雇用と消費が好調な米国経済と強まるメガ企業支配

投稿者 曽我純, 2月5日 午前8:44, 2024年

NYダウは11週連続高だ。米10年債利回りは4%程度であり、株式配当利回りを大幅に上回っているが、値上がり益期待が配当よりもはるかに魅力的なのだろう。FRBは政策金利を5.25%~5.50%の高い水準に保っているけれども、株式は高金利もまったく意に返さず。もし株式に異変が起これば、FRBが政策金利を急低下させることを期待し、行けるところまで行くという雰囲気である。

利上げで実体経済を変化させることは、ほぼできないと言ってよい。10年債利回りは政策金利よりも低い水準で推移しており、この程度の利回りであれば、経済は心地よいのかもしれない。2023年までの10年間の名目GDPは年率4.94%で伸びた。向こう10年間の成長率は鈍化すると思うが、大幅には下がらないだろう。債券利回りが名目GDP成長率を下回っていることは、利益を生み出す機会があり、長期資金を借りることが有利な状況であることを示唆している。

政策金利を引き上げることで経済を冷やすことはできないのだ。もっとも金利に敏感だと思われている民間設備投資も利上げによって妨げられているかといえば、そうではない。企業の抱いている期待収益率は4%や5%ではなく2桁なのだろう。10年債利回りがよほど上がらない限り、民間設備投資を冷やすことはできないのである。昨年第4四半期の実質民間設備は前年比4.1%と4四半期連続の4%台を維持している。同様に、個人消費支出(PCE)も利上げの影響はほとんど受けない。利上げしたからといって、生活に必要なものは買わなければならないからだ。昨年第4四半期の実質PCEは前年比2.6%と2022年第1四半期以来7四半期ぶりの高い伸びだ。特に、耐久財は6.1%と4四半期連続で伸び率は上昇した。こうした好調とも言えるPCEにもっとも影響するのは雇用なのだ。解雇されれば所得を失い、消費しようにも消費できないことになるけれども、雇用が増加すれば、賃金が得られ購買力が増すからだ。

1月の米雇用統計によれば、非農業部門雇用者は前月比35.3万人増加した。昨年12月も33.3万人増であり、米国の雇用は依然拡大を続けていることが裏付けられ、今年第1四半期のGDPも増加するだろう。雇用が伸びていることには理由がある。1月の雇用・人口比率は60.2%と2022年7月以降60%を僅かに上回る状態が続いており、新型コロナ以前のピーク2020年1月(61.1%)に達していないからだ。雇用・人口比率は2006年12月には63.4%まで上昇していたが、リーマンショックによって、2009年12月には58.3%に低下、その後、緩やかに上昇していき、61.1%まで回復したのである。それが、パンデミックによって過去にない急低下となり、2020年4月には51.2%まで落ち込んだ。今は、その回復過程にあり、これからも同比率は緩やかに上昇していくだろう。特に、男の同比率は1月、67.7%だが、2019年11月は69.4%であり、1.7%pも下回っている。例えば、同比率がパンデミック以前の61.1%への改善を想定すれば、231万人の雇用が生まれ、さらに62%であれば472万人が雇用可能になる。

向こう1、2年、それほどの逼迫もなく新たな雇用が創出され、雇用は拡大していくだろう。雇用が生まれれば、所得も発生し、それに伴いPCEは増加することになる。PCEが増加傾向を辿ることが期待できれば、期待収益率は上昇し、企業は設備投資を増やすだろう。そして、設備投資部門の従業員の増加と所得増により、当該部門のPCEは伸び、さらに消費財部門が潤うという具合に経済は循環していく。

PCE物価指数は昨年12月、前年比2.6%に低下している一方、PCEは5.9%増加しており、米国経済の足取りに不安はない。物価は低下しながら、経済は拡大しているからだ。2022年3月から昨年7月までに、政策金利をゼロから5.25%まで引き上げたが、PCE物価指数は引き上げの3カ月後の2022年6月にピーク(前年比7.1%)を付け、今では2.6%に落ち着いている。過去のFFと物価の関係を振り返ってみても、FFは物価をなぞっているだけであり、引き上げが物価を下落させた証拠は見いだせない。失業率とFFの関係もそうだ。FFレートを上げても失業率はなおも低下しており、失業率の上昇は経済、金融や信用状態の急変によって起こっている。

1月の米失業率は3.7%と歴史的ともいえる低水準を維持しており、PCE物価指数もFOMCの12月予測を下回っている。失業率とPCE物価指数はいずれも予測よりも低く、FFレートを弄る必要はないのである。このままFFレートを放置しておいても、失業率は3%台から大幅に上昇することはないし、PCE物価指数はさらに低下するだろう。

実質PCEとFFレートも、FFを引き上げればPCEが低下し、FFを引き下げればPCEが伸びるという関係は希薄である。前年同月が大幅に伸びていたこともあり、2022年11月の実質PCEは前年比0.9%に低下したが、その後、伸びは回復し、昨年12月は3.2%と2022年2月以来約2年ぶりの高い伸びとなった。これほどPCEが伸びたのは可処分所得が昨年12月、前年比6.9%、実質でも4.2%の高い伸びを示しているからだ。民間部門の名目賃金・俸給も6.5%と3カ月連続で伸びは上昇しており、一人当たりの可処分所得も名目、実質、前年比6.4%、3.7%それぞれ伸びている。これほど可処分所得が拡大すればPCEは自動的に伸びるだろう。雇用の拡大とこの傾向が持続するとの期待が将来の可処分所得に安心感を与え、PCEの増加につながっている。

特に、PCEに貢献しているのは耐久財である。昨年12月のPCE物価指数は前年比2.6%だったが、財物価指数はゼロと前年比横ばい、その中の耐久財物価指数は2.3%減と昨年6月以降7カ月連続の前年割れとなり、デフレだ。サービス価格も低下しているが、それでも3.9%と高く、サービス価格の動向がPCE物価指数低下の鍵を握っている。耐久財価格のマイナスが実質耐久財支出を前年比8.5%へと引き上げ、実質財支出も5.0%増と高く、PCEが米国経済を牽引する仕組みが機能している。

昨年第4四半期の米実質GDPは前年比3.1%と4四半期連続で伸び率は上昇した。利上げに逆らうように経済は拡大している。ソフトランディングするかどうかではなく、すでに米国経済はソフトランディングを終え、安定的な成長軌道に沿って動いているのだ。雇用の拡大余地はまだ残されており、極度に雇用が逼迫しなければ、PCEの伸びが見込まれ、実体経済は今と変わらない状態で進行するだろう。

2%の物価目標に拘る理由などありはしない。人為的地球温暖化を唱える人たちが地球の気温を予測し、目標を定めていることと同じ間違いをFRBも犯しているのだ。地球の気温をコントロールできないように、物価も人為的に制御することはできない。過去の物価を振り返ってみれば、コントロールできなかったことはあきらかである。

米株式はこうした安定した経済状態を背景に高騰しているが、いかにも行き過ぎである。2023年までの過去10年間で名目GDPは1.62倍に拡大したが、NYダウは2.27倍、ナスダック総合に至っては3.59倍に急騰、どのように解釈しても、実体経済からの株式の遊離は否定できない。こうした異常な株式の高騰はFRBの存在を無視しては成り立たない。それほど株式とFRBとの関係は緊密なのである。最後の貸し手とゼロ金利という装置が舞台裏に控えていることが、大胆な行動を取らせているのである。

米IT企業の時価総額トップ6社を掲げておこう。1位マイクロソフト(3.06兆ドル)、2位アップル(2.87兆ドル)、3位アマゾン(1.785兆ドル)、4位アルファベッド(1.777兆ドル)、5位エヌビディア(1.63兆ドル)、6位メタ・プラットフォームズ(1.22兆ドル)の6社計の時価総額は12.342兆ドルで、米名目GDPの44.2%に相当する途方もない規模だ。マイクロソフト一社で日本の名目GDPの77.0%の時価総額を有している。世界の大半の国のGDPはマイクロソフトの時価総額以下なのである。

企業が国を超える規模になり、企業が国家を支配し揺さぶる。国でさえ持て余す存在なのだから、ましてや、情報を支配する者が世界を支配するのだ、と凄まれればFRBなどとうてい彼らに歯向かうなどということはできない。かつてのイギリス東インド会社のような蛮行に走ることも考えられる。いやすでにさまざまな隠れ蓑を作り、グローバルに政治や経済に影響力を行使している。こうしたメガIT企業がなりふり構わず振舞うならば、その時、経済はどのような化学反応をおこすのだろうか。企業支配資本主義と言える時代にすでに入っているのだろう。

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数