かっていても、そのままずるずると続ける陋習から日銀も抜け出せないでいる。最後の土壇場まで追い込まれても、自らの非を認めることはない。
今年10月のCPIは前年比3.0%、金科玉条のようにしている目標物価2%を1%pも超えている。なにのための目標なのだろうか。1%pも超えていれば、即利上げしなければならないのではないか。不動産と株式バブルを終わらせ、物価も2%以下に抑えるのが日銀の使命なのだから。
今年第3四半期の名目GDPは前年比3.9%伸びている。政策金利をはるかに上回り、デフレーターで実質金利を求めれば、-2.3%になる。10年債利回りは1.8%を超えたけれども、実質では依然マイナスであり、借り得の状態にある。日銀が政策金利の引き上げを引き延ばせば引き延ばすほど、実体経済は改善せず、金融経済だけが潤うことになる。日銀が日本経済の歪みをより大きくしていくことになるのだ。
為替相場は金利の動向だけで動くことはない。すでに日米の10年債利回り格差は4%pから直近2.2%pまで縮小してきている。だが、円安ドル高は依然として持続し、日米金利差に反応していない。因みに、スイスと米国の10年債利回り格差は4%p程度で開いたままだが、スイスフラン高・ドル安が3年ほど続いている。過去10年、20年の実質GDPを比較してもスイスは米国に近い成長を遂げている。10月のスイスCPIは前年比0.1%と超安定していることもスイスフランの魅力を高めている。為替は基本的には国の総合力で決まるのである。株高では円高に向かうことはない。政官財がグルになり日本の政治や経済を支配している状態では、円は決して強くならない。