日本の消費者物価指数(CPI)は2021年9月に前年比0.2%とプラスに転じてから約3年プラスで推移している。今年8月は3.0%と昨年10月以来10カ月ぶりの3%台に上昇した。寄与度をみると光熱・水道1.02%p、食料1.01%pだけで2%p以上引き上げていることがわかる。こうした物価の状態からは日本経済は緩やかなインフレであると言えるだろう。決してデフレではない。
総務省の『家計調査』(二人以上の世帯)によれば、8月の食料支出は実質2.6%増加したが、プラスとマイナスを繰り返しており、食料への支出も抑制していることが窺える。実質消費支出は前年比-1.9%とほぼマイナスで推移しており、消費意欲は強くはない。ただ、数%の物価上昇は消費を刺激する効果が期待できる。体温は適正な値からはずれれば、体調の不調を示すことになるが、同様に、物価もマイナスに陥ったり、反対に高騰すれば、経済に打撃を与えるけれども、数%であれば適度な上昇といえるだろう。
物価を上回る賃金上昇が叫ばれているが、8月の『毎月勤労統計』によると、実質賃金は前年比-0.6%と3カ月ぶりのマイナスとなった。昨年8月は-2.8%の大幅な前年割れになっていたにもかかわらず、今年8月もマイナスになったことは、簡単に実質賃金がプラスになることの難しさをあらわしている。
企業は賃金を抑制することによって利益を捻出してきたため、利益を犠牲にしてまで賃金を引き上げようとはしないだろう。賃金抑制は経済全体にとっては良くないことだが、1企業にとっては望ましいことなのだ。労働組合がほとんど無きに等しい状況では、賃金決定権は経営者が握っている。こうした独裁的慣行を打ち破るには労働者の結束しかない。
国がいくら賃上げを持ち出し、企業に要請しても、決めるのは企業なのであり、しかも自民党と企業は持ちつ持たれつの関係にあることから、なんとでも理由を付けて、適当にはぐらかし、最終的には企業寄りの曖昧なことを言ってお茶を濁すのではないか。
経済が順調に進むには、売上高の伸びに利益や給与等の伸びも見合ったものでなければならない。1990年代以降の日本経済はそのように均斉的ではなかった。賃金を抑制し、ゼロ金利で利息の大幅な減少を享受し、法人税率の引き下げによる負担軽減が経済発展を損なう要因になった。こうした要素間の歪な構造が是正されなければ、日本経済は正常な姿を取り戻すことはできない。
企業にしても従来と変わらない組織、行動様式を取り続けているから、労働生産性は上がらないのだ(日本の一人当たりのUS$名目GDP(2023年)はG7で最下位、最高の米国の41.4%)。これだけ、ITやAI技術が発展してきても、労働生産性に変化はない。おそらく人員の配置、適材適所が採られ、仕事の仕方の一般化や文書化などが図られていれば、生産性は自然に上がるのだが、それがそうならないのはトップが無能であり、引き継いだことをそのまま繰り返しているからだ。さらに、日本企業では依然ローテーション人事が行われており、プロの人材育成がなされていない。要するに知識や技術を積み重ね、より高い次元に引き上げる努力を怠ったことが、生産性が伸びない原因なのである。
首相の資質が問われるのと同じように、経営者の資質も問われなければならない。本当の経営者になるには現場での修行だけでなく、特別な教育システムが必要だ。政治のような派閥や人間関係といった要因で決まる仕組みでトップが選ばれ、巨額の報酬を懐にできるのでは企業は没落することになる。むしろ、経営に携わる人たちの報酬は一般労働者と変わらない程度のものでよいのだ。そして、生活は共同生活で質素であるべきだ。経営者がそのような厳しい規律生活をしていることを示せば、労働者は仕事に自然に励み、自ずと生産性は高くなるだろう。
株主総会はほとんど機能せず、形骸化しており、少しでも企業を民主的に運営するためには、経営者と労働者のそれぞれの代表が議論を交わす場がなければならない。社外取締役の報酬は限りなく低い水準に抑えるべきだ。何社もの社外取締役を掛け持ちすることは禁止しなければならない。
長い物には巻かれよという考えが今も生きている。新型コロナワクチンは成人の約9割が接種したし、今なお接種を促し、それに従うという世界でも稀な国である。国の言うことを鵜呑みにし、何の疑問も抱かず、素直に言うことを聞く。職場等でもワクチンを打たなければならない圧力にさらされ否応なく打ってしまったという巷の話を聞く。戦前、日本人が取った監視社会と同調圧力の社会と少しも変わっていない。日本がより深刻な事態に陥った場合、国がそれに対処するために国民に犠牲を求めることを求められたならば、従順に従い、国全体が一方方向に突っ走ることが懸念される。
国がアジアの安全保障は緊張が高まっていると言えば、それにきっと賛同しているのだろう。南西諸島にミサイル基地等を配備し、要塞化を進めているが、このような軍事化こそが緊張を高めることになるのだ。日米安保体制下で米軍がかってに行動すれば、火の粉は日本に降り掛かってくる。
日本はミサイルなどの兵器購入で米国に貢献しており、米軍需産業を支えている。戦争がなければ米軍需産業は成り立たず、口先では戦争はすべきでないと言うが、本音では戦争は大歓迎なのだ。特に、米国以外での戦争は米国にとって軍需産業だけでなく、米経済にもプラス効果が大きい。ロシアとウクライナの戦争が始まった2022年第1四半期の米実質GDPは前期比-0.3%のマイナスだったが、同第2四半期はプラスとなり、その後、FRBの利上げにもかかわらず、プラス成長を維持し続けている。ウクライナとイスラエルへの巨額の軍事支援が米軍需産業を活気づけ、軍需部門が米国経済を牽引しているとも言える(8月の米鉱工業生産指数(2017年=100)は103.1だが、軍需・宇宙部門は120.5)。
ウクライナとイスラエルが戦争を続けることを米国は望んでいるのだ。米兵を殺さずに、兵器の売却で潤うだけだから。だから、米兵器のロシア領への使用をウクライナに認めないのである。イスラエルが残虐極まりない軍事行動を取ろうが、そのようなことにはお構いなく兵器供給に精を出す。米国は言ってみれば「死の商人」なのである。
そのような国に縋っている日本は世界からみれば異様だと思われているはずだ。親分と子分の関係がここまで露骨になれば、中国やロシアに足元を見られ、日本は一体、自分の考えを持っている独立国なのか、と不思議がられているはずだ。よほど、日本はお人よしなのだともみられているのではないか。
安保体制が続く限り、隣国との関係は改善しない。米国は日本が隣国と仲良くすることはおもしろくないのである。日本が中国と悪くもなく、良くもない関係にあること、つまりほどほどの関係にあることを米国は目論んでいる。だが、中国とロシアは日本が米国の支配下に置かれていれば、決して友好関係を築くまでには発展しないだろう。軍事費をGDPの2%まで引き上げる方針だが、増加額の大半は対中国を想定した支出だろう。日本が軍事力を増強すれば相手国も増強するという鼬ごっこになってしまう。衣食住が満足に手当てできない人がいながら軍事費を倍増する。米国や中国が採っている軍事拡大路線と同じことを日本も採用しているのだ。憲法第9条は反故にされつつある。