日経平均株価は1989年末の過去最高値(38,915.87円)に限りなく近づいた。円安ドル高が株価を押し上げている。出来高や売買代金はうなぎ登りとなり、16日のプライム売買代金は6.72兆円と2023年の一日平均3.83兆円の1.75倍に急増している。出来高は22.04億株と昨年の15.63億株の1.41倍に拡大。売買代金などからみれば日本株は超熱狂過熱相場だ。博打場がいくら熱しても、それによって実体経済が活性化することはない。すでに何年も前から日本株は過熱化していたけれども、どこにもその影響は現われていない。博打国家に成り下がれば、経済は衰退していくことになるのは、歴史が証明している。
金融資産を増やすには預貯金ではなく株式等に賭けねばならないというが、平均的な勤労者世帯では、株式等リスクの高いものに賭けるほどの資金を持ち合わせていないのだ。ストックを増やせというが、ストックが乏しく、株式などに資金を振り向ける余裕はない。ストックを増やせというのであれば、フローをまず増やしてもらわねばならぬ。フローが永続的に増加していくのであれば、ストックは充実していくかもしれないが。
総務省の『家計調査報告』(貯蓄・負債編)によれば、2022年の貯蓄高平均値(二人以上の世帯)は1,901万円だが、この平均値を下回る世帯が66.3%を占めているのだ(500万円以下世帯が28.5%いる半面、4,000万円以上が12.5%)。世帯主の年齢階級別貯蓄・負債高をみると、49歳までは負債が貯蓄を超えており、純貯蓄額はマイナスになっている。純貯蓄がプラスに転じるのは60歳を超えてからであり、60~69歳、70歳以上の層は2,000万円超の純貯蓄額を保有している。このように若い世帯は純貯蓄がマイナスであり、多額の負債を抱えている世帯には、リスクの高い商品を保有することは適切な資産選択ではない。高齢者の純貯蓄は多いけれども、先行き不確かな資産を保有することは、退職後の生活を脅かすことになる。今の日本ではリスクを取れる人は限られているのである。
日本の株式がこれからも上がり続けるかどうか、ということはだれにもわからず、過去最高値を更新した途端に暴落することも起こり得るのだ。日銀のマイナス金利と株式購入といった共産主義的国家介入政策がここまで株式を引っ張ってきたが、これ以上の国家介入策は期待できず、祭りもクライマックスを迎えつつあるのではないか。
最高値更新後もさらに上伸することになれば、暴落のリスクは一段増すことになる。株式の暴走にブレーキを掛け、早目に軟着陸させなければならない。そのためには、まずマイナス金利をプラスすべきだ。そうすれば債券利回りも幾らか上がり、相当なブレーキが株式にかかるだろう。ブレーキが遅れれば遅れるほど、敗戦の後始末が大変になることは、1990年代以降のバブル破裂で身に染みているはずだ。
先週、昨年第4四半期のGDPが公表されたが、前期比-0.1%と2期連続のマイナスとなり、日本経済は景気後退に陥った。昨年、日経平均株価は28.2%も上昇したが、日本経済は7-9月期以降、下降している。そうした実体経済が落ち込んでいるときに、株式が崩落することになれば、相当深刻な影響を景気に及ぼすと考えられるが、この機会に歯止めを掛ける操作を講じなければ、痛手はさらに大きくなる。
先行きの景気悪化見通しが広がれば、すでに低調な家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く、CHEI)は一層収縮するだろう。第4四半期のCHEIは実質前期比-0.3%と3期連続のマイナスとなり、10年前の水準を3.9%下回っている。名目でも前期比微減となり、過去10年間、年率0.98%しか伸びなかった。このような恐ろしく低迷しているCHEIが、先行き不安を生じさせるような株式急落が起これば、一気に冷え込むことになるだろう。
CHEIの伸び悩みの根源は賃金が正当に支払われてこなかったことに尽きる。企業は巨額の利益を懐にしながら、従業員にはわずかの賃上げしか許さなかった。一企業にとっては、望ましいことかもしれないが、全体がそのような行動を取れば、ものが売れなくなるのは自明のことだ。生産、販売、消費が持続していくためには、企業が暴利を貪っては成り立たないのだ。収益に見合った賃金を支払わなければ、生産されたものが売れないことになる。企業だけが甘い汁を吸うことはできないのである。甘い汁を吸えば吸うほど、ものは売れなくなる。過去数十年間、企業は賃金を抑え、日本経済の長期停滞の原因を作ってきたのだ。
物価上昇もあって、2013年から2023年まで10年間の雇用者報酬は名目18.6%増と名目GDP16.3%よりも伸びた。しかし、CHIPは11.2%と雇用者報酬の伸びを下回った。『国民所得統計』によれば、2022年度の可処分所得は314.2兆円、家計最終消費支出は307.9兆円であり、これに年金変動調整を加味すれば、貯蓄額は5.5兆円で貯蓄率は1.7%であったと発表した。2022年度の家計貯蓄が5.5兆円では、同年度の50.4兆円もの国債発行をいかに消化したのだろうか。因みに、米国の2022年と2023年の貯蓄率は3.3%、4.5%であり、1940年まで遡ってみても1.7%のような低い貯蓄率は米国でも見当たらなかった。2023年のドイツは12.2%であり、2005年以降の最低は2009年の7.3%であった。日本の貯蓄率が米国よりも低いとは驚きである。国民所得統計はどこからこのような貯蓄率を求めたのだろうか。
『家計調査』(二人以上の勤労者世帯)によれば、2023年までの10年間で、実収入は16.2%、可処分所得も16.1%増加したけれども、消費支出は0.1%減となり、調査対象が異なるとはいえGDP統計との乖離はあまりも大きい。2023年の平均消費性向は64.4%、2013年74.9%から10.5%pも低下した。2000年以降の統計では、平均消費性向の最高は75.3%(2014年)だが、2020年まで6年連続で低下した。消費税率引き上げの2019年(67.9%)までに7.4%pも低下、新型コロナにより2020年は61.3%、前年比6.6%pもの急低下である。2023年は少し上昇しているが、勤労者世帯はやはり経済や賃金の先行きを悲観的に捉えており、財布の紐を緩めてはいない。
可処分所得の64.4%しか消費しないのでは、経済は需要不足に陥り、その不足分をなにかで補わなければ、経済は縮小することになる。可処分所得の35.6%が貯蓄されているが、この多くは国債を発行することで国の歳入となり、歳出として経済に流れて行く。こうした低い平均消費性向が持続するならば、民間部門や輸出で貯蓄を吸収できず、公的部門の支出増で対応せざるを得ない。2023年の民間最終消費支出(PC)の名目GDPに占める比率は54.5%と2013年から3.6%p低下する一方、公的部門は26.1%へと1.1%p上昇した。
消費税率の引き上げや新型コロナが将来への不安を高めたが、それだけではないだろう。急速な少子高齢化が独居生活者を増加させていることから、国民は早い段階から貯蓄増に取り組まなければ、との思いを強くしている。巨額の債務を抱えている国には頼れない、当てにならない、などの理由から将来への備えは個人でするしかないと貯蓄比率を高めているのかもしれない。
日本のGDPの伸びはG7では最低である。2023年までの10年間を米独英と比較すると、名目では米国の成長率が最大で62.1%も増加、2番目が英51.0%、3番目に独46.6%、最後が日本で16.3%である(実質でも順位は同じ)。日本の成長力が著しく弱いのはPCが超低空飛行をしているからだ。賃金が伸びない、先行きが見通せないなどの理由に加えて、出生から死亡を差し引いた自然減が急増していることもPCに影響している可能性が高い。2007年以降、連続して死亡が出生を上回っており、2023年は-85万人となりそうである。10年前の2013年(-23.8万人)の3.57倍に急増している。これだけの自然減に直面すれば現状の消費水準を維持することは難しい。出生減と死亡増によって、これからさらに自然減は拡大するだろう。これだけ難問を抱えていれば、日本のPCが上向くことを予想することはできない。