国内も世界もみえていない盲目の米大統領

投稿者 曽我純, 6月30日 午前8:48, 2025年

世界は俺のものだ、思うままに動かしてやる、と老大統領は喚く。世界を良い方向にリードするのではなく、戦争を拡大させ世界を不安にさせるような不見識な発言を連発している。常に世界から注目されたい自己顕示欲だけが旺盛なようだ。これだけ3流役者の見るに堪えない劇を繰り返し観劇すれば、観客は呆れ果てているはずだ。米大統領なので、老人の戯言で済ますわけにはいかない。

トランプ大統領とネタニヤフ首相の二人の戦争犯罪者は世界から見放され、批判と怒りを招き、国の信用を失墜させるだけだ。6月20日のドル実効相場は昨年末比6.2%下落している。米国とイスラエルこそが、ならず者のテロ国家なのである。彼らは墓穴を掘っているのだ。イスラエルにイランを攻撃させたものの、長期戦になればイスラエルは破壊される恐れもあり、米国が幕引きを図った。米国はウクライナに武器弾薬を供給しており、それだけで在庫が枯渇しているときに、すでにガザで殺戮を繰り返しているイスラエルに武器弾薬を与える余裕などないはずだ。2週間にも満たないイスラエルの爆撃とイランの報復でイスラエルの劣勢がはっきりしたことによって、米国は戦略を変えたのだ。平時には見えていなかったことが、戦争によって露わになり、実態が明らかになるのだ。そもそも国土面積が163.1万平方キロメートル、人口9,060万人(2023年)のイランに対して、イスラエルは2.2万平方キロメートル、975万人(同)であり、これだけから判断しても戦える相手ではないことが分かるのだが、虎の威を借りて無謀な爆撃を仕掛けた。

米国はロシアやイランを見下している。実体経済(GDP)の規模からすればあまりにも大きな格差があり、世界の多くの識者はロシアやイランが西側、特に米国に勝てるわけがないと判断していた。世界銀行によれば2023年のGDPは米国27.72兆ドル、ロシア2.02兆ドル、イラン4,046億ドル、イスラエル5,136億ドル、ウクライナ1,787億ドルであり、ロシアでさえ米国の7.3%の規模なのである。大人と子供ほどの違いがあるのだが、こと戦争になれば、米国が支援しているウクライナは劣勢に追い込まれており、勝ち目はないのである。強力な米国の援護にもかかわらず、イスラエルはイランに太刀打ちできない。これから言えることは、GDP統計は、まったく当てにならないということだ。そもそも推計されたものであり、その中身は相当曖昧なものなのだ。

ロシアやイランなどの本当の経済力はGDPでは測れず、GDPをはるかに上回っているのだろう。欧米社会のように家庭で本来やるべきことを外部にまかせ、そうした行動を突き詰めることによって、GDPは増えるけれども、GDPが水膨れしているだけのことなのだ。水膨れした部分を取り除いた経済をみなければ、本当の姿はわからない。

製造業というモノつくりの統計は、それほどいかがわしくないはずだ。製造業の経済に占める割合がロシアやイランは高く、米国は低く、製造業の生産能力の格差はそれほどないのではないか。エマニュエル・トッドが『西洋の敗北』(2024年)で指摘しているように、製造業をより強くするには、優秀な人材が不可欠である。2020年頃、エンジニアリングを専攻するする学生がロシアでは23.4%いるのに対して米国7.2%と約3倍もロシアが多いのである。また、2020年までの10年間に米国の大学でPhDを取得した上位10カ国にイラン(7,338名)は7番目に入っている(因みに、日本は4,121名で9番目)。しかも、イランは工学系(4,834名)では第4位なのである(日本は479名)。こうした多くのPhD人材の輩出をみれば、イランがミサイルやドローンを作ることには、なんら不思議なことではないのだ。

米国人口の2%ほどしかいないユダヤ人だが、強力なロビー活動によって、権力の中枢に依然強い力を行使している。だが、米国はイスラエルと一体になって、ガザ侵攻やイラン空爆を仕掛けるけれども軍事支援には限界があるのだ。ウクライナへの武器供給であきらかになったように米国の武器弾薬生産能力は低下しており、供給したくても供給できないのだ。

FRBによれば、5月の米製造業生産指数は99.95(2017=100)であり、2017年を下回っている。新型コロナ以前の水準にも達していない。製造業生産指数の過去最高は2007年12月(108.42)だが、それまでは生産指数は強い上昇傾向を示していた(2007年12月/1989年12月は76.6%増。2025年5月/2007年12月-7.8%)。けれども、リーマンショックによって急低下し、その後は回復したものの新型コロナショックを除けば、ほぼ横ばい状態で推移している。

2022年2月のロシア侵攻後も米製造業には変化はみられない。製造業のなかの軍事・航空宇宙部門をみると今年5月の生産指数は122.68と製造業を大幅に上回っている。ただ、前年比は2.4%と2023年7月の9.3%をピークに伸びは鈍化している。軍事関連の製品を製造するといっても原材料から各種さまざまな部品の加工・生産を必要とし、製造業の総合力が要求される。そうした製造業の生産能力の衰えが軍事産業の生産低下につながっている。

BEAの米GDP統計によれば、今年第1四半期の国防費は年率1兆1,035億ドル(1ドル=145円で160兆円)であり、前年比7.3%とGDP(4.7%)を上回る伸びであった。ロシアがウクライナに侵攻した2022年第1四半期は前年比-0.1%だったが、同第2四半期からは前年比プラスに転じ、2023年第3四半期には9.2%(GDPは6.5%)へと上昇、その後もGDPを上回る伸びとなっている。確かに、2022年の国防費は前年比213億ドル増と増加額は前年を少し下回ったが、2023年は721億ドル、2024年683億ドルと2022年の増加額の3倍ほどに拡大している。こうした国防費の増加分の多くはウクライナへの経済的・軍事的支援、特に、国家財政を救うためのものだろう。ただ、GDPそのものが増加しているため、国防費・GDP比は2024年、3.67%と2021年(3.84%)を下回っている。つまり国防費の伸びが突出しているわけではないのだ。

1947年以降のGDP統計から四半期毎の国防費・GDP比を求めると朝鮮戦争時の約16%をピークに低下傾向にある。朝鮮戦争以降もベトナム戦争、レバノン内戦、グレナダ侵攻、パナマ侵攻、イラク湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争、イラク・シリアへの介入等戦後のほとんどの期間、米国は戦争に明け暮れているのだ。戦争をしていなければ、国が維持できないほど戦争にのめり込んでいる。戦争によって、国家意識を高め、内部問題を国民の関心から逸らし、政治のフリーハンドを手に入れていた。

これだけ戦争に関与していたことから1992年まで、国防費・GDP比は6%を下回ることはなかった。それが今では3%台なのである。ウクライナとイスラエルに軍事支援をしていながら国防費・GDP比が上がらないのは、米国は軍事部門の生産が限界に達しているからではないか。非生産部門の肥大化、輸入への過度の依存がモノの製造を衰退させ、米国はモノを作れない経済になってしまったのだ。ミサイルやミサイル防衛システムなどには高度な生産技術を要するが、米国内ですべてを調達することは不可能なはずだ。

米国の都市は多くの路上生活者で汚く汚れ、刑務所は犯罪者で溢れ、肥満と薬物依存者により平均寿命は短く、周りに気を配りながら歩かなければならないような危険な国だからこそ、トランプのような大統領が生まれてくるのだろう。国防費に1兆ドル超を浪費する代わりに、貧困、不衛生な街並み、薬物、肥満等の分野に資金を使って、そうした酷い状況から抜け出さなければならない。MAGAとは米国の抱えているさまざまな問題を解いていくことではないか。トランプ大統領のやっていることは、MAGAとは180度違い、内部の問題をさらに大きくしているのだ。内部問題を隠蔽し、矛先をトランプに向けさせないためにも、気まぐれで陳腐な発言や戦争を仕掛けているのだ。

そのような大統領に気兼ねし、ご機嫌取りする態度を日本や欧州の政治家は取っている。NATOは軍事費をGDPの5%に引き上げ、日本にもさらに軍事費拡大を求めてくるだろう。今回、米国がイランを爆撃したときも石破首相は事実関係を述べただけで、米国の爆撃行動については一言もコメントしなかった。同盟関係にある国が突然、イランを空爆する。そのような国際法を無視する無法な国などとは付き合っていけないのだ。イランの核関連施設を破壊するためだというが、米国は無数の核を保有し、イスラエルも核をもっていながら、まだ、保有していないイランを爆撃する。なんと思い上がった専制者なのか。大量破壊兵器という大義をでっち上げた上でのイラク攻撃を忘れたわけではあるまい。2022年にはアフガニスタンのカブールから這う這うの体で脱出したではないか。

米国は、戦争が染みついた体質(国内では肥満と薬物漬けの体質)を健康体にする方法を見つけ出すことが、米国の最大の課題だといえる。だが、過去を顧みず、前方しか見ない米国は健康体を取り戻すことはできず、世界からますます見放され、帝国の威信は失墜し、没落は不可避ではないかと思う。

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