3月の米CPIは前年比5.0%、前月よりも1%ポイント(p)低下した。2021年5月以来1年10カ月ぶりの低い伸びだ。4月はじめに「OPECプラス」が減産を決めたことから原油価格が上昇しており、なかなか一本調子で物価が下落していく状況ではない。それでも、WTIが、ここからさらに大幅に値上がりするとは考えにくく、年末に向けて、物価は緩やかに低下していくだろう。
米国の物価低下基調が持続するという前提では、FRBの利上げは、次回のFOMCで打ち止めになるだろう。米10年債利回りは3%台半ばで推移しているが、しばらくはこの水準にとどまるだろうが、米景気の減速が鮮明になれば、3%前後へと下がるはずだ。円ドル相場は、米債利回りの低下期待が強まるにしたがい、円高ドル安に向かうことになる。
CPIに先行するPPIは3月、前月比-0.5%と3カ月ぶりのマイナスとなり、コア指数も0.1%に鈍化してきた。前年比でも2.7%まで低下し落ち着きを取り戻し、昨年央までの2桁増とは様変わりした。原材料段階では3月、前年比17.0%減と2カ月連続のマイナスとなり、半製品は1.0%下落し、今後、原材料価格の下落が最終需要財に波及していくことになろう。
3月の米輸入物価指数も前月比-0.6%と3カ月連続のマイナスとなり、前年比でも4.6%低下し、2カ月連続の前年割れだ。輸入物価がマイナスに転じたのは、燃料価格が急低下したからである。今年2月-12.4%、3月-27.9%と2カ月続けて大幅なマイナスとなった。2021年4月には前年比130.7%に急騰していたが、昨年の6月を境に急低下している。輸入物価の低下もCPIの低下に寄与していくだろう。
米CPI総合指数は大幅に低下したが、食品・エネルギーを除くコア指数は前月よりも0.1%p上昇の5.6%と総合指数よりも高くなった。昨年9月の6.6%がピークだが、これよりも1%pしか低下しておらず、5%台からなかなか低下しないかもしれない。3月の総合指数が昨年6月の9.1%から4.1%pも低下しているのとは対照的である。ウエイトが約7%のエネルギーは昨年6月、前年比41.6%も高騰していたが、3月は-6.4%と2021年1月以来のマイナスになり、エネルギーを除く指数を引き上げることになった。
ウエイト13.5%の食品は8.5%だが、昨年9月のピーク11.2%からの低下幅は2.7%pにとどまっている。自宅で使う食品は8.4%、ピークの昨年8月より5.1%p低下しているが、外食等の自宅外食品は8.8%と上昇し続けており、これが、食品の下落を妨げている。総合指数から食品を除けば前年比4.4%に低下し、さらに住居等(ウエイト34.5%)を除けば2.2%に低下する。
住居等でウエイト25.4%の帰属家賃が8.0%上昇しており、これだけで2%p物価を押し上げている。総合指数から住居等を除けば、前年比3.4%となるが、帰属家賃は持家の人が借家していると仮定して計算された家賃だから、実際の物価は帰属家賃を除いた3.4%が実態に近い。米国の物価は帰属家賃のウエイトが高いことがCPIの伸びを引き上げているのだ。日本の帰属家賃のCPIウエイトは15.8%だから、米国よりも9.6%pも低く、しかも帰属家賃を含む住居は2月、前年比1.3%であることから、寄与度は0.28%pにすぎない。帰属家賃を除けば、日米CPIの差はほとんどなくなる。
住居のウエイトは米国が日本より高いけれども、食品では日本の26.3%に対して米国は13.5%と日本が12.8%pも高く、エネルギーは双方約7%である。住居のウエイトの高さが米国のCPIを引き上げている主因だが、日本のCPI高の要因は食品だ。2月の日本のCPIは前年比3.3%だが、食品は7.5%と米国並みであり、寄与度は2.0%p、食品を除くCPIは1.3%に過ぎないのである。食品のウエイトが米国と同じであれば、日本のCPI総合指数は2月、前年比2.3%になる。
日米の食品のウエイトの違いは大きい。日本の穀物(米・パン・パスタ等)は2.14%だが、米国は0.38%、以下、肉(2.49%、1.02%)、魚等(1.99%、0.29%)、玉子・ミルク(1.26%、0.36%)等米国の食品のウエイトが低い。それほど米国人は消費支出に占める食品の割合が小さいのだろうか。GDP統計によれば、2021年の米個人消費支出に占める食品支出は14.2%であり、米CPIのウエイトから隔たってはいない。住居は17.4%であり、CPIの約半分である。今の米CPIはあまりにも住居のウエイトが高く、消費支出からはそのウエイトを引き下げる必要がある。
他方、日本の『家計調査』(二人以上の世帯)によると、2022年の消費支出に占める食料は28.2%でCPIの食料ウエイトよりも2%p高い。住居等についてはCPIウエイトの21.5%に対して、『家計調査』では9.4%とCPIとの格差は大きい。住居関連の物価は落ち着いているため、CPIへの影響は軽微だが、これだけ乖離していれば見直しは当然だ。ウエイトの見直しだけでなく、古くてそれほど重要でないもの・サービスは除外し、新たなもの・サービスを取り入れなければならない。最新の消費支出によって、CPIを構成するもの・サービスおよびウエイトを変更することによって、CPIのより妥当な数値を知ることができるのである。
帰属家賃など住居を除けば、日米のCPIの上昇率に相違はなく、米CPIには食品による物価寄与が大きいという特徴がある。実質3%台のような低い物価環境下では、すでに4.75%に引き上げられている政策金利は高すぎると言える。しかも、これからさらに物価の伸び率は鈍化していくのであるから、むしろ、引き下げなければならない状況にある。
現状のような物価に対して金利で抑えることができるだろうか。食品は生活必需品であり、値上がりしても、消費者は需要を抑制・減少させるような行動は取らないだろう。金利は必需品の需要と供給に影響を及ぼすことはできず、それらの物価を引き下げたり、引き上げたりすることはできないのだ。つまり、FRBが常日頃、微に入り細を穿つように経済指標を丹念に精査し、政策金利を操作しても、そのことは、需給の調整にはほとんど叶わず、単に、自己目的化しているのである。
ユーロ圏20カ国のHICPは3月、年率6.9%だが、最低のルクセンブルク3.0%から最高のラトビア17.3%まで物価の格差は非常に大きい。それでも政策金利はECBが決めるひとつの金利でしかない。これだけの物価の違いがあるにもかかわらず、現状の政策金利は3.5%なのだ。これで問題がなく、揉め事も起こらないということは、政策金利と物価には、なにの関係もないことを如実に表していると言える。
短期的に、変動の激しい物価の対応に追われて、無闇に金利を激しく動かすことは間違っている。過去の歴史が証明しているように、放っておいても上がれば下がるし、下がれば上がるのである。需給に任せても良いことは、需給に任せ、それで上手く行かないことには政策が必要になる。大事なことにより多くの時間と金を投入しなければならない。