金利では実体経済を操作できない

投稿者 曽我純, 7月10日 午前8:31, 2023年

前週比、米10年債利回りは23ベイシスポイント(bp)上昇したが、対ドルで円は1.6%上昇した。イギリスやドイツの10年債利回りは米国以上に上昇したため、ポンドとユーロも強含んだが、円ほどではない。今月、FOMCが開催されるが、利上げ観測が強まっており、そうした観点からも円安ドル高に向かってもよいはずだ。債券安が株安を誘引し、さらにドルに波及、米相場はトリプル安となった。

6月の米製造業ISMは46.0%と前月よりも0.9%p低下し、昨年11月以降8カ月連続の50%割れだが、新規受注指数は下げ止まりつつある。価格指数は41.8%に低下しており、インフレは重要な問題ではなくなってきている。一方、非製造業PMIは53.9%と前月よりも3.6%p上昇し、非製造業は勢いを増している。なかでも企業活動指数は59.2%と強く、新規受注指数も55.5%に上昇しており、米国経済の大半を占める非製造業は力強さを取り戻してきていると言える。

FRBは昨年3月からFFレートを5%pも引き上げているが、非製造業PMIはそれほど低下していない。非製造業PMIのピークは2021年2月であり、利下げする前から低下傾向を示していた。利上げした昨年3月の非製造業PMIは58.3%pと今年6月を4.4%p上回っていたが、企業活動指数はほぼ同じ水準だし、新規受注指数も多少下回っている程度であり、利上げの効果ははっきり表れておらず、非製造業は利上げに無関係のようだ。

個人消費支出(PCE)とFFレートの関係をみても後者が前者を支配しているとはいえない。PCEを左右するのは賃金や可処分所得(DI)なのであり、金利が上昇しても、賃金が増加すれば消費を絞ることはない。FRBがFFレートを1%から1.25%に引き上げる直前の2004年5月のPCEは前年比6.9%伸びていたが、その2年後の2006年5月、前年比6.5%%、3年後の2007年5月4.9%と鈍化しているけれども、2008年12月以降、約7年間にもおよぶゼロ金利期間、PCEの急激な落ち込みから回復してから、PCEの伸びに大きな変化はなかった。2015年12月以降、新型コロナで落ち込むまで、PCEは順調に伸びていた。金利をゼロにしようが、5%超に上げようが、政策金利は早晩、引き上げられ、引き下げられることが明らかなので、短期の政策金利にPCEが動かされることはないのだ。

FFレートとPCE物価指数を比べてみても、FFレートの変動幅は大きいが、物価指数の動きは緩やかである。特に、1990年代半ば以降、コア指数の伸びは2%を下回る場面もみられ、安定していた。2008年12月以降のゼロ金利下でもコア指数は上がることはなく、ゼロ金利最後の2015年11月も前年比1.2%であった。約7年間もの長期のゼロ金利も、物価に影響を与えることはできなかった。

FRBはゼロ金利とともに大規模な国債購入策を導入し、マネタリーベース(MB)を急増させたが、これも物価引き上げには無力であった。2009年、MBは一時前年比100%超増加したが、逆に、PCE物価指数は前年比0.9%まで低下した。MBをいくら供給しても、金融部門を循環しているだけで、非金融部門に流出していかなければ、経済活動や物価を押し上げることはできない。そのような試みは日銀が実証済みなのだが、FRBはマネタリズムの呪縛から逃れられないのである。

6月の米失業率は3.6%と歴史的な低失業率状態を持続している。今年第4四半期のFRBの目標は4.0%~4.3%だが、失業率をなぜ引き上げ、悪化させねばならないのだろうか。CPIは実際すでに2%程度に低下しており、心地よい水準にあるのだ。失業率を引き上げ、CPIの伸びを下げる必要などないのである。

新型コロナで非農業部門雇用は一気に解雇され、雇用はまだ回復の途上にある。新型コロナ以前のピーク(2020年2月)から今年6月までに非農業部門雇用は2.51%増加した。2020年2月までの同じ期間を比較すると5.03%増加しており、非農業部門雇用の拡大する余地は十分にある。6月の労働参加率と雇用参加率も2020年2月をいずれも下回っており、今後、徐々に高まっていくだろう。雇用の拡大だけでなく、6月の賃金は前年比4.4%と3カ月同率で伸びており、こうした雇用と賃金の適度な伸びがPCEを支えている。労働需給のミスマッチが解消されながら、雇用は拡大傾向を辿り、賃金も伸びていくだろう。こうした雇用と賃金の動向は政策金利に左右されない。

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