出生増ではなく大砲を選ぶ政府

投稿者 曽我純, 3月3日 午前9:04, 2025年

昨年12月の『人口動態統計速報』によれば、去年1年間の出生数は720,988人と前年よりも5.0%減少した。5年前の2019年比19.8%も減少しており、2019年・2014年比の13.2%減よりもさらに減少率は大きくなった。この調子で減少していけば5年後には、出生は60万人を下回ることになる。一方、2024年の死亡は1,618,684人、前年よりも1.8%増加した。5年前の2019年比16.1%と2019年・2014年比の8.6%から急増している。その結果、2024年の自然減は897,696、過去5年間に81.2%増と2019年・2014年比99.8%増より伸びは低下したが、それでも恐ろしいほどのペースで日本の人口は減少しているのである。このような人口動態に基づけば、5年後の自然減は130万人程度に拡大するだろう。もし、この自然減が2029年以降持続することになれば、10年間で1,300万人の人口減となる。

それにしても、日本の死亡は異例と言えるほど増加している。新型コロナによって、2021年は前年比4.9%、2022年は8.9%と2年連続の急増となったが、2023年0.5%、2024年1.8%と減少することはなく増加し続けている。新型コロナ後、死亡が増大して続けているのは、日本だけではないか。

新型コロナウイルス感染症による死亡は2020年4,106人、2021年16,756人、2022年47,638人、2023年38,086人、2024年9月までの9カ月では29,457人と前年同期32,022人の8.0%減にとどまっており、依然、新型コロナは衰えていないのである。2023年、インフルエンザで死亡したのは1,382人であり、今も、新型コロナが猛威を振るっていることがわかる。脳内出血32,704人よりも多いのである。

ワクチンを6回、7回も打っている人がいるが、いくらワクチンを打っても新型コロナを防ぐことはできないことが証明された。むしろ打てば打つほど感染するのである。しかも、死亡の急増はワクチンに関係していると捉えるべきだ。これだけ超過死亡が続いていることに、国は調査することなく、放置したままなのだ。

死亡の急増に目をつぶるだけでなく、激減している出生についても本気で取り組んでいるとは言えない。これだけ出生が減り、死亡が増え、人口が年90万人も減少していることは国力が衰退していることである。そのようなときに2022年度まで5兆円台であった防衛費は2024年度7.9兆円、2025年度8.7兆円へと急増、さらに2027年度は10兆円超を目指している。国の基が危うくなってきているにもかかわらず、米国に言われるままに軍備増強に励み、米軍の負担を減らすのだ。国は出生や人口の激減をなんとも思っていないのだ。歳出の構造を抜本的に改めなければ、日本はこのままずるずると弱体の道を辿ることになるだろう。

一体、だれが日本を攻めてくるのだろうか。むしろ、軍備の拡大・増強によって、緊張を高めるだけなのだが。戦後、中国が他国に戦争を仕掛けたことがあるだろうか。最大の戦争国は米国なのだ。世界中に米軍は760カ所もの基地を保有しているが、中国やロシアは微々たるものだ。今まで通り戦争を起こすのは米国なのである。その米国と一緒になり軍備増強に走るとは遇の骨頂である。中国のすぐそばの沖縄に米軍基地があることが、最大のリスク要因ではないか。

出生減だけでなく、出生の中身も憂うべき状況ではないか。それは2.5kg未満の未熟児の割合が一向に低下しないことである。1975年には出生(男)に占める未熟児の割合は4.7%であったが、その後、上昇し続け、2005年には8.5%となり、2020年まで8%台で推移している。女は1975年の5.5%を最低に、2005年には10.6%と2桁となり、2020年も10.3%とほぼ横ばい状態なのだ。しかも、2.5kg~3.0kg(女)は1975年の28.1%から2020年は42.2%に上昇している一方、3.0kg~3.5kgは1975年の46.8%から2020年39.0%に低下しているのだ。

結婚年齢が上がり、したがって出産年齢も高くなることも未熟児増の要因に挙げられる。妻の平均初婚年齢は1975年の24.7歳から2023年には29.7歳に上がっている。未熟児は出生後、医療を必要とするだけでなく、発育の遅延や障害のリスクが大きく、成人してからの健康面に問題が生じやすいと言われている。

『国民健康・栄養調査』によれば、2023年のカロリー摂取量は1,877kcal、男2,081kcal、女1,695kcalだが、女20~29歳、1,630kcal、女30~39歳1,661kcalともっともカロリーを取らなければならない年齢層だが、20~29歳は80歳以上よりも少ないのである。つまり、このような少ない摂取量では強い身体を作ることはできない。したがって女の「痩せの者」の割合(20~30歳台)は2023年、20.2%と2011年以降では最高である。出産を控えている女性の栄養状態は悪く、体力もなければ、健康な子供を出産することは難しい。

2023年と2002年を比較するとカロリー摂取量は少なくなっているが、動物性タンパク質と動物性脂質は増加している。さらに、問題なのはビタミン、ミネラルが不足していることだ。タンパク質、脂質、炭水化物が足りていても、ビタミン、ミネラルが不足すると代謝が追い付いていけず、身体に代謝しきれない物質が蓄積される。タンパク質の代謝障害がおこれば、脳内の海馬にアミロイドβ、タウタンパク質が溜まり、アルツハイマーになる。代謝障害は抑制遺伝子の不活性化を引き起こし、ガン細胞が発生しやすくなると言われている。

ビタミン不足はD、A、C、B1、B2、ミネラルではカリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、それに食物繊維も摂取目安量を下回っている。『家計調査』(二人以上の世帯)によれば、2024年の米の消費量(kg)は56.19kgと2000年94.22kgから40.4%も減少している。生鮮魚介にいたっては62.7%も減り、生鮮野菜(g)23.3%と生鮮果物(g)50.8%もそれぞれ減少している。増加したのは生鮮肉29.6%、パン4.0%くらいである。醤油や味噌も約半分になる半面、菓子類や調理食品は大幅に増加している。これだけ野菜と果物の消費がすくなくなれば、ビタミンやミネラル不足になっていることは否定できない。

20歳台、30歳台の女性のカロリー不足とビタミン、ミネラル不足がじわじわ健康、出産などに悪影響しているのではないだろうか。女性の社会進出も晩婚化と少子化に少なからず影響しているだろう。女性が仕事を持っても、出生や子育てがしやすい職場や社会を作り上げなければならない。すでに、手遅れだと思うが、勤務時間を守る、有給休暇の完全消化、長期の育児休暇を男女同等にする。これらは法律に定めればすぐにできることなのだ。

第2次大戦末期に大空襲を受けながら、それでも戦争を止めなかったことと同じことが、今国内で起こっている。原子爆弾を落とされなければ、分からないほど軍部は腐りきっていた。人口動態が危機に陥っているにもかかわらず、出生や育児の支援や制度の充実ではなく大砲を選択するという国を亡ぼす政策を遂行している。政官財がグルになり、既得権益をいかに守るかだけを目標にしている。戦後80年間で作り上げられた政官財の仕組みを解体し、再構築しない限り、最重要課題は政官財の埒外に置かれ続けられる。

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