出生と婚姻の激減、政治と企業の男支配の結末

投稿者 曽我純, 6月10日 午前8:46, 2024年

6月5日発表の厚生労働省の『2023年人口動態統計月報年計(概数)』によれば、2023年の出生数は72.7万人と前年比5.6%減少し、死亡数は157.5万人、同0.4%増加した。2023年までの過去10年間で出生数は29.4%減、2013年までの同8.3%減に比べれば、異常な減り方だ。5年刻みでは2023年まで-20.8%、2018年まで-10.8%、2013年まで-5.6%、2008年までの5年間は-2.9%と出生数減は加速している。-20.8%を年率換算すれば-4.56%、-10.8%は-2.26%になる。新型コロナが影響しているとはいえ、これほどの減少は日本だけだろう。新型コロナ以前の2018年までの5年間でも年率-2.26%であり、この減少率が向こう5年間続けば、2028年の出生数は64.8万人になり、自然減は100万人に達するかもしれない。これほどの出生数減少の原因は婚姻件数が極端に落ち込んでいるからだ。2023年の婚姻件数は47.4万件、2018年比-19.1%、2018年までの5年間は-11.2%、2013年までの-9.0%に比較すると2023年までの5年間の減少は異常である。新型コロナで萎縮したことも影響しているけれども、それだけではない。2018年までの5年間でも11.2%減少しており、今の日本社会ではこの程度の減少は起こるべくして起きたのかもしれない。5年間で11.2%減少すれば、2028年の婚姻件数は42.1万件になる。

死亡数は2022年、156.9万人、前年比8.97%増と異常な増加を記録し、1918年のスペイン風邪で記録した過去最高149.3万人を104年ぶりに更新した。2023年は157.5万人へとさらに増加し、2022年の記録を塗り替えた。新型コロナ以前の2019年までの5年間の死亡数は年率1.64%だったが、2019年から2023年までは年率3.35%であり、2倍以上の速度で死亡数は増加したことになる。新型コロナウイルス感染症で死亡したのは2022年47,638人、2023年38,080人であり、これを除いても2022年の死亡数は5.7%も増加しており、超過死亡の発生にはワクチンが関係している可能性が高い。

婚姻件数の激減に伴う出生数の落ち込みは底がみえない。10年も経過しないうちに出生数は50万人台に減少するだろう。今の政治・経済状態が続けば、この減少トレンドをとめることはできない。戦後の米国支配による企業重視の自民党政治の結末だと言える。自民党のおじさん、おじいさんでは事の本質が、なにかが分からず、最大の関心は次の選挙のことしかないのだ。選挙には金が掛かる、だから金の面倒をみてくれる派閥に集まることになる。企業も自民党とぐるになり、さまざまな権益を得るために献金し、自民党と癒着する。大企業と自民党は一心同体なのだ。

GDP統計によれば、2023年度の公的部門は名目GDPの26%に当たる155.4兆円もの巨額である。この155.4兆円は業績に結び付くために、これにありつこうと熾烈な分捕り合戦が行われている。1994年度から2023年度の29年間に民間部門は17.2%伸びたが、公的部門は27.7%と10%pも民間部門を上回っており、成長するには公的部門への食い込みが欠かせない。公的部門の甘い汁にありつくことができるかどうかは、企業にとっては存亡にかかわるほどのことなのだ。だから、自民党に献金し、国の事業への参画に懸命になるのだ。

労働組合は無きに等しい無様な状態になってしまい、企業への対抗勢力は霧散、企業は怖いもの知らずの独占体制を謳歌し、経営者の思いのままに経営の舵取りができるのだ。法人税率の引き下げにより、法人税等を税引前当期純利益で割った値(TR)は2000年度前後をピークに低下し続けている。2022年度のTRは23.9%だが、10年前の2012年度38.9%、20年前の2002年度67.7%であり、税前当期純利益から支払われる税金の比率は著しく低下しているのだ。この数値は『法人企業統計』の全規模全産業だが、大企業(資本金10億円以上)に限れば、2022年度16.7%、2012年度35.2%、2002年度59.3%といずれも全規模全産業を下回っている。1960年度以降、2022年度までのほぼすべての期間、大企業のTRが低いのである。2022年度の16.7%は過去最低であり、大企業はいかに税金から免れ、優遇されているかを明確に表している。

2022年度の配当金は32.5兆円、2012年度比2.33倍、2002年度比5倍と急増している。この配当金には額にかかわらず、20.315%の税金が掛かるだけという仕組みであり、まさに富裕層のための優遇措置と言える。また企業は自社株買いにも積極的に取り組んでおり、2022年度の自己株式残高は32.1兆円、10年前の2012年度から2倍超に増加している。2012年度以降、2021年度を除けば、すべての年度で自社株買いを実行しており、2022年度には4.2兆円の過去最大の規模であり、株式に多大な影響を行使している。配当金や自社株買いはいずれも株主のためであり、一部の富裕者の懐を潤すだけだ。だから、配当を振舞い、自社株買いを増額しても経済的効果はまず生まれない。せいぜい所得・資産格差を拡大させるだけであり、社会をよりぎすぎすさせるだけに終わる。

これまで国や企業がやってきたことは結婚や出産を躊躇させ諦めさせる政策だった。賃金も長期的にみて横ばいで推移しそうだし、子育ても大変だという社会的通念が形成されており、結婚、出産を素直に受け入れるのではなく、考えさせてしまう状況下にある。

これだけ深刻な出生減の事態に追い込まれているにもかかわらず、賃上げは進まず、男の育児休暇の取得は低いままだ。企業まかせでは埒があかないことは、これまでの企業行動をみればあきらかだ。週休二日制導入にも時間が掛かった。有給休暇や育児休暇は法律ですべての企業に取得を強制的に義務付ける以外にはない。

日本人の決断力のなさは今に始まったことではない。現状維持でなんとか凌ぐことができるといつもそのような優柔不断な態度を取っていた。第2次大戦のときも都市がみな焼き払われてしまっても、なお決断を下せなかったことが、悲劇を招いた。こうした惨い経験をしていながら、まだ目が覚めないのである。

企業活動は結婚や出産よりも上位にあり、利益追求のためには賃金や休暇は犠牲にして当然なのだという考えなのだろうか。これから人口減が一層深刻になってくれば、一番大事な従業員の確保がより難しくなる。すでに、慢性的な人手不足の業種があるが、全部門がそのような事態に陥ることになるだろう。人材を求めるには賃金を引き上げなければならないのだ。

産業別の賃金をみると日本の賃金格差はきわめて大きい。例えば、4月の『毎月勤労統計』によれば、調査産業計=100とした場合、最高は電気・ガス業162.2、最低は飲食サービス業等45.8である。5月の米国の時間当たりの賃金は、民間部門=100としたとき、最高は公益事業の146.3、最低はレジャー・接客業の63.1である。異なる統計のため比較は難しいが、日米ともに公益事業の賃金高が際立っている。

5月の米民間部門の賃金は1時間34.91ドル、8時間労働で1日279.28ドル、月20日では5,585.6ドル、1ドル=156円では87.1万円となる。一方、『毎月勤労統計』によれば、4月の調査産業計は29.6万円、米賃金は日本の2.94倍である。

賃金は業種間だけでなく企業規模、男女、正規・非正規等これらが複雑に絡み合い平等な賃金体系を構築することを阻んでいる。だが、言えることは労働需要が供給を上回る産業は賃金の引き上げで対応しなければならない。日本人が就きたがらない仕事は、低賃金で雇える外人に任せるという考えは間違っている。極端にいえば奴隷制的発想である。国内で人材を集めることができないのは3Kでありながら、低賃金だからだ。3Kの仕事こそ高賃金で処遇すべきなのである。こうした需給を反映させるという当たり前のことが実行されていないから、人材不足になるのである。3Kにはホワイトカラー以上の高賃金を提供しなければならないのである。資本主義経済の市場メカニズムを活かさなければ、労働市場は硬直化してしまい、日本経済は人口減で立ち行かなくなるだろう。

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