実体経済ではなく金融経済から税を取るべきだ

投稿者 曽我純, 3月24日 午前8:59, 2025年

日本株流通市場の超活況は継続している。日本取引所によれば、今年1月と2月の市場計売買代金は年率1,212兆円である。一日平均では5.5兆円、多い日では8兆円を超えている。2024年の売買代金は1,322兆円と過去最高を更新しており、まさに異常な状態だと言える。日銀が金利を引き上げたとはいえ、0.5%では株式にブレーキを掛けるほどではない。また債券利回りは1.5%を超えてきているが、まだ株式配当利回りが上回っており、投機家は債券利回りの上昇にも気にかけていないようだ。1.5%の債券利回りは米大恐慌の1930年代にもみられなかった異例の低水準だからだ。

このような博打場を正常にするには株式売買に課税するしかない。10年前の2014年の売買代金は年643兆円であり、昨年はこれの約2倍に急増した。仮に、売買代金に1%課税すれば13.2兆円の税収となる。2024年度の消費税23.8兆円の55%に当たる。こうした株式への課税で日本の株式市場がまともな姿になれば、一石二鳥ではないか。

国税庁によれば、2011年の配当所得への課税額(源泉徴収税額)は1.67兆円だったが、2023年には5.62兆円に急増している。上場株式等の譲渡所得等(特定口座内保管)は388億円でしかなかった。一方、利子所得等課税は4,679億円であり、配当所得課税の28%にすぎなかった。日銀の超金融緩和策によって株式は上げ幅を大きくするにつれて、配当所得課税も増加に転じ、2023年は2011年の3.36倍、譲渡所得等は21倍へと急増した。

2023年の配当所得課税と譲渡所得等課税計では6.44兆円となり、利子所得等課税の15.5倍になった。実際に受け取った配当と譲渡益は36.7兆円にも上り、利子所得の15倍超の所得になっている。過去10年間、株式からの所得は年20兆円~30兆円ほどで推移し、10年間累計額は264兆円に達したようである。これは利子所得の約16倍であり、株式がいかに富裕層の懐を豊かにしたかがわかる。これだけ巨額の配当を長期間取得できれば、自然に所得・資産格差は拡大することになる。

日本の税制は実体経済に依存しすぎている。これは日本だけではなく欧米にも当てはまる。日銀の『資金循環』によれば、昨年末の金融資産総額は11113兆円、名目GDPの18.2倍の規模である。因みに米国の金融資産は昨年末、379.9兆ドル(1ドル=150円で56985兆円)、日本の5.1倍の規模だ。ただ、米金融資産はGDPの13倍であり、日本の金融資産は実体経済に比較していかに肥大しているかがわかる。

1980年から2024年までに日本の名目GDPは2.37倍にとどまるが、金融資産は同期間7.76倍へと拡大した。なかでも株式・投信は15.9倍に膨れ上がり、昨年末には2,138兆円に拡大し、金融資産の19.2%を占めている。これほど急増したのはゼロ金利による値上がり益を狙った行動と譲渡益や配当への課税(20%)が軽いことによる。いくら巨額の配当を得ようが20%で済ますことができるのだ。これでは富裕者に有価証券の購入を薦めるようなものだ。

資産配分は現預金、有価証券、不動産という三分割が基本だが、ゼロ・マイナス金利下では有価証券と不動産に比重を置く運用が有利となる。庶民には縁がないことだが、富裕層にとっては資産配分の巧拙は致命的となる。日銀はいまだに超低金利を続けていることから有価証券と不動産への資金配分が引き続き行われ、富裕層の資産は膨れ、資産格差はより拡大することになるだろう。資産格差を是正するには金融資産への課税が不可欠なのである。

2024年までの過去44年間に名目GDPは2.37倍になったけれども、税収は2.73倍とGDPを上回っている。所得税だけを取り上げれば1.86倍と法人税2.02倍を下回っているが、所得税に消費税を加えた税(IC)は4.11倍とGDPの伸びをはるかに超えている。2024年度のICは44.4兆円と法人税18.0兆円の2.5倍の規模なのだ。

2024年度の法人税・GDP比率は3.0%であり、3%台に乗せるのは1991年度以来33年ぶりである。だが、バブル期には4.6%もあり、これだけ法人税を納めても、経済にはなにの問題も生じなかったのである。むしろ、法人税は少なすぎたといえるのではないか。2024年度の所得税・GDP比率は3.3%だが、1990年度は5.6%、金額では1991年度の26.7兆円が最高である。法人税が最大であったのは1989年度の19兆円であり、このピーク時を合計すれば45.7兆円、2024年度の38.1兆円よりも7.6兆円多い。

2024年度のGDPから所得税と法人税のそれぞれのピークの対GDP比率を適用すると合計の税収は62.1兆円となり、この2税収だけで本年度の税収の84.6%に相当する。所得税率と法人税率を1980年代の水準に戻すことができれば可能なのである。所得税の累進性を高くし、法人税の税率を引き上げる必要がある。むしろ、このように税率を変えたほうが、現預金を溜め込んでいる法人の資産を有効に活用できるだけでなく、所得格差を縮小することにもなるだろう。

2024年度の税収は73.43兆円(補正後)であり、所得税と法人税だけで62.1兆円徴収できれば、11.33兆円を他の税で徴収すればよいことになる。相続税、揮発油税、酒税、関税、印紙収入などによって不足額をカバーすることができるだろう。そうすれば消費税は必要なくなる。先に指摘した株式売買に0.5%でも課税する措置を講ずれば6.6兆円の税収になる。さらに11113兆円もの巨額の金融資産に課税すれば、0.1%でも11.1兆円の税収が確保できるのである。

実体経済の成長がほとんど見込めないところから税収を求めるのではなく、実体経済とは比較にならない成長をしている金融経済から税は取るべきなのだ。岸田前首相も金融課税を口に出したが、直ぐに引っ込めてしまった。自民党の支持者である富裕層や企業が猛反発したからだ。だが、金融課税に着手しなければ、日本経済はこのまま水面を出るか出ないかの不安定な状態から抜け出すことはできない。金融課税を大幅に強化すること、さらに所得税の累進性を強め、法人税率を引き上げる一方、消費税を廃止の方向へ舵をきる改革が、なによりも先に実行されなければならない最重要政策だ。

所得税と消費税で年44.4兆円も負担させられているのでは、消費意欲は沸かない。所得税と消費税だけでなく社会保障費も年を追うごとに負担は重くなっており、これも消費に悪影響している。2024年度の被保険者の負担は42.5兆円と所得税と消費税の合計額に近い。2018年度、38.3兆円であったのが、6年間で11.0%増加している。これからも社会保障費の負担は増加し、可処分所得を圧迫することになる。実体経済ではなく金融経済からより多くの税を徴収しない限り、家計の消費マインドを生き返らせることはできない。

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