日本経済の足取りはたどたどしい。今年第2四半期の実質GDPは前期比0.7%と2四半期ぶりにプラスとなったが、昨年第3四半期のー1.1%、同第4四半期0.1%、今年第1四半期-0.6%と景気後退下と言えるなかでのプラスであり、先行きは楽観できない。第2四半期がプラスに転じたのは、家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く、CH)が1.1%と昨年第1四半期以来5四半期ぶりにプラスになったからだ。
今年第2四半期の実質GDPは前期比ではプラスだが、前年比では-1.0%と2四半期連続のマイナスだ。CHが-0.2%と冴えなかったことから、民需も0.6%減少し、いずれも4四半期連続の前年割れとなった。これほどの民需のマイナス成長は、新型コロナ発生後の2021年第1四半期までの6四半期連続以来である。新型コロナにより激しく経済収縮した反動で、景気は一時的には持ち直したかにみえたが、反動による反発が収まれば、元の木阿弥、再び民需はマイナスに陥ってしまった。
今年第2四半期の実質CH(季節調整値)は239.3兆円、これを新型コロナ以前の2019年第2四半期と比較すると2.5%下回っている。さらに前の2014年第2四半期と比べるとどうだろうか。-0.1%減とわずかだが、10年前よりも少ないのである。家計消費が持ち直す要因は見当たらず、この傾向はさらに強まるだろう。
実質GDPは10年間で31.6兆円増加したが、その増加額の48.5%は公的需要であった。その次が民需の27.4%であり、外需が23.2%と続く。つまり、日本経済にとっては公的需要と外需は生命線だということなのだ。国が大量の国債を発行し需要を生み出し、円安ドル高で輸出をのばすことによってのみかろうじて生き延びていると言ってよいだろう。だが、これだけ公的支出を増やしても、2024年第2四半期までの10年間、実質GDPは年率0.58%の超低空飛行であった。公的需要が10年前と同じ規模だと仮定すれば、実質GDPは年率0.3%となる。
国が巨額の国債を発行できるのは、多くの家計がせっせと金融機関に預金をしているからだ。総務省の『家計調査』(二人以上の世帯)によれば、勤労者世帯の可処分所得は今年6月、7月の2カ月連続して、前年比2桁の高い伸びを示したが、消費支出は0.6%、2.0%の低い伸びにとどまり、平均消費性向は大幅に低下した。ということは、貯蓄性向は急速に上昇し、貯蓄の多くは金融機関に預けられたはずだ。金融機関は預金を持て余しているため、預金を国債で運用することになる。国民が貯蓄に励むかぎりは、国は国債発行を続けることができるのだ。貯蓄志向の強い国民性が1,200兆円もの巨額国債の積み上げを可能にしたのである。
日銀の『資金循環』によれば、今年6月末の家計と民間非金融法人の現預金は1,126兆円、349兆円であり、このお金が中央政府の国債等の資金源となっているのだ。金融資産から金融負債を差し引いた家計の純金融資産は1,819兆円であり、政府や民間非金融法人の純負債を穴埋めしている。
家計の高貯蓄性向がこれからも続くことになれば、家計の代りに国が消費せざるを得ない。『家計調査』によれば、2000年から2023年までの勤労者世帯の平均消費性向は2014年の75.3%が最高であり、最低は2020年の61.3%である。2014年の最高から最低の2020年まで6年連続で低下していたことは、新型コロナの前から家計は消費に慎重になっていたということだ。それが新型コロナによって加速されたのである。2000年から2017年までの平均消費性向は、一度も70%を下回ったことはなかったけれども、2018年に70%を割ってからは6年連続の60%台である。2023年は64.4%に上昇したとはいえ、最低から3.1%pの改善にとどまり、70%まで回復するかどうかを見通すことはできない。われわれ日本人にとっては、いまでも「貯蓄は美徳」なのである。
このような貯蓄への姿勢はおいそれと変わることはない。これからも貯蓄に励み続け、消費性向が持続的に上昇することは、期待できないと捉えておいたほうがよい。超高齢化により老後のための生活に貯蓄は欠かせない。特に、国民年金だけの人にとっては、それだけでは、とうてい日々の暮らしを維持していくことができず、貯蓄がなければ生活はなりたたない。年金制度の不備が貯蓄をせざるを得ない立場に追い込んでいるのだ。しかも女性の平均寿命(2023年)は87.14歳と男性の81.09歳よりも6年も長く、女性が一人になる可能性は高く、そうなれば、年金は大幅に減少することになる。このように女性が独り身になれば、年金がさらに頼りにならなくなることも、できる時にできるだけたくさん貯めて置くことは、老後を思えば当然のことなのである。老齢になってお金がないことほど惨めなことはないのだから。
昔は仕事を退けば、子供の世話になっていたが、今では子供たちもゆとりがなく、親の面倒をみることが難しくなっている。超少子化の時代では、子供のいない世帯も増えており、頼ることもできない家族構成になってきている。頼ることのできる家族がいないのであれば、自ら老後のために準備するしかない。賃金が上がらないなかで、老後のために資金を作るには消費を切り詰める以外に方法はない。
低消費性向から超過貯蓄状態が続き、需要不足は解消されることはない。需要不足を補うのは公的支出と輸出しかないのだ。国債発行によっても、日本経済はゼロ近辺の成長を辿るのが精一杯ではないか。消費性向を上昇させるには、先行きの所得に明るい見通しを描くことができ、老後の経済的不安が払拭されなければならない。だが、いずれの課題も大胆な税制改革を実行しなければ克服できず、今の表面を繕うだけの政治では不安は募るばかりであり、消費性向を引き上げることはできない。
現在進行中の極端な出生数減についても、政府の取り組みは頼りなく、本気で問題に向き合っているとはとても思えない。「総務省」によれば、今年9月1日現在の0~4歳までの人口は395万人、5~9歳よりも16.3%も少ない。0~4歳を20~24歳と比較すると-34.6%もの激減となる。今年4月1日現在の15歳未満人口は前年比2.39%減少する一方、75歳以上は3.55%も増加している。今年9月1日現在、日本の総人口は前年比0.46%減だが、若年層の減少と高齢者の急増は消費に深刻な影響を及ぼしていることは間違いない。
現状の人口減と少子高齢化、所得分配を前提にすれば、消費の伸びる余地はない。人口減を止めることはできず、短期間で消費を引き上げるには、所得分配を変えるしかないのである。消費税率を引き下げる代わりに、所得税と法人税の累進性を高め、高所得者から低所得者へと所得を分配し、企業利益から従業員の賃金への分配を高める必要がある。金融所得も今のような一律20%課税を廃止し、所得と合算して高税率を適用すべきだ。高所得者や企業優遇の税制を根本的に改革しない限り、消費を伸ばすことは不可能だ。
戦後、ほぼ自民党が政権を担当してきたが、その結果が寂れた日本にしたのだ。所得税の税率は1987年には70%と高税率だったが、それでも経済は好調だった。バブル崩壊後の1994年に50%、2006年には37%へとさらに引き下げた。2016年には45%に引き上げられたけれども、個人住民税の税率を一律10%に引き下げた。法人税も1984年の43.3%をピークに、その後7回の税率引き下げで2016年には23.4%へとピークの半分近くへと低下した。一方、1989年に3%の消費税が導入されてから、以降3回の引き上げによって2019年には10%に上昇した。
こうした税制の導入と変更が日本経済を強くしたのであれば、適切であったといえるのだが、結果は消費を萎縮させ日本経済の活力を奪い取ってしまったと断定できる。法人税と所得税の最高税率を引き下げれば引き下げるほど、消費税率を引き上げれば引き上げるほど消費者心理を悪化させ、消費よりも貯蓄に走らせ、民間部門の自律的成長力は喪失してしまった。つまり、これまで米国の尻馬に乗り、新自由主義の旗印の下、企業と富裕層のための規制緩和を推進してきた自民党政権の政策は失敗だったと結論付けることができる。
財務省の『法人企業統計』によって、従業員1人当たりの売上高を求め、これを労働生産性と見做す。2023年度の生産性は全規模全産業で3,710万円だった。これは2007年度以来17年ぶりの高い生産性なのだが、1989年度から1997年度までの9年間は2023年度を超えており、ピークは1990年度の4,135万円であり、2023年度比11.5%増であった。ピークの1990年度までの10年間で、生産性は41.1%も伸びていたが、2000年度までは11.5%悪化している。1960年度から1990年度までは右肩上がりであったが、1990年度以降は緩やかな低下を描いている。
CPIで実質化した売上高を求めて、従業員一人当たりをみると、1990年度が最高であり、そこまでは急上昇しているが、1990年度以降は右肩下がりをはっきり読み取ることができる。
製造業(全規模)の生産性は2022年度、15年ぶりの過去最高を更新し、2023年度はさらに上昇した。一方、非製造業(全規模)の生産性は上昇せず、ピークは1990年度である。特に、大企業は1984年度がピークであり、その後2009年度までは低下し続けていた。2022年は少し回復したけれども、それまでは横ばい状態であった。2023年度はピークの1984年度を3割ほどしたまわっている。
人口が減少しているときに、売上高を増加させるには、労働生産性を引き上げなければならない。それができなければ売上高は減少していくことになる。労働生産性の向上には従業員の知識、技術の習得や経験等が不可欠であるが、日本の企業はそのような従業員に対する支援を疎かにしてきた付が回ってきているのであろうか。
大学進学率は1970年の17.1%から1980年には26.1%に上昇したが、1990年には24.6%に低下した。その後はほぼ上昇し続け、2000年39.7%、2010年50.9%、2023年には57.7%へと6割近い人が大学に進んでいる。2023年の大学進学率は1990年の2倍以上になっているが、労働生産性は1990年度をピークに低下しているのだ。4年間の学習が直ちに企業活動に役立つことはないけれども、そうした片鱗もみることができないほど、大学教育は日本企業の労働生産性に寄与していない。
平均寿命の延びは、半面、認知症という厄介な問題を惹き起こす。今年6月現在、介護認定者数は715.5万人、65歳以上の人口の19.7%に当たる。同比率は10年前の2014年は18.2%、5年前の2019年、18.6%であり、過去5年間は1.1%pも上昇している。こうした超高齢化と認知症の増加は総人口に占める割合が高くなるにつれて、日本経済に負の要因(非生産部門の拡大)として圧し掛かってくるはずだ。こうした重圧を克服するためにも労働生産性の向上を図り、賃金の分け前を増やし、消費が伸びる政策が欠かせないのである。
軍事費や原発関連に貴重な税金を湯水のように使う政治を変えなければならない。日本は食料とエネルギーの輸入が少しでも止まればお陀仏なのだ。ミサイルなどを撃ち込まなくても簡単に倒せる国なのである。そのような脆弱な国になぜミサイルが必要なのだろうか。隣国の脅威を煽るのではなく、頻繁に行き来し、話し合いによって友好関係を築き、強めることが最大の安全保障ではないか。