米景気後退と株式の行方

投稿者 曽我純, 1月23日 午前8:55, 2023年

2022年末の日経平均株価は前年比9.5%下落した。前年を下回るのは2018年以来4年ぶりである。2022年と2018年はNYダウも低下しており、米株の日本株への影響力は極めて大きい。2000年以降の日米の株価を比べてみると米株が下落しているときは、日本株もほぼ押していることが分かる。日本株は米株が強いか弱いかで決まると言っても過言ではない。2023年の米株がどうなるか、これを見通すことが、直ちに日本株をも占うことになるのである。

昨年末のNYダウは前年比8.8%低下したことから、今年は反発するのでは、と考える向きもあるが、ITバブルのときは2000年から3年連続、しかも値下がり率は拡大しており、安易に反発を予想することはできない。

株式は国債利回りだけでなく、実体経済(収益)を反映しており、その動向は株式を大きく左右する。2022年の米実質GDPは2021年の5.9%から大幅に減速し、2%を下回るようだが、今年はさらに伸び率は低下し、1%を下回る見通しだ。もし、これほど伸び悩むのであれば、企業収益も期待できないことになり、米株式は2年連続の前年割れになるかもしれない。

2023年の米国経済が減速を強めることになれば、世界経済、延いては日本経済にも悪影響することは必至。日米の実質GDPの長期トレンドは概ね類似しており、日本経済は米国経済をそのまま写したものである。株式と全く同じで、米国経済の影響をもろに受ける自律性の弱い経済なのだ。

2021年の日本のGDPは前年比-4.3%と2年連続減となったが、2022年も回復力は弱く、1%前後の低い伸びにとどまったはずだ。2023年の米国経済が予想のように低迷するならば、日本のGDPも1%未満のさらなる低空飛行を余儀なくされよう。そのようなシナリオが描かれるようになれば、株式関係者も実体経済を傍観するわけにはいかなくなる。

2022年第3四半期までの10年間の米実質GDPは年率1.75%であり、その前の2012年第3四半期までの10年間の成長率1.55%を上回った。ただ、2002年までの2.78%からは大幅に減速しており、長期的には米国経済は低下基調にあると言えるだろう。そのように米国経済を捉えれば、米国経済の実力は1%台半ばとの仮定は適切であり、下振れすれば1%以下に低下することになにの不思議もない。

直近の米経済指標は米国経済が景気後退に向かっているか、すでに景気後退期に入っていることを示している。昨年6月をピークに物価上昇率は低下しており、ガソリン価格は昨年12月、前年比1.5%低下した。昨年12月の小売売上高は前月比-1.1%と2カ月連続のマイナスとなり、前年比では5.3%に低下した。昨年のガソリン販売額は前年比29.9%と小売売上高の増加額の約25%を占めていたが、昨年12月には前年比5.1%に鈍化している。

昨年12月の米鉱工業生産指数は前月比-0.7%と2カ月連続のマイナスだ。製造業に限れば前月比-1.3%、前年比でも-0.5%と2021年2月以来22カ月ぶりの前年割れである。消費財や設備投資財の広い範囲で生産は低調であり、ウクライナへの軍事支援などで軍事・宇宙やエネルギーなどが伸びているだけである。ハイテク産業は5カ月連続の前月比マイナスとなり、前年比でも0.6%低下した。特に、ウエイトの高い半導体等が不振であり、昨年第2四半期以降前月を下回り、12月は前年比8.6%も落ち込んでいる。

新型コロナで2020年2月をピークに米非農業部門雇用者は2020年3月、4月の2カ月で2,199万人が失職した。これほどの短期間で大規模な解雇が行われたことは、これまでなかった。半面、雇用も急速に回復し、労働需給がうまく噛み合わず、賃金の著しい上昇が起こった。

情報産業の雇用も2020年5月までの3カ月で約10%減少したが、昨年11月まで増勢は続き、新型コロナ以前のピークを5.6%上回るまでに拡大した。これほど雇用が拡大した部門はほかになく、いかに情報産業が雇用増を図ったかがわかる。民間部門の雇用は昨年12月を2020年2月と比較すると1.3%増にとどまっており、これと比較しても情報産業の異常な雇用増が窺える。

最も変動が激しかったのはレジャー・接客部門の雇用であり、2020年2月の1,698万人からその2カ月後には878万人へと5割弱削減された。昨年12月には1,605万人に回復しているけれども、ピークを93万人下回っている。ほとんどの産業が過去最高の雇用を更新しているけれども、低賃金のレジャー・接客部門への雇用は進んでおらず、雇用構造は低賃金部門から高賃金部門へと変化してきている。

経済の減速が鮮明になるとこうした雇用の多寡が問題として現れてくる。ハイテク産業の多くが人員の削減を打ち出しているが、新型コロナ下でのハイテク機器・ソフトの異常な販売増が剥げ、人員の過剰が明らかになってきているからだ。将来を楽観的に捉えた経営者の失策だと言える。他が採用を増やすとそれに負けじ、とそれ以上に採用を拡大し、賃金も引き上げてきた。だが一転、経営が逆風にさらされると、手っ取り早いコストカットとして人を切ることになる。これまで米企業で度々行われてきたことの繰り返しである。1,2年辛抱すれば、経済は回復し、再度採用に踏み切るのだが、米経営者は目先のことしか眼中にないのだ。もし、民間部門程度の雇用の伸びが適切だと仮定すれば、情報産業は30万人以上をさらに解雇しなければならないことになる。

昨年12月の米失業率は3.5%と歴史的低水準を維持しているが、経済の減速とともに、今までのようにものが売れなくなれば、収益は悪化することになる。収益を確保するためには、米企業は解雇に躊躇しない。新型コロナのときのようには対応しないけれども、全産業に雇用の過剰が発生すれば、失業率は瞬く間に上昇することになる。

昨年11月の米民間部門の賃金・報酬は前年比6.5%だったが、所得税の増大により、可処分所得は2.9%にとどまり、実質では-2.5%である。個人消費支出は7.7%増だが、実質では0.6%しか増えていない。貯蓄率(貯蓄/可処分所得)は2.4%に低下しており、これ以上、貯蓄性向を引き下げることはできない。このような状況で経済の減速が賃金の上昇力を弱めことになれば、家計は消費を絞らざるを得なくなる。個人消費支出は米GDPの約7割を占めていることから、消費支出のわずかな減少でも経済に及ぼす影響は大きい。

米景気先行指数は昨年4月から11月まで8カ月連続の前月比割れだ。同指数の6カ月比(年率)はマイナス5%を超えており、すでに米国は景気後退期にあることを示唆している。2000年以降でこれほど6カ月比が落ち込んだのは、今回を入れて4回ある。過去3回はIT不況、リーマンショック、それに新型コロナ不況である。

昨年4月からの急速な政策金利の引き上げが、このような景気後退の経済状況にしたわけではない。雇用のあまりにも急激な解雇と採用が、物価高と景気の悪化を引き起こしたと言える。これは金利の引き上げでは制御できない。需給の調整に委ねる以外ないのだ。

さらに利上げを企てれば、すでに後退しつつある経済に追い打ちをかけることになるだけで、なにのメリットもない。米10年債利回りは3%台半ばへと、昨年10月下旬のピークから80bp近く低下したが、政策金利が利回りを78bp上回っている。イールドカーブからも米景気が下降しつつあることを読み取ることができる。

米国経済が後退しているならば、日本経済もそれにつれて減速、後退へと向かうだろう。昨年11月の鉱工業生産によれば、資本財(輸送機械を除く)は前月比-5.2%と3カ月連続のマイナスとなり、企業は設備投資に慎重になってきている。数量ベースの輸入は昨年12月、前年比-6.4%と2カ月連続で減少し、輸出は-7.1%と3カ月連続減と国内需要だけでなく世界的に需要は弱含みである。

株式にとっては厳しい年になるのではないか。2022年末の日経平均株価は26,094円、10年前の2012年末(10,395円)の2.5倍である。おそらくこれほどの成果は今後、起こらないのではないか。2021年9月の3万円超えが、1989年末のような歴史的なピークとなり、日本株の長期トレンドは右肩下がりの局面に入ったと想定すべきだ。

ゼロ金利は出尽くし、日銀の買いも小幅にとどまるだろうし、積極的な買い手が不在なのだ。外人は2013年に14.6兆円を買い越してからは、売り越し基調であり、個人の売り圧力は外人以上に強い。唯一の買い越しは自社株買いに注力している事業法人であり、2022年までの10年間で21.4兆円買い越した。

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