茶番を演じ続ける日銀と政府

投稿者 曽我純, 12月11日 午前8:27, 2023年

植田日銀総裁の発言で円高ドル安に拍車がかかった。ゼロ金利の解除が視野に入ってきたと思わせたからだ。未だに、このような思惑で相場が激しく動くのである。1990年代半ば頃からほぼゼロ金利を続けてきたが、日本経済の足取りにそれほどの変化はない。30年近く、同じことをやってきて、事態が好転しないことは、金融政策では日本経済を良くすることはできないのだ、と言うことだ。それでも、まだゼロ金利を続けるかどうかで頭を悩ますなど愚の骨頂ではないか。

1980年代後半の株式・不動産バブル化、それに続く1990年代以降のバブル崩壊によって、日本経済は塗炭の苦しみをなめ、長期不況に陥った。原因はバブル崩壊後の不良債権処理がお座なりで中途半端だったからだ。つまり、不良債権処理の方法が根本的に間違っていたのだ。病巣の奥まで切開し、完全に膿を出し切らなければ治らないのだが、そういう治療を施さなかったばかりに、今もって日本経済はその後遺症で、体調は不完全なのである。

このような苦しい経験を積んできているにもかかわらず、金融政策でお茶を濁すといった過ちを繰り返しているのである。何度経験しても経験が活かされないというのが日本なのだ。先の大戦で壊滅状態にされても、まだ降伏せず、最終的には原爆で止を刺されたことと類似している。戦前も昭和であり、戦後も昭和と続いていることが、その象徴ではないか。判断力、決断力に劣るのは戦前の日本も今の日本も同じである。そうした曖昧で優柔不断な態度が日本経済不振の最大の原因なのだ。

日銀は物価上昇率をFRBと同じ2%にしているが、米国とは経済構造や成長力が異なるので2%目標そのものが間違っている。しかも日本の消費者物価指数(CPI)の動向を一瞥するだけで2%が、いかにナンセスな目標であるかがわかる。小学生や中学生でもおかしいと思うはずだ。そうした、だれにでもわかる単純なことが、日銀にはわからないのだ。データが正しくないと思っているのか、見て見ぬふりをしているのか、だろう。

CPIは第2次石油危機の1980年には前年比7.7%まで上昇したが、3年後の1983年は1.9%、バブル期の1987年は0.1%まで低下した。バブル絶頂期の1989年、その年の4月に消費税を導入したため2.3%、さらに1991年には3.3%まで上昇したが、それをピークに伸び率は低下し、1995年にはマイナス0.1%へと沈んだ。1997年に消費税率を引き上げたが、その年のCPIは1.8%にとどまり、2013年までCPIはゼロ前後で推移していた。2014年の消費税率引き上げで2.7%となったが、その後、物価は再びゼロ近くの超安定した状態を維持していた。それが新型コロナにロシア侵攻が加わり、2021年の-0.2%から2022年、2.5%へと1991年以来の上昇となった。31年ぶりではあるが、2.5%なのであり、それで大騒ぎするとは、あまりの過剰反応ではないか。

需要が弱く経済成長が望めない状態で物価が上がらないことは、過去40年のCPIを振り返れば明らかだ。今年10月のCPIは前年比3.3%だが、2%台に低下するのは時間の問題である。何か突発的な物価に及ぼすようなことが起きなければ、来年には1%台に低下するだろう。

バブルの最中でも日本のCPIは安定していたこと、しかも実体経済が実にたどたどしい歩みを辿っていたかを想起すれば、日本のCPIが2%のような伸びを持続することはあり得ない。

1994年から2022年までの28年間のCPI上昇率は年率0.22%、さらに1982年から2022年の40年間でも年率0.65%しか伸びていない。名目GDPも過去28年間、年率では0.32%であった。こうした厳然たる事実に基づけば、2%などと言う物価目標は茶番にすぎないのだ。今は、たまたま突発的なことが起こり、CPIが高くなっているけれども、長期的視点で捉えれば、1%以下に落ち着くのはあきらかなのである。経済成長にしても過去28年間からの趨勢から逸脱することはなく、良くて0.32%であり、実際には、これを下回る可能性が高い。

自民党の従来通りの経済運営・方針では日本経済は活力を取り戻すことはできない。さんざんやってきたことの繰り返しなのだから。過去を顧みなければ、未来はないのだ。過去を不問に付し、同じことの繰り返しでは事態は悪化するだけだ。データがはっきり示していながら、それに立脚した政策を打ち出すことができないのは、日銀だけでなく政府もまったく同じと言える。

1989年のバブルの頂点で消費税を導入したが、経済へのそのインパクトは計り知れない。1989年の名目GDPは前年比7.1%の高い伸びだったが、その後、4年連続して低下し、1993年には0.1%へとマイナスすれすれまで落ちた。家計最終消費支出(CH、持家の帰属家賃を除く)は7.0%から1.6%へと急低下したことが響いた。CHの勢いが失せれば、民間設備投資(PI)の失速が起きる、すると、CHはますます冷えることになり、それがPIに影響するという悪循環に陥る。

1990年代半ば、円ドル相場は100円を超える円高で、信用組合の破綻、大和銀行の巨額損失などが起きていた。そうした状況下の1997年4月、消費税率引き上げに出た。同年11月、三洋証券や北海道拓殖銀行の破綻、山一證券自主廃業と金融不安は一気に強まった。消費税税率引き上げが一連の金融破綻を後押ししたと言えるだろう。経済状態が最悪のときに家計の負担を増やすと、どのようなことが起きるか、政府も官僚も思いを巡らすことができなかったのだ。

性懲りもなく、2014年4月に5%から8%へと引き上げた。2014年の名目GDPとCHは2.0%、1.5%だったが、2年後の2016年には1.2%、-1.0%とCHはマイナスへと落ち込んだ。あきらかに消費税率引き上げが家計の懐を直撃したからだ。もともと成長力が弱いところへ、税を取り立てる支出抑制策を企てれば、家計が支出を減らすことは自明ではないか。

消費税導入とその後の3回の税率引き上げは、そもそも弱いCHをさらに弱くするように作用してきた。所得格差の拡大は低所得者層を増やし、そうした層は消費税の負担は大きく、所得格差以上の格差を作り出している。

2022年度の消費税は23.0兆円と過去最高であり、所得税(22.5兆円)をやや上回る。法人税(14.9兆円)の1.54倍もの税を貧者富者問わず負担しているのだ。消費税率を20%に引き上げれば約46兆円もの税が確保できる。財務省はこのような皮算用をしているのかもしれない。いくらでも国民から、いざというときには巻き上げることができるのだ、という考えなのだろう。一般会計公債残高が1,068兆円(今年度末見込み)に膨れようが、お構いなしなのである。

所得税の過去最高は1991年度の26.7兆円、法人税は1989年度の18.9兆円といずれも30年以上遡らなければならない。それほど前の時代に、これだけの所得税と法人税を納めていても、バブルのせいでもあるが、経済は今よりもはるかに良かった。1989年度の名目GDPは434.8兆円、2022年度(566.4兆円)はその1.3倍であり、単純に所得税と法人税の過去最高額の1.3倍を求めると、両者で約59兆円になる。これは2022年度の所得税、法人税、消費税の合計額に当たる。

1980年代の累進性の高い所得税に戻し、法人税も当時の高い税率を適用すれば、消費税を廃止しても現状以上の税収を確保できるだろう。さらに有価証券取引税の復活、分離課税の金融所得を総合課税にすれば、税収増は間違いない。

財務省の『法人企業統計』(全規模全産業)によれば、法人税等の過去最高額は2020年度までは1989年度の20.9兆円だった。それを2021年度、2022年度と2年連続で更新した。だが、更新したといっても2.6兆円にすぎず、税前当期純利益は1989年度の38.9兆円に対して、2022年度は98.2兆円、2.52倍に拡大しているのだ。法人税等・税前当期純利益比は1989年度(53.8%)と2022年度(23.9%)では大きな違いがある。営業外収益の多くが非課税となり、法人税等が伸びないのだ。課税方法を抜本的に改め、30~40兆円の法人税等を徴収しなければならない。短期的には難しくても、5~10年のうちに消費税を廃止することは可能なのだ。

以上のような改造を実行しなければ、日本経済は落ち込むだけである。過去数十年の日本経済を振り返るならば、日本経済の質的改善を図るには、ゼロ金利などの金融政策や従来の経済政策では歯が立たず、企業から家計や消費中心の経済に組み替えなければならない。

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数