各政党は一時的な給付金など有権者受けのする政策を連呼しているが、そのような政策では消費は盛り上がらない。消費税の廃止や所得税、法人税の累進性の引き上げなどの根本的な所得分配政策を実行しないかぎり、財布のひもは緩まない。そこまで言及しているのは「れいは」だけだ。野党が躍進したとしても「維新」や「国民」などは与党とほとんど変わりなく、消費が上向く政策は実施されず、消費はこれまで通りの弱い状態が続くだろう。
給付金によって消費が増加するのであれば、給付金を支給すべきだが、2020年の新型コロナ不況のときの一律10万円の特別定額給付金を思い起こすならば、給付金では消費を刺激することはできないことがわかる。そのとき、約12兆円を国民にばらまいたけれども、2020年の消費支出は前年比-5.6%の大幅なマイナスとなった。総務省の『家計調査』(二人以上の勤労者世帯)によれば、消費性向は2019年の67.9%から2020年には61.3%へと6.6%pも低下したのだ。新型コロナで先行きどのようになるかわからないという強い不安が、消費を萎縮させた。通常の景気後退期よりもより深刻な事態に陥ったからだ、とも言えるが、2023年の消費性向も64.4%と10年前よりも10.5%pも低いのだ。
今年8月の消費性向も前年より3.2%p低く、これで4カ月連続の前年割れである。賃上げが実際どうなるかわからない、という不安が依然払拭されていないからではないか。円安ドル高によって、企業の当期純利益(法人企業統計)は2023年度まで3期連続過去最高を更新する、という好業績を享受しながら、賃上げはこの程度だということは、経済が悪化すれば、賃上げなどは霧散霧消してしまう。先行きはまったく不透明であり、現状の延長線上にはないということがバブル崩壊以降、人々の胸の中に刻み込まれている。だから、給付金などでは逆に、これほどまでしなければならないほど経済は悪いのだと意識させ、一層貯蓄に向かわせることになる。
消費性向が64.4%にすぎないことは、日本経済はかなり大きな需要不足に直面していると言える。貯蓄と投資の関係からは、もし需要不足が起これば、政府支出あるいは超過輸出によって需要不足分が補われる。2023年の貿易バランスはマイナスなので、政府の支出増によって辻褄を合わせた。超過貯蓄状態にあるかぎり、国債発行による政府支出増は続き、政府支出は増加することになる。いずれの政党が政治を担うにしろ、超過貯蓄の状態が続けば、国債を発行し、それで需要不足を穴埋めせざるを得ない。政権を勝ち取ることができれば、153兆円(2023年GDPの公的支出)もの巨額な資金を手に入れ、その使途を決めることができる。政治はこの巨額の金をめぐる戦いなのである。
出生数は異常なペースで減少している。各党、人口減に言及しているが、その内実は分かっているのだろうか、はなはだ心もとない。厚生労働省の『人口動態統計速報』によれば、今年1月~7月の出生数は41.5万人、前年比5.1%減、一方、死亡は2.3%増の93.9万人、自然減は52.3万人、前年よりも9.0%多い。
こうした極端な少子社会を作ったのは自民党の独裁政権なのだ。これに歯止めを掛けることなど自民党にできるわけがないし、やる気もない。2021年以降の死亡急増についてもその原因等の説明はなにもない。2022年の死亡は前年比8.97%、前年よりも4.08%pも高くなった。これほど死亡は急増したが、2023年はさらに0.44%増加し、2024年も7月までで前年を2.3%上回っており、増加基調を維持している。2023年の死亡は2020年より14.8%多く、2020年と2017年は2.4%、2017年と2014年では5.4%それぞれ増加している。いずれも3年間の死亡の増加率だが、2023年までの3年間の増加率が異常なのはだれでもわかるだろう。こうした異常な数値があらわれているにもかかわらず、自民党は説明をしない。死亡や出生は自民党にとっては日常茶飯事のなんでもないことなのだ。
だから、未だに、コロナワクチンの接種を高齢者に進めている。今年5月まで公表されている新型コロナウイルス感染症死亡は、1月を除き前年よりも増加しているのだ。5月は1,722人、2020年以降の5月では2021年に次ぐ死亡数なのである。ワクチンを6回、7回も打つという世界でも見当たらないワクチン接種をしていながら、なお終息しない新型コロナウイルス感染症死亡をなぜ放置しているのであろうか。
新型コロナウイルス感染症死亡も減少しないし、死亡が急増後も増加し続けているという異常なシグナルを発していながら、そうした事態に真剣に取り組まず、遣り過ごすのは日本の行動原理なのだろうか。第2次世界大戦、バブル崩壊、福島第1など顧みるにつけ、明らかな事実を直視せず、深刻な事態に陥りながらも、そうした事実を隠蔽しながら遣り過ごしてきたことを政府は今も踏襲しているのだ。
和田秀樹が指摘するように、今でも日本では、江戸時代のような封建社会の主従関係が続いているようである。徳川幕府が倒れて明治に入れば、今度は天皇が頂点に立つ天皇制であるから、日本社会はより強力な主従関係下に置かれ、天皇カルトといえる社会が打ち立てられたのだ。戦争で天皇カルトは取り払われたのだが、完全に払拭されたわけではなく、今もなお天皇信奉者は多く存在している。
昭和天皇は現憲法施行後もマッカーサとの会見を行い(計10回)、さらにダレス宛に「口頭メッセージ」や「文書メッセージ」を送り付け、二重外交を担ったようだ。このように、戦後も昭和天皇は政府と国会を飛び越えて、憲法を踏み躙る行動を取っていたのだが、そのようなことを国会で取り上げ、追及したことはない。本当の敗戦処理がなされなかったために、戦後も戦前の天皇制が生き続けているのだ。
このような封建性、天皇カルトが日本社会を覆っているならば、戦前同様、日本人は考える習慣が身についていないはずだ。特に、政治については考えることなく、お上に任せておけばよいという風習が残っている。政治などに首を突っ込むことは憚れるのである。いつまでもそのような習性は抜けずに、いまも日本社会に根強くのこっている。
だから、お上の言うことは素直にそのまま受け入れるのだ。ワクチンを打つように言われれば、はいそうですか、となにの疑問も抱かず、打ってしまう。死亡数が急増しても政府がなにも言わないのであれば、特段、気に留めることでもないと沈黙するだけ。福島第1の廃炉処理が進まず、13.5兆円の国の支援枠に達しても、また枠を増やせばと国に任せてしまう。万事がこうなのだ。
戦後、自民党がほぼ政権を握り、独裁政権を築き上げることができたことも、封建主義が日本の土壌に溶け込み抜け出していないからではないか。日本は「民主主義」ではなく「封建社会」に近い社会だから、戦後、79年間もの長期間、自民党が政治権力を維持できたのである。これほど長期間、ひとつの政党が国を支配する国は他にはなかなか見当たらない。
しかも、バブル崩壊以降、経済が衰退の一途をたどっているにもかかわらず、権力を維持できるという不思議な国なのである。普通、経済が行き詰まれば、対抗勢力が出没するはずだが、失ったのは一時的であり、数年で自民党が復位した。これだけ、経済が不振に陥り、一人当たりGDP(2023、IMF)は世界第34位(35位は韓国)に落ち込んでいるが、国民は何の行動もせず、押し黙ったままだ。1990年は世界第8位、2000年には第2位まで上り詰めたが、2010年第18位、2023年34位と2001年以降は釣瓶落としだ。2001年4月、小泉純一郎内閣が成立し、不況下でありながら規制改革等を推進したが、経済の地盤沈下は加速するばかりであった。
長期自民党政権を支えているひとつの要因は、選挙制度である。一票の格差が依然2倍もありながら、その格差を是正する動きは遅々として進んでいない。こうした根本的な選挙制度の欠点が、自民党を有利にしているのだ。また、地方のほうが都市に比べて、より封建主義的色彩が濃く残存しており、自民党支持者が多く、かつ投票率が高いことも自民党を有利にしている。前回の衆議院選挙では、自民党獲得票は小選挙区2,781万票、有権者数の26.3%、比例1,991万票、有権者数の18.9%でしかないのだ。これで自民党は「絶対安定多数」の261議席を獲得した。自民党が勝てるのは、選挙制度の仕組みと封建的地方社会の存在という要因が機能しているからである。