中小・零細の賃上げと非市場経済の拡大

投稿者 曽我純, 7月10日 午前8:34, 2023年

日本の賃金はどうか。厚生労働省の『毎月勤労統計』によれば、5月の現金給与総額は前年比2.5%と前月よりも1.7%p上回った。だが、業種による格差が大きく、1%未満も5業種ある。所定内給与は前年比1.8%であり、特別に支払われた給与(期末手当等の一時金やベースアップの差額追加分等)が22.2%も増加したことで、現金給与総額を引き上げた。しかし、CPIの上昇分にも届かず、実質ではマイナス1.2%と14カ月連続の前年割れである。

総務省の『家計調査』によると、5月の勤労者世帯の実収入は前年比4.0%減、2年前の2021年5月とくらべても3.9%減少している。世帯主の定期収入が2.5%減少したほか、配偶者の収入も1.7%減だ。DIも3.9%前年を下回ったことから、消費支出は-1.0%と3カ月連続のマイナスである。『家計調査』と『毎月勤労統計』とは調査対象が異なるので、違いが出てくるのは止むを得ないのだが、それにしても世帯主の定期収入が2.5%減少している一方、現金給与総額のプラス2.5%の違いはあまりにも大きい。

事業所規模1人~4人の小規模や常用労働者以外を『家計調査』は含んでおり、実態は『家計調査』に近いのではないか。好業績の大企業の賃金は上がるかもしれないが、そのほかの中小・零細の賃金はこれまで通りの引き上げ率にとどまるのだろう。そうであれば、日本全体の賃金はこれまでの伸びとそれほど違わない(『法人企業統計』によれば、2021年度の資本金10億円以上の大企業従業員数は746万人、全体の18.0%)。

『毎月勤労統計』の業種別現金給与総額によれば、5月の一般労働者は36.8万円、パートタイム労働者は10.2万円であり、一般労働者はパートの3.6倍の稼ぎなのだ。一般労働者でも最高の金融・保険は55.3万円、最低は飲食サービスの30.1万円、1.84倍の格差がある。所定内給与の比較では電気・ガスが40.1万円で最高、最低は飲食サービスの26.8万円である。

賃金が上がるのは、すでに高賃金を獲得している産業だが、高賃金産業や大企業で賃金が上がったからと言って消費をさらに増やすような行動は取らない。賃上げが本当に必要なのは低賃金産業や中小・零細で働いている人たちなのだ。

建設や介護などは慢性的な人手不足なのだが、賃金はそうした需給を反映していない。需要が供給を上回れば、ものの価格は上昇するのだが、労働については、そのような法則が通用しない分野がある。市場経済の根本原理が機能しなければ、資本主義経済とは言えない。

こうした資本主義の基本原理が作動しないことが、日本経済の長期停滞の元凶になっているのではないか。制度的に、高賃金が保証されている典型的企業が電力などの総括原価方式を採用している企業だ。『毎月勤労統計』(一般労働者、2022年度)によれば、電気・ガス業が月58.1万円であり、飲食サービスは32.0万円とこれだけの格差が現金給与総額に現れている。

2022年度の名目GDPは561.8兆円、そのうち公的需要は151.9兆円でGDPの27.0%を占める。民間最終消費支出の約半分に当たる巨大需要を公的部門が担っているのだ。だから、この151.9兆円目当てに企業が群がるのである。しかも、2022年度までの10年間で、公的需要は22.0%増加しており、民需の12.8%増を大幅に上回っている。成長が期待できる分野に群がるのは至極当然である。

公的部門との商いは、民間部門のような厳しい値引き要請はなく、甘い商売なのだろう。一旦、関係を結べば、継続的に取引ができるという期待もある。わざわざ競争の厳しい民間を相手にすることもない、という考えも頭をよぎる。この巨大な公的部門の存在と拡大が日本企業の競争力を削いでいる可能性がある。公的部門の仕事はお上の裁量で決められ、需給という市場メカニズムによって決まるものではない。こうした非市場経済の拡大が需給関係を歪め、日本経済の質を劣化させている。

 

★9月中旬まで、しばらく休みます。

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