高市首相の中国の核心に触れる不用意な答弁が日中関係を悪化させ、延いては経済に悪影響を及ぼすと想定されれば、外人は手のひらを返すような行動に出るかもしれない。高市首相の本音が墓穴を掘ることだけでなく、日本政治のお粗末さが露呈したことの影響は計り知れない。日本のこれまでの異常な株高は転機を迎えるかもしれない。
2025年度上半期の財務省『貿易統計』によれば、輸出入合計額に占める中国の割合は22.1%とトップであり、米国は14.9%である。中国に香港を加えれば23.4%、さらに台湾も入れれば29.1%にも達し、日本の生命線と言える最需要隣国だ。アジア全体では5割を超える。台湾有事になれば、3割いやそれ以上の貿易が止まるかもしれない。そうなれば、日本経済は成り立たなくなることは間違いない。
台湾有事が起こらない政治ではなく、起こす政治をするような首相であることは、彼女の生い立ちまで遡れば、不思議な事でもなんでもない。習近平と会談した翌日(11月1日)、台湾元行政副委員長と会談するなど台湾ロビイストである高市首相の行動は、まさに国益を損なうものなのだ。自民党は戦前の思想に入れ込んでいる人物をよくも首相にしたものだ。
外人は政治の動きに敏感である。安倍元首相が第2次安倍内閣として再登場する前から日本株を買い越していたのと同じことが、10月に繰り返された。特に、ヘッジファンドの大物は政治家や官僚およびその周辺にアンテナを張り巡らしており、そうしたネットワークからまだだれも知らない、あるいは関心を寄せていない情報をもとに、日本株を買い占めているようだ。ウォール街だけでなくロンドンやパリでも彼らの結び付きは強く、だれかが仕掛ければ、それに追随して相場を盛り上げていく。そうでなければ、2012年2.12兆円、2013年15.84兆円、2014年2.64兆円(いずれも買越額)もの巨額の日本株買いはできない。
高市首相の財政拡大、利上げ封印の示唆が欧米の投資ファンドに火をつけた。意外性のある政策ではないけれども、これで利上げは遠のき、0.5%の超低金利が続くことになり、円安ドル高が保たれると予測したからだ。10年物債券利回りは1.7%を超えたが、まだ株式配当利回りが上回っており、株式の優位性が保たれていることも買い要因のひとつかもしれない。
先週末の東証プライムの時価総額1,145兆円は名目GDP(4-6月期の名目GDPは635.1兆円)の1.8倍に拡大し、過去最大に乖離した。株式がGDPよりも早い速度で急拡大していることがわかる。実体経済あっての株式なのだが、糸の切れた凧のように空高く舞い上がっている。今年10月末までの1年間で日経平均株価は34.1%上昇しており、NYダウの29.0%を上回っている。米株が上がれば、それに連れて日本株も上がる図式だが、高市首相の登場によって日本株の上昇力がより強まった。
依然、日銀は政策金利を0.5%という超低水準に据え置いているが、10月の日銀券は前年比-2.3%と2023年12月以降22カ月連続のマイナスだ。1970年以降の統計では、日銀券(平均残)がマイナスになったのは1991年4月とリーマンショック後の2009年10月、11月、12月の計4回だけだ。しかも最大でもバブル破裂過程の-1.7%であり、今回のような-2.3%もの落ち込みではなかった。現金以外の決済方法が普及していることも影響しているかもしれないが、物価が上昇していながら日銀券が減少することは、やはり普通ではない。
日銀券にコインと日銀当座預金を加えたマネタリーベース(MB)の変動幅は極めて大きく、日銀が大規模緩和を行なった2013年からMBは急増し、2014年2月には前年比55.7%も伸びた。その後、新型コロナで変動はあったものの、トレンドとしてはMBの伸びは低下しており、今年10月は前年比7.8%減と20007年7月以来18年6カ月ぶりの大幅マイナスである。
MBの伸び率の急激な低下にもかかわらず、株価は上昇傾向を強めていった。株価が底値を付けた2009年(東証1部)から直近(東証プライム)までの16年間で株式時価総額は3.5倍に急増した。一方、同期間、名目GDPとCPIは1.28倍、1.18倍の低い伸びにそれぞれとどまっている。MBの伸びは低下したが、過去16年間では6.85倍へと大幅に拡大しており、株式だけには、それなりの影響を及ぼしているようだが、実体経済にはなにの関係もないのだ。日銀が市中から国債を買いあさり、お金を供給しているように思えるが、そのお金は日銀に還流し、国債購入の資金になっているだけで、少しも、非金融部門にお金が出回っているのではない。堂々巡りをしているだけなのだ。
MBが増え、それによって景気も良くなるという期待だけで株式は反応し、同意付くものだ。MBが本当に、経済を良くするかどうかはどうでもよいことなのである。ただ、経済が良くなるという期待が大事なのである。
また、MBの急増が円安ドル高をもたらすという期待が、日本株の買い要因となる。この円安ドル高下ではドルやユーロなどを保有している外人にとっては、日本株は割安となるので、円安は外人の日本株買いの最大の誘因となる。長期の株価と円ドル相場をみると概ね両者は相関関係あると読み取ることができる。円高が期待されれば日本株は売られ、円安期待では日本株が買われる。
要するに、円ドル相場の方向がおぼろげにでもみえれば、ヘッジファンドはそれで日本株の売り買いを決めるのだろう。高市首相が利上げに否定的なニュアンスの発言をすれば、円安期待が高まり、日本株を買い増しすることになる。
日米の政策金利差は3.25%pに縮小してきているだけでなく、10年債利回りも先週末には2.44%pまで縮小している。過去の日米債券利回り格差の推移をみれば、格差がピークアウトすれば、円ドル相場は円高ドル安に向かっている。2023年10月には4%を超えていた利回り格差(米国―日本)は縮小傾向を示しており、円安ドル高から円高ドル安に反転しても不思議ではない。現在の日米債券利回り格差は2022年3月以来3年半ぶりの縮小を示している。こうした日米の利回り格差の推移から予測すれば、外人の日本株買いは縮小に向かうだろう。2021年から2025年10月までに、外人は日本株を10.66兆円買い越したが、日中関係の悪化が深刻になれば、政治に機敏な外人は買いから一転、売り姿勢に改めるかもしれない。