人口と需要の減少がCPIをマイナスにするだろう

投稿者 曽我純, 1月29日 午前8:40, 2024年

日銀のマイナス金利政策の継続期待が、円安ドル高を保っている。現状程度の円安ドル高水準が持続するならば、来年度の企業業績も悪くはないだろう。昨年12月の輸出(季節調整値)は前月比5.8&伸び過去最高を更新した。日本取引所グループの『統計月報』によれば、昨年12月のプライムの平均株価収益率(PER、単純平均)は16.2倍だ。今はこれよりも高くなっているが、懸念するほど高くはない。一方、2023年のプライム売買代金(一日平均)は3.83兆円、前年比16.6%も増加し、売買回転率(株数ベース)は115.81%と前年の85.28%を大きく上回り、1年間に全上場株式数を超える取引が行われたことになる。特に、スタンダードとグロースの売買回転率は236.41%、428.16%にそれぞれ上昇しており、完全にバブル化している。

1980年代後半のバブル期でも、売買回転率の最高は1988年の100.17%(東証1部)であることから、株式流通市場は異常な活況状態にあるのだ。株式本来の目的は資金調達の場であるのだが、昨年の株式による資金調達は1.47兆円にすぎなかった(バブルピークの1989年の株式資金調達額は8.52兆円)。現状の株式は、資金調達は機能せずし、流通市場だけが過去にないほどの活発になっている異常な状態にあることを忘れてはならない。

これほどの値上がりと売買高をもたらしている主因はマイナス金利だ。このマイナス金利がさらに続くという期待が、株高の原動力となっている。さらに、日銀のETF買い、政府の新NISAによる非課税制度も株式を後押ししている。言うまでもなく米株の過去最高値更新もプラスに作用しており、米株の勢いが削がれることになれば、当然、その影響は日本株にも及ぶ。なにしろ、米株の時価総額は約70兆ドル(10,360兆円、日本は867兆円)もの巨額であり、世界の相場は米株の動向によってほぼ決まるからだ。

2023年のプライム市場の最大の買い手(買い越し額)は事業法人4.85兆円であり、2番目は自己3.57兆円、3番目は外人3.49兆円であった。売り手は信託と個人であり、それぞれ5.96兆円、3.32兆円を売り越した。プライム市場の売買代金(委託)に占める外人の割合は69.6%と高く、外人が相場を主導している構図は変わっていない。

株式流通市場は沸き返っているが、手放しで喜ぶことはできない。能登地震などの自然災害のような大規模な地殻変動が予想されており、日本は壊滅的なダメージを被るかもしれない。自然災害に加え日本内部の問題も深刻さをましている。厚生労働省『人口動態統計速報』によれば、昨年11月までの1年間の累計出生数は76.1万人、前年比5.4%減、死亡は160.2万人、2.9%増加し、自然減は84.1万人、前年よりも8.8万人の増加だ。出生数に先行する婚姻数は49.2万件、前年比5.1%減となり、出生の減少はさらに進むだろう。

総務省『人口推計』によると、今年1月1日現在、0~4歳の人口は405万人、20~24歳は621万人だが、20年後は約405万人へと34.8%も減少することになる。向こう5年間の出生はさらに減少し、0~4歳の人口は380万人前後になるだろう。20年後に20~39歳に達する人口は1,960万人となり、現時点の20~39歳2,601万人より24.6%も減少する。こうした20~39歳の人口減少率をそのまま出生に適用すれば、20年後の出生数は57万人前後へと大幅に減少するだろう。

昨年11月までの1年間の死亡は160.2万人、前年よりも2.9%増加している。1年間の累計死亡は昨年4月以降8カ月連続の160万人超である。死亡は2021年、前値比4.89%、2022年8.97%と2年連続の急増だが、厚生労働省はその原因を究明しようとしていない。2022年までの2年間で死亡は19.6万人もの異常な増加を示しているのだが、異常とは思っていないようだ。昨年の死亡は160万人を超える公算が大きく、超過死亡は無視できない規模のまま推移している。

70歳以上の死亡に占める割合は2019年、85.0%だったが、2022年は87.4%に上昇している。65歳以上の高齢者のワクチン接種は91.9%(3回目接種)に達しているにもかかわらず、高齢者の死亡は説明できないほど増加しているのだ。ワクチン接種と死亡の関係をみると、接種のピークは4回あるが、死亡の前年比増加率はワクチン接種のピークにほぼ一致していることがわかる。つまり、ワクチン接種は感染を防ぐのではなく、高齢者を死に追いやっているのだ。ワクチン死亡によって、死亡は年160万人超となりそうなのだが、出生は76万人にとどまりそうだ。予想を上回る出生と死亡が持続することになれば、人口減も想定以上に減少することになる。

年間84万人もの人口減(総人口の0.68%)の経済に及ぼす影響は決して軽微ではない。名目GDPの家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)は、2022年までの10年間、名目9.53%増、実質1.0%減だったが、向こう10年間では900万人を超える人口減に見舞われ、名目でもマイナスに転じるだろう。

今年1月の東京都区部のCPIは前年比1.6%と前月比0.8%pも低下し、2022年3月以来約2年ぶりの低い伸びだ(全国と東京都区部のCPIではウエイトが違う)。食料は前年比5.2%上昇しており、これだけでCPIを1.38%p引き上げた。食料を除けばCPIは前年比0.22%に低下し、むしろデフレの領域に近づいているのだ。食料も昨年9月の8.9%をピークに低下してきており、緩やかだがさらに落ち着いていくだろう。金利を引き上げることなく、自然にCPIは低下の道筋を辿っており、金利とCPIに関連性がないことが証明された。

人口減と少子高齢化による需要減だけでなく、可処分所得減も加わり需要の減退は持続し、CPIはゼロ%前後で推移するだろう。コロナ以前のCPIは25年以上ゼロ前後で推移していた。たまたま新型コロナや戦争といった突発的な出来事でCPIは上昇したが、外国の物価高に比べれば、日本は最高でも4.4%(東京都区部、2023年1月)であり、物価は取るに足らぬ問題であった。

日本のCPIはこれからマイナスに向かっていくだろう。新型コロナ以前でもゼロ前後であったことに留意すると、新型コロナ以後の加速した人口減下では、ゼロを下回るマイナスのCPIが常態化しても不思議ではない。経団連と連合による茶番の春闘の結果は、これまでの賃金動向をみれば一目瞭然である。大企業の一部をサンプルにした賃上げは日本全体をほとんど反映していない。家計は、これから先の賃金も従来通りの売上高を下回る低い伸びにとどまるとの立場で消費行動している。財務省『法人企業統計』によれば、2009年度から2019年度までの10年間の売上高(全規模全産業)の伸びは8.3%増だが、賃金+賞与は4.0%であった。10年間で4.0%しか増加していないことは、ほぼ横ばいであったと言える。家計は、賃金が伸びないことが身に染みているのだ。これからも同じような賃金しか得られないとすれば、消費を増やすことはできない。いまの状態でやり繰りするほかないのである。

賃金が伸びず、人口減が加速している状態では、CPIの2%目標は御伽噺に聞こえる。すでに数十年間お題目のように唱えていたが、それをまだ続けるという。性懲りのない人たちだ。達成できなくても責任を取る必要がないから、改めない。第2次世界大戦や原発と同じ道を辿っている。塗炭の苦しみに国民を陥れることが目標なのかと勘繰る。理由もないのに、なぜこれほど固執するのか不思議でならない。CPI2%目標などくだらないことに、時間を費やすことは詮無きことである。思考停止状態の日銀は、いつになれば目が覚めるのだろうか。

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数