進行する円高ドル安

投稿者 曽我純, 3月27日 午前8:33, 2023年

これから円高ドル安はさらに進行するだろう。先週、FRBは躊躇しながらも政策金利を0.25%ポイント引き上げ、4.75%―5.00%とした。だが、週末の米10年債利回りは今年1月の半ば以来の3.37%に低下し、政策金利を138ベイシスポイント(bp)下回る。一方、2年債は半月ほど前には5%を超えていたが、政策金利はほぼ上限に達したとの見立てから3.76%に急低下した。いずれにしても、次回会合で引き上げるにしても、政策金利の上げ幅はたかが知れており、上がることよりも下がることに関心は向かっている。米政策金利が下がる期待が高まれば高まるほど、円高ドル安に弾みがつくというものだ。 

2022年3月に、FRBは政策金利をゼロから0.25%に引き上げ、円ドル相場は2022年2月末の114円99銭から同3月末には121円66銭の円安ドル高となり、その後、FRBの大幅利上げにより、さらに円は売られ、同10月には150円超まで進んだ。しかし、ここを底に円は反発に転じ、円高ドル安の傾向を強めている。年内に利下げ期待だけでなく、実際に利下げに踏み切る可能性もあり、110円台の円高ドル安も予想される。

円ドル相場は金利の見通しだけでなく、貿易収支や物価などの影響を受ける。たとえば、2012年第4四半期以降の円安ドル高も、貿易赤字額の拡大時期に当たり、赤字額がピークアウト(2014年3月)してから、その1年2カ月後の2015年6月に円安ドル高は125円でピークを付けた。貿易収支が改善してもなお円安ドル高が持続したのは、日銀ができもしない2%の物価目標のために極端な金融緩和策を実施したからである。だが、金融緩和策も円安ドル高を持続させることはできなかった。貿易黒字が2015年11月以降、2018年1月まで2年2カ月も続いたことなどにより、円ドル相場は110円前後で推移した。

為替相場は金融政策の違いだけを反映するのではなく、貿易収支の動向により深く関係している。円安ドル高と貿易赤字額のいずれのピークも昨年10月に同時に付けているからだ。貿易黒字であれば、ドルを売って円を入手するけれども、貿易赤字であれば、支払のためドルを購入する必要が生じてくるからだ。昨年10月の貿易赤字額(季節調整値)は2.31兆円だったが、今年2月には1.19兆円へと半減している。貿易赤字がさらに縮小していけば、円高ドル安を推し進めることは間違いない。

日本の貿易収支を左右する最大の要因は原油価格である。原油価格が安ければ、貿易収支は順調であり、原油価格が高くなれば、逆調となる。貿易収支と原油価格の相関関係は非常に強いと言える。リーマンショック直前の2008年6月、バレル140ドルに高騰していたWTIは、その7カ月後の2009年1月、41ドルまで急落した。そこから反発し2011年4月、WTIは113ドルまで上昇、WTIの高原状態は2014年6月まで続いた。WTIが高止まっていたことから、貿易赤字は拡大し、2014年3月には1.91兆円に膨らんだ。貿易バランスが悪化する過程でも円高ドル安が強まったのは、金融危機によりFRBが政策金利を一気にゼロまで引き下げ、国債等の買い入れを形振り構わず拡大したからだ。

貿易収支に影響を及ぼすWTIは2020年4月の16ドルを底に、約2年後の2022年6月には120ドルまで急騰した。それが昨年末には80ドルに、そして先週末は70ドル弱まで落ち着いてきた。産油国はできる限り高く、消費国は安く手に入れたい。原油は中近東やロシアに偏っているため地政学的に供給は不安定になり、原油価格の変動幅は大きくなりやすい。産油国は原油などの資源への経済依存度が高く、原油価格の高騰は輸入財の価格高となり、結局、自分で自分の首を絞めることになる。原油を値上げしても消費財、投資財の輸入価格が上昇してしまえば元の木阿弥となるのだ。それでもOPECが原油の生産調整をしなければならないのは、得てして、供給過剰に陥りやすいからだ。

2020年のように、新型コロナで世界経済が落ち込めば、原油消費量も前年割れとなる。

2020年の日本の原油・粗油の輸入数量は1.46億KL、前年比-16.0%、2021年も1.2%減少した。原油・粗油の輸入量は2013年以降、2021年まで9年連続の前年割れで、その間の減少率は32.3%である。さらに期間を広げ、2021年・2000年比では実に42.2%も減少している。

FRBは先週のFOMCで経済予測を公表したが、今年第4四半期の実質GDPは前年比0.0~0.8%と昨年12月の0.4%~1.0%からやや下方修正した。昨年第4四半期の0.9%に比べても低い。2022年までの10年間の米実質GDP(年率2.1%)と比較しても、今年の米国経済は弱く、景気後退も否定できないほどである。欧州委員会によれば、今年のユーロ圏GDPは0.9%と大幅な減速を予想しており、欧米いずれも低成長になりそうだ。

IMFの今年1月の世界経済見通しでも2023年の世界経済は2.9%と昨年から0.5ポイントの低下を見込んでいる。こうした予測は最近の米国の銀行やクレディスイスの破綻の影響は考慮されておらず、さらに下方修正される可能性が高い。もし、このように今年の世界経済が低成長を余儀なくされるのであれば、原油需要も低い伸びになり、価格は軟調に推移し、場合によっては、かなり激しく下落することもありうる。

原油価格の低下により、円高ドル安傾向が一層強まり、そうなれば、原油価格×円ドル相場で求められる原油輸入額は大幅に低下することになる。おそらく、原油輸入額の減少によって、年後半には貿易収支は黒字化するのではないか。貿易収支が黒字化すれば、そのことが円高ドル安要因として作用し、短期的には為替が輸入額の減少をもたらすことになる。

原油安と円高ドル安の進行の程度によっては、日本のCPIは再びゼロに近づくことになるだろう。24日に公表された2月のCPIは前年比3.3%と前月から1ポイント低下した。政府の電気・ガス対策で1.01ポイント押し下げられ、それがなければ前月並みであった。だが、すでに述べたように、原油価格と為替相場が物価を引き下げるように作用しており、年央にはその影響がはっきり現れるだろう。

2月の米国のCPIは前年比6.0%と日本よりも2.7ポイント高く、購買力平価で評価すればドルよりも円の価値が高くなるはずだ。1万円という金額表示は変わらないけれども、物価が上下すれば、1万円の購買力は1万円以下にあるいは以上になるからである。2000年から2022年までの22年間の購買力平価で円ドル相場を評価すると、2022年の円ドル相場は2000年よりも38%円高ドル安でなければならない。長期の購買力平価によれば、現状は本来の水準からかなり円安ドル高にぶれている。日本のCPIがゼロに近づいていくにつれて、円ドル相場は購買力平価の水準に接近していくだろう。

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