危うい実体経済を尻目にゼロ金利で買い進まれる株式

投稿者 曽我純, 6月19日 午前8:46, 2023年

ウォーレン・バフェットの訪日と発言に触発されてか、外人の爆買いによって日経平均株価は10週連続高だ。これは2012年11月第3週以降12週連続以来である。外人の買い越し額は5.6兆円と当時の規模に匹敵する。株価収益率(PER)や株式配当利回りなどから日本株は割安だと外人は再認識したのかもしれない。確かに、プライムの予想PERと配当利回りは15.6倍、2.22%と魅力的である。日本の10年債利回りは足元0.4%であり、株式配当利回りを大幅に下回っており、本来、両者が等しくなる水準まで株式が買われても良いはずだ。しかし、そのような均衡水準まで株式が買い進められれば、1989年末の何倍にもなり、株価は天文学的となる。

だが、株式も債券も市場に委ねて決められた価格ではなく、国と日銀が介入して作られた作為的な相場である。今の株価は企業の本当の実力を反映していないのだ。したがって、PERが低く、配当利回りが高いだけで買い進めるわけにはいかない。

6兆円近くも買った外人は、いつ手の平を返しても不思議ではない。いまは円安ドル高に振れているが、これが円高ドル安に向かえば、外人は好機と捉え、売りに転じるだろう。いつまでも外人が買いポジションの姿勢を取り続けることはない。利益を確定し、次の獲物に向かっていくのである。外人は狩猟民族なのだ。彼らを後追いしているだけでは、結局、梯子を外され、高値掴みに陥ってしまうのが落ちである。

昨年度のプライムの売買回転率(株数ベース)は112.4%、今年4月までの4カ月でも年率107.5%と100を上回っており、出来高は異常な状態が続いている。バブルの頂点である1989年の売買回転率でさえ73.1%(東証1部)であった。ゼロ金利導入以降、売買回転率は上昇に転じ2004年以降、現在に至るまで100%超を持続している世界でも稀な市場なのである。売買回転率が高いということは、株式投資の王道である長期間保有ではなく、頻繁に売り買いを繰り返すという投機が勝っている市場なのである。しかも、時価総額・名目GDP比は現状1.433倍と1989年の1.377倍を超えており、実体経済との比較では、株式は異例の膨張を示している。

内閣府発表の2023年第1四半期の名目GDPを10年前と比較すると、過去10年間の年率経済成長率は1.29%である。財務省の『法人企業統計』によれば、今年第1四半期の大企業製造業の売上高の同様の伸びは年率0.94%であった。いずれにしろ、伸び率は極めて緩慢であり、今後、この停滞傾向は一層強まるだろう。

自民党の一党支配により、資金の望ましい配分が歪められ、本来向かうべきところではなく、どぶに捨てるような使い方に走っているからだ。これでは中国やロシアの権威主義的な方法となんら変わるところはない。言論の自由はある程度確保されているが、言論だけでは自民党の政策(財政支出)を変えることはできない。乏しい資金が軍事増強にいとも簡単に振り向けられているのだ。憲法9条の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」は完全に葬られた。

これまでも自民党の税制変更によって、資産と所得の格差が拡大し、これからさらにそうした格差は広がる一方だが、これに資金の軍事費への傾斜などにより、国民の生活が脅かされることになるだろう。軍事費拡大には増税しかなく、増税すれば需要は冷え込み、税収は落ちる、税収の落ち込みを埋めるためにさらに増税する、といった悪循環に陥る。

岸田政権は熟慮なく、目先の現象だけを捉えて、軍事費2倍への拡大を決めたが、軍事力優先の政策は国力を削ぐことになる。「パンよりも大砲」の政策を推し進めた国は、どの国も多くの問題を抱え、外の恐怖を持ち出すことでしか、国民の支持をとどめておくことができないでいる。岸田政権も同様の方法で支持を維持するしかないのだ。

「パンよりも大砲」政策の推進は、戦前の軍国主義に戻ることに他ならない。自民党の基本原理は国体護持で、軍国主義なのであり、その路線を確実なものにしたいのである。民生よりも軍事という路線に踏み込めば踏み込むほど、民生部門は疎かになり、国が自壊していくことになる。

大企業製造業は売上高が過去10年間年率0.94%だったが、経常利益は年率5.29%も伸びた。売上高は伸びないが、経常利益は拡大するという異例の業績だが、これは売上原価の削減と海外での収益拡大によって可能になった。売上原価を絞り続けることは、結局、自分の首を絞めることになり、売上原価をいつまでも削減し続けることはできない。いかに魅力ある製品・商品を生産できるかが、売上高と利益を伸ばす決め手になる。だが、GDPが伸びないような状況では、海外に販路を求め、そこから収益を得るしか、業績拡大の道はないのが現実なのである。

輸出と株価の相関性はかなり高い。輸出増と株高、輸出減と株安の関係をはっきりと読み取ることができる。5月の輸出(季節調整値)は前月比-3.1%と昨年10月をピークに減少しつある。前年比では1.1%減と2021年2月以来2年5カ月ぶりのマイナスだ。輸出の前年比伸び率がピークアウトすると、それとほぼ同じ時に株価も下落するケースが多い。現在のように、輸出が前年割れになっているときに、株価が勢いよく伸びているケースはほとんど見当たらない。輸出の動向から判断すると今の株高は常軌を逸していると言える。

5月の対米輸出と対欧州輸出は前年比9.4%、16.6%と伸びているが、対中国は3.4%減と昨年12月から6カ月連続の前年割れだ。4月の米国のモノの貿易収支は輸出、輸入ともにマイナスであり、5月の中国の輸出入も前年割れだ。ユーロ圏についても、4月のモノの輸出と輸入は前年比-3.6%、-11.9%とそれぞれマイナスとなり、世界的に貿易は縮小傾向にある。

国内需要に期待できない日本企業にとっては外需が拠り所なのだが、その外需が萎んできているのだ。日本企業の頼みの綱が切れてしまえば、利益は急速に悪化するだろう。5月の輸出は「化学製品」、「鉄鋼・非鉄」、「一般機械」、「電気機器」と軒並み前年割れなのだが、「自動車」だけは66.3%と4月の33.1%よりもさらに伸び急増している。いまのところ、新型コロナで自動車生産が減少し、販売も落ち込んだ反動で、自動車の輸出と国内販売(登録車、前年比28.1%)は伸び、特需が発生しているけれども、これも一巡すれば、正常な状態に戻るだろう。自動車の特需が剥がれば、輸出は一段と落ち込むだろう。

株高はバフェット効果だけではなく、日本が主要国のなかで唯一ゼロ金利を継続していることも大いに影響している。ここにきて、ゼロ金利の奥義が理解され始めたのかもしれない。ゼロ金利は20年以上続いているのだが、本領を発揮しだしたのは、10年債利回りが急速に低下し、ゼロに近づいた2016年3月である。このあたりから、株式配当利回りが10年債利回りを大幅に上回ってきたからだ。ゼロ金利によって、貨幣の本質は骨抜きにされ、債券を保有する動機も失った。資産は株式か大都市の不動産で所有する以外の選択肢をなくしたのが、ゼロ金利なのだ。

 

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