日米の経済力格差拡大と円安ドル高

投稿者 曽我純, 5月26日 午前10:44, 2024年

日本の10年債利回りが1%を突破しても円安ドル高は止まらない。昨年末から11.3%の円安ドル高だが、ドルユーロは同1.7%のユーロ安にとどまっており、ポンドドルは変わらずである。円独歩安と言える状況だ。10年債利回りの日米格差は昨年末の326bpから346bpへと拡大しており、こうした利回り格差がこれからも続くという観測が円安ドル高傾向を支えている。

今年第1四半期、米国経済は実質前年比3%成長している一方、日本はマイナス0.2%であり、こうした3.2%の成長格差が為替相場に影響していることは間違いない。しかも、景気の先行きに目を転じても、日米の成長格差は縮小するどころか、さらに拡大するのではとの見通しが、円を軟調にしている。

日本の4月CPIは前年比2.5%、前月よりも0.2%p低下し、生鮮食品とエネルギーを除くコアは2.4%と2022年9月以来1年7カ月ぶりの低い水準である。4月の米CPI(前年比3.4%)に比べれば日本が0.9%p低く、物価の側面からみれば円はドルよりも価値があるのだが、今は物価よりも経済成長力が重視されているのだろう(電気・ガスの政府支援を除外しても日本のCPIは3%)。

日本のCPIの低下が緩慢なのは、食料のウエイトが高く(26.26%)、これだけでCPIを1.21%p引き上げている。他方、米国のCPIは住居のウエイトが36.15%(日本21.49%)と3割超であり、CPIを2%pも引き上げているのに対して、食料のウエイトは13.42%と日本の約半分である。こうした違いを考慮すれば、中身の違うCPIに無闇に拘ることはないのではないか。

2013年から2023年の10年間の実質GDPは、米国の年率2.3%に対して日本は0.56%と大差がある。根本的な違いは日本の家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く、COH)は年率-0.31%のマイナスだが、米国の個人消費支出(PCE)は年率2.63%とGDPの伸びを上回っていることだ。まさに米国経済のエンジンはPCEなのである。PCEが拡大しないことには経済は動かないことを如実に表している。

COHがマイナスだったことから民需も10年間で1.2%増とほぼ横ばいだった。過去10年間、GDPに一番寄与したのは公需である。向こう10年間のGDPを決めるのもCOHではなく、公需あることは間違いない。

減少したとはいえ、ウエイト最大のCOHが過去10年間のような傾向を持続するのか、それともさらに悪化するのだろうか。COHを左右するのは人口と所得である。2023年までの10年間に、日本の総人口は年率-0.24%で減少しており、人口減のCOHへの影響は大きい。2033年までの人口は中位推計を前提にすれば年率-0.51%と予想され、2023までよりもさらに減少率は大きくなる。しかし、この推計は現実にそぐわず、すでに出生数は2035年の予測値まで減少している。人口の中位推計を大幅に上回る人口減が進行しており、COHがマイナス幅を拡大するのは避けられない。国内最終消費が大幅なマイナスになれば、住宅や企業設備マインドも冷え込むだろう。消費が減少し貯蓄が増加すれば、貯蓄=投資の成立には公的需要か外需の増加で均衡することになるが、最終的には、公的需要の拡大で貯蓄=投資は成立することになる。

2023年までの10年間の日本の実質GDP成長率は年率0.56%だったが、向こう10年間はゼロかマイナスだろう。最終消費の減少などにより、CPIの伸びは数年すればゼロになる。足元、10年債の実質利回りは-1.49%だが、CPIがゼロになれば、プラスになるけれども、名目でも成長率がゼロ近辺で推移することになれば、10年債利回りは1%以下の水準が妥当だろう。

2023年までの10年間の米名目GDP成長率は年率4.94%と2013年までの10年間3.95%を1%p上回った。これは新型コロナによって需給バランスの崩れから物価が急騰したからであり、これから先、突発的な物価上昇が起きなければ、名目4%程度で成長していくだろう。日本は名目でもゼロ前後と予想されるから、日米で4%の成長格差が生まれることになる。そうであれば円は売られていくはずだ。GDPの世界順位も低下し続けていることも、円の需要と重要性を低下させている。

今起きている日本の人口減は過去の歴史のなかでも異例ではないか。総務省の『人口推計』によれば今年5月1日現在、総人口は1億2393万人、15歳未満の割合が11.3%に対して65歳以上は29.3%であり、75歳以上でも16.6%(男性13.6%、女性19.4%)と15歳未満を上回る。今、ゼロ歳から19歳までの女性は950万人、20歳から39歳までは1266万人である。ゼロ歳~19歳までの女性が20年経過すれば、現状の20歳~39歳よりも25%減少することになる。今年3月までの1年間の出生数は74.6万人だが、20年後には20歳~39歳の女性が25%減少するとすれば、出生数は56万人に減少する可能性が高い。すでに昨年度の婚姻数は49.1万件まで減少しており、出生数は20年も待つことなく50万人台に落ち込むかもしれない。

昨年度の自然減は84.5万人だったが、近いうちに100万人台に乗るだろう。これだけの人口減と高齢化の加速のなかで最終消費を増やすことは不可能だ。人口動態に相応しい経済規模を目指していかねばなるまい。住宅や民間設備投資は厳選し、消費財も量よりも質を重視し、耐久消費財であれば長期の使用に耐えうるものを作り、提供していくべきだ。自転車操業のような常にペダルを漕がなければならない生産プロセスは見直すべきである。

ITやAIの技術進歩は生活を豊かにするものでなければならないのだが、現実は、それとは反対方向に進行している。人間らしいゆとりのある穏やかな生活が失われてきている。通信手段の発達によって、情報が瞬時に伝わることが気ぜわしくする。株式や為替の値付けや取引が超高速で行われているのと同じようなことが、あらゆる分野に広がっており、常にスマートホンから目を離せない状態に追い込まれている。AI社会は気持ちが落ち着くひまを与えないストレスの多い世界を作り上げているようだ。

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