これまで自民党政権は『弱い経済』をつくりあげてきた。経済の原動力である消費を消費税導入によって潰してきたのだ。さまざまな税制の改悪や日銀のゼロ・マイナス金利等によって、家計から企業への所得の移転が行われてきた。企業は太り、家計はやせ細ってしまった。消費を冷やせば、ものやサービスの売れ行きが落ちるのは自明のことだ。政治資金を企業から獲得するために、そうした分かり切ったことを平然と自民党はやってきたのである。
戦後、廃墟のなかから立ち直るときには自然に需要は生まれ、経済は拡大していく。だが、社会のインフラが整備され、経済状態が整ってくれば、需要は弱まり、経済が自律的に成長していくことは難しくなる。貯蓄が投資を上回る超過貯蓄状態に陥り、それが進行していくにつれて、経済は停滞を強めていく。
不動産と株式のバブルが実体経済を見る目を失わせた。あたかも、好景気がこのまま続いていくかのような錯覚を与えた。3%ほどの消費税を消費者から取っても経済になにの影響も与えないだろう、と高をくくっていた。ところが、3%が効いたのである。家計最終消費支出(名目、持家の帰属家賃を除く)の前年比伸び率は1990年の7.5%から1993年には1.6%へと急減速した。消費がこれほどの不振に陥ったにもかかわらず、1997年4月、消費税を5%に引き上げた。その後の家計最終消費支出は惨憺たるものになった。
その結果、どのようになったかと言えば、世界経済での日本の経済的地位は下がるばかりとなった。世界のGDP(名目、ドル建て、世界銀行)に占める日本の割合は1994年のピーク17.9%から2024年には3.6%まで下がってしまった。3.6%は1960年(3.5%)以来64年ぶりであり、今はその当時(池田首相の所得倍増計画)の実力しかないのである。
世界の実質GDPに占める日本の比率は2024年、4.8%だが、これは1960年以降ではもっとも低いのだが、高市政権は、この落ちに落ちた存在感を引き上げることができるだろうか。所信表明からは、この落ちぶれた経済を『強い経済』に転換できるような施策はどこにも見当たらない。所得を引き上げる予想外の政策を打ち出さない限り、日本の世界経済シェアはこのままずるずると後退するばかりになるだろう。
今年5月1日現在の日本人人口は前年比93.9万人減の1億1969万人となる一方、外国人は364.9万人、前年比34万人増である。総人口のうち15歳未満人口は前年比35.4万人の減少だが、75歳以上は57.2万人増となり、総人口の17.1%を占める。これだけ日本人が減少し、高齢化しながら、経済を維持していくことは可能なのだろうか。人口減こそ喫緊の課題だが、所信表明にはなにの具体策も示されていない。人口減に加えて、食糧、エネルギーが極めて脆弱であり、ミサイルを撃ち込まれなくても、食糧とエネルギーが少しでも途絶えるだけで、日本は行き詰まってしまう脆い国なのである。ミサイル配備など金をどぶに捨てるようなものだ。
ガソリン税の暫定税率を廃止すると言うが、廃止したとしても1兆円程度の負担減にとどまり、食料高には焼け石に水である。物価高を最優先にするそうだが、そうであれば食料品の消費税廃止がもっとも手っ取り早い方法ではないか。
物価高だと騒いでいるが、9月の消費者物価指数(CPI)は前年比2.9%、寄与度を調べると食料だけで1.92%p引き上げており、これを除けばCPIは0.98%と1%に満たないのである。より詳しくみると穀類、菓子類、調理食品だけで1%p寄与している。エネルギーは前年比2.3%上昇しているが、ガソリンは0.4%にとどまっている。円換算したWTIは2021年第4四半期の水準まで低下しており、エネルギーは物価問題ではなくなりつつある。食料やエネルギーの問題は、ロシアへの制裁によるところが大きい。
食料は6.7%と高止まりしており、これが一番庶民を苦しめている。物価高を最優先課題としているのであれば、CPI上昇率の66.2%を占めている食料の価格を下げることにまず着手しなければならない。これが可能なのは消費税しかない。2024年の消費支出(二人以上の世帯、月平均、家計調査)は30万円、そのうち食料は9万円、消費支出のなかでは30%を占める最大の支出項目であり、これの消費税が廃止されれば、消費全体を引き上げることになるだろう。
食料関係の消費税は約7兆円だが、この財源をどうするのか。1999年4月に廃止された有価証券取引税の復活で確保すべきだ。1988年度の有価証券取引税は約2兆円、その時の東証1部売買代金は279兆円だった。2024年のプライムの売買代金は1,254兆円と1988年の4.5倍に急増しており、この売買代金を前提にすると9兆円程度の有価証券取引税を得ることができる。有価証券取引税の復活となれば、株式にショックを与えることになるが、今のようなバブル化している流通市場を正常な姿に戻すことにもなる。
食料関係の消費税廃止の穴埋めをするには有価証券取引税の復活だけでなく、防衛関係費をGDPの2%に増額するのではなく1%のままに据え置くことでも捻出できる。「国際秩序は大きく揺らぎ、近隣の軍事的動向等が深刻な懸念」になっていると高市首相は訴え、2025年度に防衛費のGDP2%を達成すると表明した。
国際秩序を揺らがせている張本人は米国であり、その尻馬に乗っているのが日本だ。口を開けば日米同盟関係の強化が叫ばれるが、日米同盟を強めることが、近隣諸国との関係を悪くしてきたのではないか。日本列島の北から南まで米軍が居座っていれば、近隣諸国は不安を覚えるだろう。ロシアがキューバに基地をつくることを想像するだけで、米国の軍事戦略がいかに独りよがりで無謀なのかがわかる。こうした覇道による米国に寄り添えば、日本も同じ穴のムジナと思われるのは当然のことだ。
トランプ大統領のその場限りの思い付きで世界が振り回されており、それに対してなにの批判も出てこない無能なG7首脳。日本のGDPの世界シェアが極端に落ち込んでいることをみてきたが、米国も1960年39.7%から2024年には26.2%、ユーロ圏も1991年の25.6%から2024年には14.7%へと日本の仲間の経済的地位はみな落ちている。衰退しつつある国と同盟関係を強くしたところで、一緒に沈んでいくだけだ。
中国とインドだけで世界の人口の34%を占めている。米国の人口は世界のたった4.2%、こうした人口の少数国に盲目的に従属していくことが、日本を「世界の真ん中で咲き誇る」外交を作り出せるだろうか。今でも日本外交では片隅に追いやられ存在感は薄いが、対米追随を強めれば、ますます世界から取り残されていくだろう。
防衛費にGDPの2%も使う金があるのであれば、食料の消費税をゼロにすべきだ。2022年度の防衛費は5.5兆円だったが、2023年度11.5兆円、2024年度には8.6兆円(いずれも決算ベース)に拡大しており、2022年度に比べれば、2023年度と2024年度の合計超過額は9.1兆円になる。これだけ軍事費を増やして得をするのは防衛産業であり、防衛族である。毎年10兆円超の金が日米の防衛産業や防衛族に流れて行くのだ。これで日本が安全になるかといえば、軍事費拡大はリスクを自ら作り出すことになる。ウクライナと同じように日本も米国の代理にされ、紛争や戦争になれば自衛隊員は前線に送られ、犠牲を強いられることになる。米軍が日本に居座って、自衛隊が米軍の指揮下にあることは、憲法第9条はあってなきが如しである。自衛隊は米軍の手先にすぎない。
明治憲法や教育勅語に根差した高市首相は「パンよりも大砲」により重心を移し、日本を戦前のような天皇カルト国家に改造するつもりなのであろうか。80年前はそうであったのだから、非現実的と侮ってはいけないのではないだろうか。
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