日本の政治は未熟で腐敗しているが、株式は超活況である。プライムの一日あたりの売買高と売買代金はだいたい20億株、5兆円であり、売買回転率(株数)は120%を超えている。先週末の日経平均株価は昨年末比19.3%、主要国ではドイツのDAXに次ぐ値上がりだ。NYダウ、ナスダックの上昇率は8.6%、17.4%であり、日経平均が上回っている。日本経済は好調ではなく、千鳥足の状態が続いているにもかかわらず、株式流通市場は異常な活況を呈しているのだ。米株の過去最高値更新を映した写真相場と言えるが、株式時価総額・GDP比でみれば、過去にない実体経済からの乖離を示している。
株式の本来の役割は資金調達だが、すでに企業は有り余る余剰資金を保有しており、株式市場から資金を調達しなくても内部で調達できる。財務省の『法人企業統計』によれば、2024年度の企業の資金調達は102.4兆円だったが、外部調達は4.3兆円にすぎず、大半の98兆円は内部留保、減価償却の内部調達で賄っている。外部調達のうち増資は8.4兆円のマイナスであり、自社株買いなどで減資しているのだ。
このように日本の株式はもっぱら流通市場での売買に特化されており、博打場とほとんど変わらない。博打場だから、いくら相場が熱く盛り上がっても、経済にはなにの関係もないのだ。むしろ株式中毒といった弊害が問題になるのではないか。刻一刻、スマホ、パソコンの画面をのぞき込み、株価に一喜一憂するといったことが日常茶飯事になる。このように株式が日常の生活の中に入り込むことは決して好ましいことではない。
今年6月末までの過去10年間に日経平均株価は2倍に急騰した(因みに、NYダウは2.5倍)。2015年6月までの10年間は1.74倍と直近10年間の伸びが高く、実体経済からはとても考えられないほどの株高となっている。
1990年代半ば以降、日銀が政策金利をほぼゼロ・マイナスにしたことに、日銀による株式購入や国の税制優遇措置が加わり、日本の株式は完全に国家管理に組み入れられた。資本主義を標榜しながら、株式の実態は国家が株式を運営するという共産主義とまったく変わらない体制が打ち立てられたのである。国家主導で株式をあたかも打ち出の小槌であるかのように装い、大衆を株式に引きずり込んでいる。日本は市場主義、資本主義というがまさに名ばかりなのである。
日銀は物価上昇には拘るけれども、株価の高騰については一切ふれない。8月のCPIは前年比2.7%だが、まだ高いそうだ。9月末の日経平均株価は前年比18.5%も上がっているが、問題ないのだ。CPIの2.7%が高く、18.5%が高くないのはなぜか。高くなりすぎて、手が付けられないからなのか。金融経済は実体経済の規模をはるかに上回っており、しかも金利に敏感に反応するのだから、金融政策は金融経済に焦点を当てて運営されなければならない。
株式博徒はもしなにか事が起これば、国と日銀が救済策を打ち出し、国を挙げて株式を持ち上げてくれると想定している。米国についても株式急落といった事態に直面すれば、FRBは金利をすぐさま引き下げ、株式救済に乗り出すだろう。今や、世界的に株式は資本主義経済から掛け離れた存在になっていると言える。
過去10年間で株価が2倍になれば、消費や設備投資などに好影響を及ぼすはずだが、そのようなことは起こっていない。株価と同じ今年第2四半期までの過去10年間の実質GDPは1.048倍、家計最終消費支出(持家の帰属家賃除く)は0.997倍、民間企業設備は1.084倍であり、株式値上がり益や配当によって増加が期待できる家計最終消費支出はマイナスだった。株式がこれほど高騰しても実質GDPはほとんど伸びず、家計にはなにも恩恵も与えていないのである。
株式は、博打が生活を乱し、家庭を崩壊させることはあっても、生活に潤いを与え豊かにしないのと同じなのだ。そのような博打場を国を挙げて煽ることは、国を亡ぼすことになる。一部の人間のみが関わり、一般大衆を株式流通市場に参入させることは間違っている。
投資部門別株式売買状況(プライム)によると10月6日~10日週では外人の総売買金額に占める比率は65.7%、個人は28.4%であり、外人が日本株市場を牛耳っている。外人が相場を操っており、国内関係者はそれに追随しているだけなのだ。
日本取引所グループの『株式分布状況調査』によれば、2024年度の株式保有でトップは外人の32.4%、以下信託銀行22.4%、事業法人18.7%、個人17.3%と続く。日銀が異例の金融緩和策を導入した2012年度以降、3年連続で外人保有比率は上昇し、2014年度には31.7%に達し、これを2023年度に更新、2024年度はこれをさらに上回り、外人は306.7兆円もの日本株を保有している。
外人が日本の不動産を保有することには反対することはあっても、3割もの株式を保有し、流通市場では圧倒的な力を見せつけられているが、野放しなのである。株式保有がさらに上昇していけば、日本の企業ではなくなる企業が増えることは確実である。業種別では医薬46.3%、精密機器45.7%、電気機器44.2%といった日本の中枢といえる産業の外人保有比率が高く、5割に近づきつつある。
2024年度の全産業配当金は23兆円だが、外人は約7.4兆円の配当を獲得したことになる。個人は約4兆円だが、投信などの間接保有を入れれば6兆円ほどになろう。個人がこれだけの配当を手に入れていれば、消費になにがしかのプラス効果を生むと考えられるが、実際には配当の影響は統計には現れていない。
個人株主は2013年度(4,575万人)を底に、11年連続で増加し、2024年度には8,359万人となった。ただこの数値は延べ人数であり、株主を横断的に名寄せした数値は1,618万人(証券保管振替機構、2025年4月~9月の決算期日到来銘柄の株主、)である。
個人株主の株式保有残高は180.7兆円だが、これを年齢別にみると60歳以上~70歳未満が24.4%と最大の44兆円保有、以下70歳以上~80歳未満23.2%、80歳以上18.3%、50歳以上~60歳未満15.6%と、81.5%が50歳以上で保有されている。20歳以上~30歳未満0.8%、30歳以上~40歳未満3.2%と若年層の保有額は極めて少なく、高齢者に偏った保有構造になっている。
70歳以上の高齢者が株式の41.5%を保有し、およそ2.5兆円という多額の配当を受け取っていることが、株高でも消費にプラス効果を与えていない要因ではないか。高齢の株式保有者は富裕層に当たる人たちであり、多額の株式保有や配当を得ても、消費に費やすことはないのである。
1人当たり株式保有額を年齢別にみると最大の保有層は80歳以上で1,884万円、70歳代1,751万円、60歳代1,737万円だが、20歳代213万円、30歳代361万円しか保有していない。80歳以上の株式保有者は179.8万人、80歳以上人口の13.9%に当たり、70歳代では14.8%である。高齢者は株式だけでなく預貯金、不動産などに資産を分散させているはずだ。株式だけで1,700万円以上保有しているのであれば、総資産が1億円超の富裕者も相当数いるのではないか。
高齢者の消費意欲は若い世代よりも弱く、資産をただ保有しているだけの人も多いはずだ。高齢者層の資産の保有、お金の退蔵がお金の動きを鈍くさせている。70歳以上だけでも株式保有額は74.9兆円もある。そのほかの資産を加えればこの数倍の資産になる。この巨額の高齢者の資産を速やかに若い世代に贈与することが消費の活性化になるであろう。