日米の政府支出・GDP比率と最悪の岸田政権

投稿者 曽我純, 1月30日 午前8:56, 2023年

昨年第4四半期の米GDPが公表された。実質前期比0.7%、前年比では1.0%であり、昨年12月に示されたFOMCの2022年GDP予測(0.4~0.5%)を上回った。経済成長は予測より高いが、失業率とPCEinflationはいずれも予測を下回り、歴史的な低失業率でありながら物価は落ち着きつつある。

ほぼ完全雇用が達成されていれば、余剰労働力に乏しく、そのことが米経済成長力を低下させる。これは金利の変動には無関係に起こることだ。これまでも失業率が底をつけてから、GDPの伸びは低下していることが分かっている。経済成長を持続させたいのであれば、FRBは利上げではなく、利下げすべきだ。そうすれば、経済は腰折れすることなく、低成長ではあるが景気後退には陥らないはずだ。

実質GDPは前期比0.7%と前期並みの伸びであったが、主にプラス寄与したのは在庫増であり、これを除けば0.3%に過ぎない。個人消費支出は前期比0.5%伸びたが、ものの売れ行きは低調であり、ヘルスケアーなどのサービス部門が支えている状態だ。ものの消費は前年比-0.5%と3四半期連続のマイナスである。設備投資は前期よりもさらに伸びは鈍化し、住宅は引き続き前期割れである。経済の減速に伴い、輸入は2四半期連続の前期比減となり、純輸出の赤字額は縮小した。政府支出は2四半期連続増だが、1%に満たず、前年比では0.8%にとどまっている。政府支出の22.6%を占める軍事費も小幅増にとどまり、前年比ではマイナスだ。ウクライナへの巨額支援をしていながら、実質での政府支出は微増なのである。

だが、名目の政府支出は前期比1.7%、前年比7.6%とGDPの伸びをやや上回っている。軍事費も前期比1.3%、前年比4.8%だが、政府支出の伸びよりも低い。2022年の政府支出は6.9%だが、軍事費は2.3%と政府を大幅に下回っており、現実とは隔たりを感じる。

2022年の名目GDPに占める政府支出の割合は17.5%と2年連続の低下だ。新型コロナにより2020年は18.7%と2019年から1.1ポイント上昇したが、昨年は2018年(17.4%)以来の低い水準に戻っている。2018年の17.4%は1960年以降では最低であり、2022年は過去2番目に低い。1960年以降、政府支出比率が最も高かったのは1967年(24.1%)であり、これをピークに低下基調にある。

名目GDPに占める軍事支出比率は2022年、3.6%と2020年の4.2%から2年連続の低下だ。9,250億ドル(1ドル=130円で120.2兆円)という途方もない巨額の軍事費を支出し、米国は世界覇権を企てているが、軍事支出比率は1960年以降では2022年の3.6%が最低なのだ。1961年、1962年、同比率は11.5%と今の3倍超であったが、その後は低下基調を示している。米国の言いなりに軍事費をGDPの2%に引き上げようとしている日本とは対照的である。同盟国の軍事負担を重くし、米国はその分軽くしたい意向なのだろう。

日本の政府支出・GDP比率は2021年、27.0%であり、米国よりも9.2ポイントも高い。同じ資本主義経済だが、その構造はまったく異なる。新型コロナで2020年は2019年比1.4ポイント上昇し、26.6%に上昇したが、2021年はさらに高くなった。1994年以降、政府支出比率は2020年、2021年と2年連続で最高を更新した。

不況や大震災後では需要不足を補うために政府支出は拡大するけれども、今回は昨年第3四半期でも27.3%とさらに高く、上昇傾向を続けている。日本経済は政府支出の拡大でやっと歩いているようだ。米国経済は民間が牽引しているが、日本はお上頼りの習性が根強く残っており、政府主導で経済は運営されている。

もし、審議中の軍事費の拡大が容認されれば、日本の軍事支出比率は1%引き上げられ2%になるので、他の項目が変わらなければ、政府支出比率は28%に上昇することになる。人口減と少子高齢化によって民需がさらに細ることになれば、需要の不足分は政府の支出で埋めるしかない。2021年の家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)は237.1兆円、新型コロナ以前の2019年(248.5兆円)を11.4兆円下回る。これだけの需要の消失を補うために、政府支出は2019年の140.3兆円から2021年には148.1兆円に拡大された。政府支出は2011年から2021年までの10年間で25兆円増加した半面、民需は26.9兆円減少した。これからの10年間で同じような政府支出増と民需減が起こると仮定すれば、政府支出比率は31%に上昇し、民需比率は70%を割ることになる。

食料自給率は38%(カロリーベース)だし、エネルギーに至ってはほぼ100%海外に頼っている日本は、どこかで不具合が発生し、輸入が一部でも途絶えることになれば、即経済活動は大幅に収縮し、食うにも困る酷い状態に陥ることになる。食料やエネルギーだけでなく、極度の世界的分業体制が確立されている状況下では、どんな商品・製品の輸出入が止まっても、経済的痛手は計り知れない。

昨年、日本の輸出額は98.1兆円であり、その56.5%に当たる55.4兆円がアジア向けであった(中国19兆円、韓国7.1兆円、台湾6.8兆円、香港4.3兆円等)。対米輸出額は18.2兆円であり、中国を下回る。対EUは9.3兆円にとどまり、対アジアが輸出先としては圧倒的に多い。輸入額は118.1兆円だが、やはりアジアからが53.3兆円、総額の45.1%を占める。そのうち中国が24.8兆円、次が台湾の5.0兆円、韓国4.4兆円と続く。原油高で急増している中東からは15.4兆円、全体の13.0%である。米国やEUからは11.7兆円、11.3兆円と、足しても中国を下回る。いずれにしても中国などの近隣との貿易は、日本にとっては死活問題となるほど重要なのである。

もし、事が生じて中国との貿易がままならぬことになれば、日本の製造業は壊滅状態に陥るだろう。それほど身近で重要な国に敵対的な行動を取れば、揺さぶりを掛けられてもしかたがない。米国に近づけば近づくほど、対中リスクは高まり、そのことが日本経済を揺さぶる事にもなりかねない。米国が日本のエネルギーや食料の面倒みることはできず、日本の外交的手腕で調達する以外には術はない。遠く離れた親戚よりも近くの隣人との関係を良好に保つことが大事なのである。武力の誇示で相手を威嚇することは、相手との関係を悪くするだけだ。

政府の軍事費拡大は、暴力団が組の対立で採る方法と変わるところはない。日本政府の敵基地攻撃力の保有は、子供の喧嘩でも相手を恐れさすための、武器をちらつかせるあるいは所持をほのめかす、強い相棒を連れてくるといった行為は、政府の論理によれば、これらはみな正当化されるのだ。政府の遣り方は暴力団と何ら変わりはない。暴力団を認めることはできないが、岸田政権はそれ以上に認められない存在に堕落してしまった。憲法9条など歯牙にもかけないのである。バイデン大統領に弄ばれ、米国の操り人形を演じることだけが生きがいなのだろう。

危うい状態に陥るのは日本が独自の外交を放棄し、米国の傀儡政治を続けていくことだ。世界はG7だけではないのだ。人口でみればG7は世界の10%に過ぎない。世界の人口の10%で世界の政治を牛耳、これが手本などといっても、それぞれはみな異なる文化、風土、歴史のなかで培われ、出来上がった政治・経済制度なのであり、G7にすべて同調できるわけがない。我儘に振舞い、他を見下すような態度を取れば、だれでも不愉快になり、反発するだろう。そのような驕りの主は言うまでもなく米国だ。日本列島全体が標的になるように仕向けている現政権は、戦後のどの政権よりも愚かで危険である。

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数