貿易黒字を持続させるドイツの製造業

投稿者 曽我純, 5月22日 午前8:50, 2023年

2022年度、日本の名目GDPは前年比1.9%と前年よりも0.5%p低下した。新型コロナ前の2019年度を0.8%上回り、過去最高を更新した。だが、実質では2018年度をまだ1.2%下回っている。2022年度までの10年間の名目GDPは年率1.17%、実質では0.56%であり、米国(2012年から2022年までの10年間、年率名目4.59%、実質2.1%)に比べればその差は極めて大きい。同期間、ドイツは名目3.46%、実質1.17%と米国を下回るけれども、日本の2倍以上の成長を遂げている。

現状の為替相場で日本の名目GDPをドルに換算すると4.03兆ドルとなり、米GDP(25.46兆ドル)の15.8%でしかない。ユーロ表示では3.73兆ユーロ、ドイツ(3.85兆ユーロ)を3.2%下回る。ドイツの人口は8,383万人と日本(1億2,447万人)よりも約4千万人も少ないことから、ドイツの一人当たりGDPは日本の1.53倍となる。ドル建てで日本と米国の一人当たりGDPを比較すると米国は日本の2.34倍だ。

日本の名目GDPが2022年度までに年率1.17%と極めて低い伸びにとどまったために、ドイツに規模でも抜かれ、一人当たりではますます差を付けられた。これから日本経済はさらに停滞を強め、向こう10年間の名目経済成長率を年率1.0%、ドイツは3.4%と仮定すれば、10年後のドイツの経済規模は日本の1.3倍ほどになろう。

2022年のドイツの名目GDPは前年比7.1%伸びた。ロシアのウクライナ侵攻後、天然ガスパイプラインが止まり、エネルギー価格の高騰と供給不安に陥った。そうしたことから2020年の名目GDPは前年比2.0%減少したが、2021年、2022年は5.8%、7.1%それぞれ拡大した。2022年、家計最終消費支出が11.9%も伸び、これだけでGDPを9.8%p引き上げた。純輸出額は前年よりも60%も減少したが、それでも黒字を維持した。

ドイツの貿易収支は東西統合後の1991年、1992年は赤字だったが、1993年以降2022年までの30年間、黒字を持続してきた。輸出力が西欧のなかでも群を抜いているからだ。名目GDPの2022年・2002年比は1.75倍だが、輸出と輸入は2.72倍、3.01倍でGDPよりもはるかに高い伸びである。2022年の輸出・GDP比と輸入・GDP比は50.6%、48.7%であり、GDPの半分、輸出入の合計額はGDPにほぼ等しい。

一方、日本の2022年・2002年名目GDP比1.088倍に対して、輸出と輸入は2.65倍、3.96倍へと拡大しているが、輸入が輸出の伸びを大幅に上回り、純輸出額はマイナスだ。1994年から2010年までは黒字だったが、2011年から2022年までの純輸出額は累計25.38兆円の赤字となった。素材価格の急騰と円安ドル高という二つの要因が輸入額を膨らませ、輸入超過国へと転落させた。ドイツも日本と同じように、ユーロ安と原油高の影響を受けたが、超過輸出を維持できたのはなぜか。

2022年・2020年比の輸入の伸びはドイツが47.5%に対して日本は62.5%であった。一方、輸出はドイツの33.3%に対して日本は42.9%と輸出入とも日本の伸びがドイツを上回っている。ドイツがこれだけ輸入が輸出の伸びを上回っても黒字を維持できたのは、2020年の黒字額が1,916億ユーロ(28.5兆円)、対GDP比5.6%と巨額だったからだ。2020年、日本は1.4兆円の赤字状態であったことが、輸入急増によって赤字拡大に拍車を掛けた。ドイツは日本と同じ輸出入の伸び率であっても黒字を確保できた。

資源に乏しい日本が生き延びる道は、資源を加工し、世界が欲しがるモノを作り出す以外にはない。今でも世界シェアトップの地位を占める企業があるけれども、一部に限られている。世界的に高シェアを握らなければ、結局は競争激化、価格下落によりマージンは薄くなってしまう。高収益を維持するには高シェアで価格支配力を持つことが不可欠なのである。

 優れたものをつくるためには人材の養成が欠かせないのだが、日本の人材養成システムがそのようになっているかと言えば、そうではないと言わざるを得ない。日本の大学が教育・研究をお座なりにした付が回ってきている。さらに文科省の教育行政が大学を荒んだ状態に追いやっており、日本の研究水準は低下している。

 民間企業の設備投資も、有り余った資金を抱えながら、投資先を見いだせず、大切な資金を眠らせている。2022年までの過去20年間の民間設備投資は1.2倍に増加しているが、年率では0.91%と1%に満たず、極めて低調であった。年率1%に満たない設備投資で世界の大企業に太刀打ちできるはずがない。このような低調な設備投資では競争によって市場から弾き出されてしまう。

 2022年までの過去20年間のドイツの名目民間設備投資は1.95倍、年率3.4%と日本の3倍超の速度で伸びている(GDPは1.75倍)。2002年の民間設備投資・GDP比は17.9%だったが、2022年には19.9%に上昇している(日本の同比率は17.0%)。民間設備投資が拡大すれば、それによって所得増、消費増が期待でき、さらに設備投資意欲を高め、経済が拡大生産していく姿を想像することができる。過去20年間で家計最終消費は1.62倍とGDPよりも伸びは低いが、公的消費が2.0倍に拡大し消費を補っている。

 国内需要に輸出額を加えたドイツの総需要は2022年、5.73兆ユーロ、日本の総需要(ユーロ換算で4.68兆ユーロ)の1.22倍の規模となる。ドイツの輸出力の源泉は製造業であり、2022年の製造業輸出額は1.33兆ユーロ(円換算で199兆円)と日本(約81兆円)の2.45倍の規模である。製造業輸出額は総輸出額の8割弱を占める。これだけのモノの輸出を可能とする生産力がドイツの力なのだろう。ドイツの製造業雇用者は724万人(2021年)、総雇用に占める割合は17.7%、日本は1,076万人(2023年3月)で総雇用の17.7%である。日本の製造業雇用の67.3%で日本を圧倒するモノの輸出をしているのだ。ドイツが、いかに生産性が高いかをまざまざと見せつけられる。

 

★今日、団地管理組合の総会があった。築47年目に当たる老齢期に入った多摩ニュータウンのほぼ中央に位置する団地である。戸数280、敷地面積45,695㎡のゆったりとした緑豊かな団地。築47年となれば、住民はそれを上回る年齢となる。実際、正確な住民数はわからないが、およそ540人住んでいるらしい。65歳以上が約50%、75歳以上が36%と超高齢化した団地だ。高齢化によって、役員辞退者が続出、昨年度末125名が手を上げた。3年前に比べれば46名もの増加、このペースで推移すれば3年後には辞退者は170名超になるだろう。もっとも多い年齢は78歳、79歳でこれを頂点に上下10歳に多数分布している。超高齢化ということは、これから最終場面を迎える人が多いということだ。そのせいか、空き家が昨年から大幅に増加し、26件となった。この調子でいけば、空き家も増加の一途をたどりそうだ。役員辞退者と空き家、頭の痛い問題である。

団地の10年後はどうなるか見当もつかない。はたして、管理組合を存続させることができるのかどうかという瀬戸際にきている。次の大規模修繕額が見積もられているが、その根拠はなく、ただ適当に決めたようだ。はたして、今の積立額で支出を賄えるのだろうか。次回の大規模修繕は13年後だが、そうとう近づいてからカネが足らないと気付いて慌てふためくことに気を揉む。だが、組合員の多くは、のんびり構えており、現状を知ろうともしない。おそらく尻に火がついて、はじめて事の重大さに気付くのであろう。

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数