真の問題は物価ではなく、新型コロナウイルス感染症だ。昨年は35,865人がそれで亡くなり、死因順位は8番目、2023年よりも5.8%減にとどまる。今年1月~4月までも12,830人が犠牲になっている。インフルエンザでこれだけの死亡がでれば、マスコミも大騒ぎし報道するだろう。だが、熊の出没や熱中症はやたらにニュースで報じられるが、新型コロナウイルス感染症による死亡はほとんど取り上げない。取り上げなくてよい問題は取り上げ、取り上げなければならない問題は取り上げない。戦前とまったく同じではないか。
9月の東京都区部CPIは前年比2.5%だが、食料は6.1%増である。生鮮食品は2.0%だが、ウエイトの高い「生鮮食品を除く食料」(ウエイト25.2%、生鮮食品は3.8%)が6.9%と前月よりも0.5%p低下したものの高止まりしている。「生鮮食品を除く食料」だけで、CPIを1.59%p引き上げており、これを除けば0.91%なのだ。さらに上昇の原因を探れば、穀類、外食、菓子類、調理食品の4品目で1.08%p引き上げている。これらのものの価格が下がれば、日本のCPIは1%台になり、理想的な物価となる。
2024年度の消費税は24.3兆円だが、食料等の消費税は5兆円前後だろう。食料からの消費税がなくなれば、5兆円ほどの税収不足となり、これを埋めるためにどこからか税を徴収するか、国債を発行するかしなければならない。5兆円の国債増発ならば即できるが、過去最高益を更新し続けている企業から徴収すべきだ。『法人企業統計』によれば、2024年度の税前当期純利益(金融業、保険業を含む)は130.4兆円と3年連続で100兆円を突破している。これから法人税等30.8兆円が差し引かれ当期純利益は100.9兆円となり、そこから配当48.7兆円が支払われた。雀の涙ほどの預金利息に比べれば配当は桁違いだ。株主に巨額の配当ばらまいているが、企業は株主だけのものではなく社会的存在であり、社会的責任を果たすべきである。130兆円超の利益の一部を徴収しても、なにの問題も生じることはなかろう。130兆円から5兆円いや10兆円を社会還元すれば企業への評価は高まるのではないか。利益は株価に悪影響するけれども、バブルともいえる株式流通市場を正常な姿に戻すことにもなり、利益の一部を社会還元することは一石二鳥となる。
消費を回復させるには、食料だけでなく他の消費税もゼロにしなければならない。そのためには法人税率引き上げや所得税の最高税率も大幅に引き上げる必要がある。1989年度の法人税等は20.9兆円(以下の統計は金融業、保険業を除くに基づく)であったが、企業業績の悪化によって、2001年度には7.5兆円まで落ち込んだ。1989年度の法人税等を抜くのはその32年後の2021年度(21.6兆円)だった。2024年度は26.3兆円と過去最高を更新したが、法人税等・税前当期純利益比は22.9%と過去最低だ。バブルピークの1989年度は53.8%だったが、その後上昇し、2001年度には106.6%に達し、そこをピークに低下し続けており、企業の税負担は極端に低くなってしまった。30%に引き上げるだけで8兆円のプラスを見込める。法人税の課税方法を抜本的に見直さなければならない。
賃金(賞与含む)と税前当期純利益の合計額に占める賃金の割合は2024年度、60.4%と1960年度の統計開始後最低なのだ。いかに企業に極端に偏った分配の仕組みに変わってきたかが明らかである。1980年代では当比率は74.8%~82.5%であった。2000年度から2024年度までの24年間の賃金と利益の伸びは1.198倍、5.567倍と著しく開いている。こうした賃金と利益の非整合的な分配が、日本経済の成長力を止めてしまった。賃金と利益のどちらかに分配が偏ってしまえば、経済のバランスが崩れることになる。
食料の消費税率を直ちにゼロにすることに加えて、分配の過度の偏りを是正し、賃金の総額を増やさなければならない。また、大企業と中小企業の拡大したままの賃金格差、正規・非正規の格差も是正されなければ消費を底上げすることはできない。
資本主義経済のなかに、このようなさまざまな分配・所得格差を是正する仕組みは組み込まれていない。こうした問題を放置し経済の動きに任せていれば、格差は縮小するのではなく、ますます拡大し酷いことになる。1980年代以降は法人税率の引き下げ、所得税のフラット化、消費税導入などすべてにおいて格差拡大を図る政策が遂行されてきた。国家が税制などで強制的に歪んだ所得・資産分配を正し、平準化を目指すしかない。こうした政策が実行されなければ、日本経済はいまの状態のままだ。
今度の自民党総裁候補のだれもこうした根本的な問題には一言も触れない。これだけ株式が超回転売買に堕落し、バブル化の様相を強めているにもかかわらず、金融課税は封印したままだ。自民党では富裕者、企業などから税を取る政策など端からない。
総裁候補者の物価高の対応策は取るに足らぬものだ。目先の課題でさえも対処できなければ、中長期的課題にはお手上げというか、そもそも票に繋がらないことには関心がないのだ。特に、日本の直面している最大の問題は出生数の減少と人口減だが、これに歯止めを掛ける具体的な策は今もってなく、座して死を待つのみなのだ。
『人口動態統計速報』によれば、今年7月までの1年間の自然減(出生―死亡)は92.7万人で減少数は増加しつつある。近々年100万人減になるはずだ。一方、介護認定者数は今年6月、前年比1.84%の728.7万人へと増加している。しかるに、65歳以上の人口構成比は2035年32.8%、2045年37.2%、2055年39.2%へと跳ね上がる。介護保険の財源の27%を負担している40歳から64歳までの人口は2035年までの10年間に約9%減、さらに2045年までの10年間では14%もの大幅減が見込まれており、減少を補うには1人当たりの負担を増やすか、いまの下限40歳を35歳や30歳まで引き下げなければ介護保険は成り立たなくなる。財源の23%を負担している65歳以上が支払う保険料も2024年度~2026年度6,225円(全国平均、月額・加重平均)、2000年度~2002年度に比べれば2.14倍に増加している。65歳以上の人口増にともない介護保険料のさらなる負担増は避けられない。年金の抑制と医療・介護保険料の負担増によって、65歳以上の高齢者の可処分所得は伸びず、消費は期待でない。将来65歳以上の人口構成比は40%超と予測されており、この世代の消費が弱くなれば、消費をプラスにすることはむつかしい。
余程の大改革を行わなければ日本丸の沈没は免れないのではないか。総裁候補者の顔ぶれをみれば、沈没を回避できるような政策が実行されるとはとても思えない。むしろ、沈没を速めるだけの総裁が誕生するだけではないか。安倍の路線に戻ることになれば、一気に右傾化が加速し、日本国憲法が蔑ろにされる思想が露骨にあらわれるかもしれない。