認知症患者との暮らしから介護の将来を見る

投稿者 曽我純, 6月16日 午前8:46, 2025年

2カ月ほど認知症の人とくらしてきました。100歳近いアルツハイマー型認知症だと思います。3月中旬、肺炎に罹り、入院。1カ月後に退院し、自宅療養。退院時には足腰はいうことを効かず、歩行できない状態でした。食欲もほとんどなく、回復の見込みはつかなかった。だが、徐々に回復し、おぼつかないけれども歩けるようになりました。家族の介護はもとより、訪問医療と介護にも頼っていたが、なかでも看護師の看護を目の当たりにするとその仕事が、いかに病人を支えているのかが良くわかります。自宅介護の認知症患者にとっては、訪問看護師がいなければその生活は成り立たないでしょう。もちろん最大の介護者は24時間寄り添っている家族であり、さらに医師やホームヘルパーのありがたさも言うを待たない。

いままで気に留めることはなかったが、町を歩いているとなんと多くの看護師やホームヘルパーが自転車で疾走していることか。これだけ毎日、24時間体制で認知症などの患者に対応しているのだ。こうした制度のおかげで、体力は回復し、食事の量も増え、なんとか歩けるようになり、自力でトイレに辿りつくことができるようになった。微熱が続いていたが、これは抗生物質で抑えることができ、微熱が収まれば、気分も良くなり、椅子に座る時間が長くなった。だが、食事はそれなりに摂取しているのだが、食後はベッドに横になる時間が多くなった。

100歳近い超高齢者だが、まだ治癒する力があるのです。まったく歩けない状態からふらつきながらも歩けることができるようになったのだ。人間には驚くような治癒力が備わっていることを痛感させられた。退院後は食事と排泄機能が働かず、排泄はゾンデの世話にもなっていた。点滴も使用していたが、これは短期で終了。健康な人に比べれば食事の摂取量(水を含む)は驚くほど少ないのだが、それでも生命を維持でき、すこしでも食事が増えれば回復していくのです。数カ月間、極小の食事しか取れなかったことから、体重は減ったけれども、それほど目立つほど痩せてはいない。例えば、80~89歳の女性の体脂肪率は30%超と男性よりも約10%p高く、素人の見立てでは、体脂肪によって、極限的な状態下では、基礎代謝の低い女性の生命力が男性よりも勝っているように思われます。

2024年『人口動態調査』の性別の死因をみると、死亡順位のトップは男女ともにガンですが、男22.1万人、女16.2万人と男が5.9万人も多い。男の2番目は心疾患11.1万人ですが女は老衰(14.8万人、男5.8万人で3位)で、ガンに近づいています。女性の3番目は心疾患11.4万人、第4番目は男女ともに脳血管疾患(男51.1万人、女51.6万人)です。女性ホルモンのエストロゲンが心血管疾患や脳卒中などに罹りにくくすると言われていますが、死因からは女性の優位性を窺うことはできません。女性の死因の8番目にはアルツハイマー病(1.67万人)が登場しています。アルツハイマー病が女性の死因トップ10入りしたのは2019年で9番目(1.35万人)でした。2024年の女性の老衰死にアルツハイマー病を加えると16.4万人となり、トップのガンよりも多くなります。

老衰かアルツハイマーかと言う分け方は正確にはできないでしょう。その境界はかなり曖昧ではないでしょうか。日本経済新聞(2025年3月21日)によれば、慶応大学や米ワシントン大学の研究グループは、2015年から2021年までの間、日本の死因トップは認知症だと発表しました。2021年の人口10万人当たりの認知症死亡は135人と世界で最多です。

厚生労働省の悉皆調査によれば、2022年の認知症は443万人、軽度認知障害(MCI)は559万人と65歳以上の27.8%(1,002万人)を占めていた。年齢が上がるにつれて認知症有病率(2022年時点)は右肩上がりとなり、85~89歳では男25.2%、女37.2%、90歳超では男36.6%、女55.1%です。MCIの有病率は85~89歳では男34.2%、女23.2%、90歳超では男32.5%、女17.0%と男の有病率が高く、年齢とともに上昇するけれども、年齢による有病率は認知症ほどの高い勾配ではありません。

2040年には認知症584万人、MCI612万人、計1,196万人、65歳超の30.5%を占めると予想されています。18年間で認知症は141万人、MCIは53万人の増加を見込むが、認知症の増加がMCIよりも顕著です。団塊世代が昨年から75歳超に達し、この世代が歳を重ねるにつれて、認知症やMCIの病に罹るからでしょう。

2060年の予測は認知症645万人で有病率は17.7%、MCI632万人で有病率17.4%と予想されています。実に65歳超の35.1%(1,277万人)が認知症・MCIに罹患するという事態に陥るのです。加えて、出生数の減少と死亡増によって人口の自然減が加速しており、人口は著しく減少していきます。2022年の生産年齢人口は7,420万人、総人口比59.4%、2040年は6,161万人で56.4%、2060年には4,765万人、53.4%へと生産年齢人口は減少し、総人口に占める割合も低下していくのです(国立社会保障・人口問題研究所、出生低位死亡高位推計)。2022年の認知症+MCI/生産年齢人口比は13.5%だったのが、2040年19.4%、2060年26.8%へと大幅に上昇する見通しです。現役世代の認知症介護負担はますます大きくなることは間違いなさそうです。

2000年には介護保険制度が発足しました。2000年の要支援・介護認定者数は256万人でしたが、2024年には720万人へと2.8倍(年率4.4%)に増加しました。厚生労働省の『介護保険事業状況報告書』によれば、2025年3月の第1号被保険者の要支援・介護認定者数は707.5万人ですが、80歳~85歳未満155.5万人(総認定者数の22.0%)、85歳~90歳未満187.5万人(26.5%)、90歳超208.9万人(29.5%)と80歳以上が総認定者の78.0%を占めています(75歳以上では90.8%)。介護認定者の動向は80歳超の人口がどのように推移するかに掛かっていることがわかります。

出生低位・死亡高位の推計によれば、80歳以上の人口は2033年(1520万人)がピークになり、減少していきますが、2046年を底に増加に転じ2058年(1,670万人)まで増加し続け、2033年のピークを150万人上回ると予想されています。因みに今年5月1日現在の80歳以上は1,291万人(男474万人、女814万人)です。2033年は現状よりも229万人、2058年比では379万人も増加すると予測されています。2022年の80歳以上の人口1,233万人に対して介護認定者はその56.3%に当たる694万人です。2033年の80歳超1520万人に56.3%を掛けると855万人となり、およそこれくらいの人数が介護認定されるのでしょう。2024年の720万人よりも135万人も増加することになります。

2023年、介護職員212.6万人で708万人を介護しています。一人当たり3.33人をみていることになります。介護制度が始まった当初は一人当たり4人を超えていましたが、徐々に少なくなり、過去10年ほどは一人でこの程度の人数を介護しています。一人当たり3.33人で2033年の介護職員を求めると260万人となり。2023年を47万人上回ります。2033年までの10年間で生産年齢人口が510万人も減少する過程で、介護職員は47万人を上乗せしなければならないのです。生産年齢人口の減少に歯止めはかからず、2060年には4、765万人に落ち込むのです。その時の介護認定者は950万人、介護職員は284万人へと増加する見通しです。介護認定者と介護職員を合計すると1,234万人、これを生産年齢人口4,765万人で支えなければならないのです。2023年の介護認定者と介護職員は計920万人、生産年齢人口7,454万人の12.3%ですが、2060年には25.9%へと跳ね上がります。2060年というとずいぶん先のようですが、後35年しかないのです。今から、介護対策に本格的に取り掛かっても間に合うかどうかわかりません。

一人で身の回りのことができなくなれば、だれかの世話にならなければなりません。最も頼りになるのは連れ合いや子供です。だが、高齢になると連れ合いを介護することは難しくなるでしょう。2023年の平均寿命は男81.09年、女87.14年、女が6.05年長生きするのです。男女差は2005年には6.96年まで拡大しましたが、男が女よりも寿命が延び縮小しています。これだけ寿命に格差があるので、女性が一人になる確率は高くなります。内閣府の『高齢社会白書』によれば、2060年の平均寿命は男85.22年、女91.26年で格差は現状程度と想定されています。女性の90歳代が普通になるのですが、これだけ長生きすれば認知症患者が増加することにもなるのです(2025年3月の認定者数、男230万人、女490万人)。

厚生労働省の『国民生活基礎調査』によると、65歳以上の者のいる世帯は2023年、2,695万世帯、全世帯(5,445万世帯)の49.5%で、10年前に比べれば4.8%p上昇。2,695万世帯のうち単独世帯は855万世帯、2001年比では2.69倍に急増しています。855万世帯を男女別にみると、男304万世帯、女551万世帯だが、2001年比では男4.17倍、女2.24倍となり、男世帯の伸びが目立ちます。65歳から5年刻みの年齢構成別では、男世帯の最多は70~74歳の27.7%に対して女世帯は85歳超の24.9%が最多です。80歳以上の男のいる家族は夫婦のみの世帯が47.1%、単独世帯17.1%ですが、女の場合には単独世帯が34.8%と最大であり、夫婦のみ世帯は19.3%にすぎません。

2023年、児童がいる世帯はたったの983万世帯で、全世帯の18.1%です。日本中どこへいっても子供の声が聞こえなくなっていることが、この数値からもわかります。1986年には46.2%の世帯に児童がいたのです。児童数2人の世帯が2004年までは最多でしたが、その後、児童数1人世帯に抜かれ、2023年には児童1人世帯は児童のいる世帯の48.6%を占め、児童2人世帯は39.7%、3人以上世帯は11.7%となっています。子供のいない世帯が81.9%、しかも児童1人という世帯環境では、生活に行き詰まった時、先行き家族に頼ることは今まで以上に難しくなるでしょう。家族に頼れないのであれば、公的に用意するしかない。現役世代が縮小するなかで、介護体制を増強・増設しなければならないのです。一人で生活することができなくなれば、最後は看取るところへ入れる仕組みを構築すべきです。

人口問題は適切な政策を講じたとしても、結果が現われるのは数十年先でしょう。政府自民党のこれまでの対応は小手先、その場しのぎであった。だから、今もって出生減に歯止めが掛からないどころが、加速するという有り様だ。

70万人を割る出生は持続し、5年先のゼロ~4歳までの人口は340万人ほどになります。今年5月現在の同人口よりも12%少なく、20~24歳比では45.6%減、進学率が変わらないとすれば、20年後、多くの大学は立ち行かなくなるはずです。大学だけでなく、子供に関わるすべの分野が縮小を余儀なくされ、それが年を追うごとにより高い年齢層の分野に波及していくことになります。

すでに恐怖を覚えるほどの人口減に直面しているにもかかわらず、取るに足らない問題ばかりを議論する政治では、今の流れを変えることはできません。人口減下の介護拡大の問題をおざなりにし、米国の口車に乗って軍事費の増強に資金を湯水のように使うなど正常な思考は失われてしまっています。世襲制で政治家になり、なにの訓練も受けていない人たちが舵を取るのでは、日本丸はどこに向かうのか、不安が募るばかりです。

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