日経平均株価は4月の第2週以降、8週連続高となり、昨年末から20.8%上昇した。今回の株高はウォーレン・バフェットの来日と軌を一にする。彼の日本の商社株の買い増しにまつわる話を材料に、外人買いによって吊り上げられた。3月24日までの約1カ月で、外人は日本株を2兆4,603億円売り越したが、その翌週から5月26日まで9週連続で買い越し、買い越し総額は4兆1,231億円に達している。米株に比べて、日本株が株価収益率や配当利回りで勝っており、円安ドル高傾向にあることも外人買いを促している。外人は円売りと日本株買いを同時に進めているのかもしれない。
米10年債利回りとS&P500の株式配当利回りは1.9%pも前者が上回っており、米株式より債券購入が有利な状況にある。しかも、10年債利回りは低下が期待でき、流動性を手放す機会を提供している。株価を決める最重要要因の利益も、今年第1四半期、S&P500ベースでは前年比横ばいが見込まれ、利益面から株式の魅力を削いでいる。だから、外人は米株よりも日本株に向かっているのだ。
リーマンショック後の2009年第1四半期、米国の株式価額・名目GDP比は1倍を下回っていたが、FRBが政策金利をゼロまで下げたことから、同比率は急上昇し、2019年第4四半期には2.5倍を超えた。新型コロナで2倍に低下したものの、再度ゼロに引き下げたことから、2021年第4四半期には3.2倍と過去最高を更新した。2022年第1四半期からの利上げによって、株式価額・名目GDP比は低下したが、それでも現状2.7倍程度と予想され、米株式は実体経済に対して著しく乖離しており、バブル状態にあると言える。
株式価額・名目GDP比率は10年債利回りと逆相関関係にあり、債券利回りが上昇すれば同比率は低下し、逆もまた然りなのである。第2次世界大戦後の債券利回りのトレンドは、第2次石油危機をピークとする富士山型である。1981年第3四半期、債券利回りは15.3%まで上昇したことから、1982年第2四半期の株式価額・名目GDP比は0.36倍に低下した。その後、債券利回りの低下とともに株式価額・名目GDP比は上昇に転じ、ITバブルやリーマンショックなどにより大きく動いた時もあったが、基本的には債券利回りの低下に従って、上昇基調を描いてきた。
米株式の配当利回りが2%に満たない現状では、NYダウが昨年末から1.9%増にとどまっているように、米株式が大幅に値上がりすることはないけれども、支持率が過去最低のパウエルFRB議長が早々、利下げすることにでもなれば、債券利回りが2%を割り込むことも考えられる。そうなれば、米株式は息を吹き返し、株式価額・名目GDP比も上昇していくだろう。米国の経済社会はバブルと縁が切れないのだ。
米株式価額・名目GDP比が2.7倍と高く、株式がバブル化しているが、日本は1.36倍(時価総額は5月末、名目GDPは予想)である。このように実体経済からそれほど離れていない日本株だからこそ外人が触手を伸ばすのである。
日本の10年債利回りは0.5%に満たない水準にある半面、株式配当利回りは2.3%もある。1.8%pも株式配当利回りが上回っていれば、株式買いが旺盛になるのだが、個人は売り越している。いくら配当を受け取ろうが、20%の税率が適用され、高額配当所得者にとっては節税にもなる。富裕者にとって、株式は金の生る木なのだ。
債券利回りが1%未満で株式配当利回りが2%超の状態が持続するならば、日本株は底堅く推移するだろう。さらに日銀の国債とETF買いの持続という条件を加える必要がある。10年債利回りは10年先の日本経済の予測に基づいて決まるものだ。今は日銀の統制によって歪められているが、そうでなければ、概ね名目GDPの伸びに近いところに落ち着くはずだ。2022年までの10年間の名目GDPは年率1.06%だった。より長い20年間では0.29%であり、いずれにしても、向こう10年間の名目経済成長率は最大でも1%ほどであろう。2022年の人口自然減が79.8万人に増加しているのでは、これから成長できるのかどうかもわからない。日銀が巨額国債購入を停止したとしても、これまでの経済の足取りや先行きを見通すならば、債券利回りは1%以下が妥当な水準なのである。
株式配当利回りは2%を超えているが、これからも高配当を続けていくことができるだろうか。配当を突き詰めていけば、配当を出せる利益を稼ぐことができるかどうかである。財務省の『法人企業統計』(資本金10億円以上の大企業)によれば、2021年度の当期純利益は40.9兆円と2018年度の38兆円を抜き、過去最高を更新した。10年前の2011年度に比較すると3.74倍に急増している。だが、これほどの当期純利益を稼ぎ続けることができるだろうか、不安を覚える。
2021年度の当期純利益は2011年度の3.74倍に急拡大しているが、不思議なことに、同期間、売上高は約1%の微増であり、ほぼ横ばいなのである。10年前と比較して売上高は5.7兆円しか増えていないのだが、当期純利益は30兆円も急増しているのだ。10年前比、販管費は2.28兆円増加したが、売上原価を11.73兆円削減し、これで15.1兆円の営業増益となる。売上原価の大幅削減が営業利益を引き上げた最大の要因だが、福祉厚生費を含めた人件費総額は10年間で2.35%の1.23兆円増加しており、売上原価の圧縮は人件費以外の外部や下請けからの購入仕入れ価格の引き下げによる。円安ドル高によって、営業外収益は11.1兆円増加したが、営業外費用は0.7兆円の増加にとどまり、10年前比で経常利益は25.5兆円拡大した。特別利益と特別損失はほぼ同じで、2021年度の税前利益は49.9兆円、2011年度比30.8兆円の増加となった。2021年度の法人税等は9.21兆円であり、2011年度の6.48兆円に比べれば増加しているが、その時の税前利益は19.04兆円と2021年度の38.1%にすぎなかった。税負担の軽減によって、2021年度の当期純利益は40.9兆円、2011年度比3.74倍に引き上げられた。40.9兆円の当期純利益は配当22.19兆円と内部留保18.71兆円に配分された。
これからも売上高は伸びないだろう。人件費の抑制と原材料費の削減などを続けていく一方、海外からの収益・配当などによって、大企業は利益を出せるけれども、中堅・中小企業はそのようには行くまい。2021年度・2011年度比、中堅・中小企業の売上高は7.2%増加したが、販管費が売上高の伸びを上回ったため、営業利益は横ばいであった。大企業が人件費を絞れば、結局、従業員の購買力は伸びず、自らの製品・商品も売れなくなる。コスト削減は大企業の利益増に繋がるのだが、社会全体にとってみれば、有効需要不足を招き、経済にマイナスの影響を及ぼすことになる。
過去10年、大企業の利益は急拡大したが、国内経済の一部分が潤っただけであり、経済全体を底上げするには至っていない。利益が出れば、それを社会に還元するなど有効に使わなければ、という経営者は出てこなかったと言ってよかろう。
円安や資源高によって、棚から牡丹餅のように意図しない利益が湧いてきた業種もあり、これから過去10年のような高利益を稼ぎ出すことができるかどうかは疑問である。今年第1四半期の大企業製造業営業利益は前年比-22.6%と2020年第3四半期以来10期ぶりのマイナスとなり、経常利益は-9.4%と2期連続の減益となった。円安効果が剥げてくれば、利益を維持することが難しくなってくる。
日本の製造業の利益の浮き沈みは、輸出の好不調で決まる。2020年度の輸出は前年比8.4%減と2年連続のマイナスになったが、2021年度、2022年度は23.6%、15.5%それぞれ伸びた。だが、今年に入ってからそれまでの2桁増から1桁増に鈍化し、4月は2.6%まで低下してきた。現状、円安傾向にあるが、米国の政策金利はほぼピークに達しており、これからさらに円安に進むことはないだろう。米国のものの輸出入はいずれも前年割れとなり、世界経済の進行速度は減速中である。そうした中で日本の輸出だけが伸びることはない。今年度の輸出は前年割れを覚悟しておくべきではないか。輸出が減速することは間違いなく、製造業の利益は3年ぶりの減益になりそうだ。今回の株高は最終局面に近い。
人口が急激に減少しているだけでなく、「原子炉等規制法」、「原子力基本法」など5本を束ねた「GX脱炭素電源法」が5月31日成立した。この法案の成立で湯水のように巨額の金を使うだけでなく、原発のリスクが一段高まることになる。いまでも地震が頻繁に起こり、いつ巨大地震に襲われるかわからない不安なときに、今以上にリスクを高めるとは、原発推進者は正常な思考の持ち主ではない。もしものときには、国民を原発の坩堝に引きずり込むつもりなのだろう。福島第1だけでも、これから想像もできないほどの金が掛かる。まったくの無駄金が福島第1に吸い込まれていくのだ。100兆円、200兆円いやそれ以上掛かるかもしれない。子育て支援予算に比べれば桁違いなのだが、原発には厭わず、いくらでも金と人を注ぎ込むのである。巨額の原発コストが日本経済に影響しないわけがない。原発を推進すればするほど、日本経済はへこたれることになる。
この法案はまさに「原発回帰推進法」であり、『原子力緊急事態宣言』下にありながら、福島第1以前以上に原発を活用しようとする法案なのだ。自民、公明、日本維新の会、国民民主の賛成多数で可決した。日本が第2次世界大戦で泥沼にはまり込みどうにもならなくなっても、尚、突き進む無謀な行動となんら変わりはない。原子力推進者は戦前の軍隊と同じで理性の欠片もない。汚染水すら処理できず、海にばらまくと言う。原発の溶け落ちたデブリを取り出そうと夢の世界の戯言で騙す。100年後でも取り出すことはできない。間違った方法だと分かっていても、そのまま突き進む特攻隊なのだ。
無駄とリスクの塊の原発を可愛がる日本は、まともな国とは言えない。原発推進者だけが原発と心中するのであれば、だれも文句は言わないが、原発が崩壊すれば、世界を放射能で汚染してしまう。国土の狭い日本では住むことすらできなくなるのだ。原発推進者はそのようなことは知ったことではないと言うだろう。他人まで道連れにしても平気なのだから始末が悪い。原発推進者は戦前の陋習をそのまま受け継ぎ、頑なに守り続け、戦後の78年を生きてきた悪霊なのである。
★2023年6月5日はアダム・スミス生誕300周年であり、ケインズの生誕140周年。