日本経済をまともな姿にするには政治を変えなければならない

投稿者 曽我純, 12月23日 午前8:51, 2024年

1993年から2023年までの30年間、日本の名目GDPは年率0.53%しか伸びなかった。だが、米国は4.76%と日本の約9倍の高い成長を遂げた。イギリスとドイツは4.25%、2.89%それぞれ伸びており、日本を大幅に上回っている。なぜこれほど日本経済は冴えないのだろうか。最大の原因は家計が消費を増やさないからだ。GDPは、その構成比率が最大の家計消費によってだいたい決まる。日本の家計消費支出(帰属家賃を除く)は年率0.58%しか伸びなかったが、米国は4.92%も増加したのだ。日本のGDPに占める家計消費支出の比率は1983年には45.7%に上昇したが、1991年の43.1%まで毎年低下した。その後、2013年の47.1%まで上昇していったが、新型コロナによって、2021年には43.2%に急低下、2023年は44.7%に戻している。より広義の民間最終消費支出でも2023年は54.5%と67.9%の米国、60%のイギリスよりは低く、ドイツ50.7%よりは高い。

米国の消費支出・GDP比率は1990年代から2011年までほぼ上昇していたが、2011年の68.6%をピークに低下していた。新型コロナによって2020年には66.6%に急低下したが、その翌年の2021年には68.1%に上昇したことが、経済の急回復をもたらした。雇用の拡大と賃金上昇が消費者心理を改善させ、消費と設備投資が上手く噛み合って、高い成長を続けている。

ドイツの消費支出・GDP比率は日本よりも低いけれども、経済成長率は日本を上回っている。ドイツも貯蓄超過だが、日本のように政府支出の拡大だけでなく、輸出でも超過貯蓄を吸収している。ドイツの輸出・GDP比率は2023年、47.3%であり、日本の21.9%の2倍以上である。輸入・GDP比率も43.1%と高いが、輸出が輸入を4.2%p上回っている。2005年以降の統計によれば、2023年の輸出超過率は4.2%だったが、過去19年間で5%を下回ったのは2011年、2022年、2023年の3年にすぎず、この3年を除けばいずれも5%を上回り、6%以上が8回あった。ドイツ製商品の国際競争力の強さによって、巨額の超過輸出を可能にしているのだ。逆に言えば、世界経済の成長率が低下したり、輸出力が衰えればドイツ経済は減速やゼロ成長を余儀なくされる。

GDPから消費を除いたものは貯蓄であるから、日本経済は貯蓄で溢れていることになる。貯蓄をすればするほど日本経済の動きは緩慢になっていく。「貯蓄は美徳」という日本人に備わっている気質が、日本経済の足を引っ張っているのだ。個々人にとって、貯蓄は将来への備えとなり、安心感をもたらすものだが、みんながそのような貯蓄行動を取れば、需要不足が起こり経済にはマイナスになる。こうした状況が延々と続いてきたが、これからもこの動きは止みそうにない。

日銀の『資金循環』によれば、今年9月末の家計金融資産は前年比2.8%増の2,179兆円、そのうち現・預金は1,163兆円、構成比は53.4%だ。現・預金の中身は、流動性預金656兆円と定期預金350兆円である。ほとんど利息が付かなくても、せっせと貯め、貯まることが楽しみであるようだ。もし金利が2%であるならば、年20兆円の利息が家計に入る。金融資産全体が2%で運用されれば年43兆となり、これだけ家計所得が上乗せされることになる。米10年債利回り(4.52%)で全額運用されれば、98兆円という途方もない運用益が家計に転がり込むことになる。夢のような話だが、米国ではこれが普通なのだ。日銀が企業のためにゼロやマイナス金利というバカげた政策を延々と続け、これからも同じような金融政策を遂行すれば、家計から企業への何十兆円という巨額の所得移転が継続されることになる。日銀の超金融緩和策で家計は痩せ、企業は太るのだ。

1,000兆円を超えるお金が金融機関に預けられているのだが、金融機関はこの巨額預金の使途を見いだせず、日銀に預けている。日銀に預けられた預金で日銀は国債を買いまくったのである。国債の需給はきつくなり、政府は望み通りに大量の国債を発行し続けることができるのだ。家計の金融機関への預金活動が途絶えないかぎり、政府発行の国債は難なく消化されるだろう。

家計の貯蓄を使うことができるのは政府しかいない。政府以外の部門で家計貯蓄を有効に使えればよいのだが、民間設備投資も内部資金でだいたい調達できるので、企業は新たに借りる必要がないのだ。家計貯蓄活用の頼みの綱は政府だけであり、国債発行で調達した資金をいかに国民のために使うかということが一番大事なことになる。

自民党は政府の歳出を戦後ほぼ独占しており、歳出が適正に実施されなかったことなどにより、バブル後、日本は長期低迷に陥ったのである。国の歳出はまさに政治によって決まるが、政治を支配している自民党の賛同者のために予算を組むのである。自民党は国民のためではなく、自民党を支える大企業や日本医師会等の支援企業や団体のために働いているのだ。結局、選挙で過半数を獲得しなければ、歳出の根本的な改革はできない。世界でも稀と言えるほど長期間支配し続けた自民党を引きずり降ろさない限り、国民のための歳出改革は不可能なのである。

前回の衆議院選で自民党は過半数を獲得できなかったけれども、国民民主党や維新などの似非野党が自民党に追随し、歳出の大枠は変わらないだろう。103万円の壁などはみみっちい話であり、この程度の税制の変更で一体何が変わるというのだろうか。こうした陳腐な議論を延々とやることに虚しさを覚えないのだろうか。本当に、消費を刺激したいのであれば所得300万円以下であれば、所得税を課さず、300万円以上所得が増加するにつれて税率を累進的に引き上げるべきだし、金融所得も総合課税にし、消費税率を引き下げ、さらに法人税を引き上げねばならない。

国税庁の『民間給与実態統計調査』(2023年)によると、民間企業で働いている年収300万円以下の給与所得者は17,455千人、全体の34.4%を占める。年収800万円以下に拡大すれば給与所得者の88.9%がその中に入ることになる。こうした層の所得税を軽くし、高所得者や途轍もないほどの利益を出している企業には高い税率を適用しないことには、日本経済は浮上しない。富裕者や大企業といった自民党支持者の懐を温める政策が日本経済を沈没に導いている。まさに自民党演出の人災なのである。日本経済は経済政策では対処できず政治が動き出さなければ決して成長を取り戻すことはできない。

FRBは個人消費支出物価指数が11月、前年比2.4%と2カ月連続で上昇したにもかかわらず、FFレートを引き下げ、日銀は11月のCPI(生鮮食品を除く)が2.7%へと前月よりも0.4%p高くなったが政策金利を0.25%に据え置いた。これら11月の物価指数はFOMCや政策決定会合以降に公表されたものだが、10月分についても政策目標を超えていた。自ら掲げた物価目標を超える高い伸びを示しているにもかかわらず、FRBは引き下げるという反対の政策を取り、日銀も据え置くという政策目標に反する行動を取った。政策目標など無きに等しいものなのか。これも政治を意識しての行動であれば、政治を変えていかなければ金融政策もままならない状態が続くことになる。

 

★今年は本号で終わりにします。次号は来年の1月13日から始めます。みなさま良い年をお迎えください。

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