強権の岸田首相と黒田総裁の詭弁

投稿者 曽我純, 12月26日 午前8:46, 2022年

12月16日に安全保障関連3文書が閣議決定されたが、22日には「GX実現に向けた基本方針(案)」(議長 岸田首相)が示され、次期通常国会に関連法案として提出するそうだ。そこには、原発の再稼働、廃炉の建て替え、新炉の開発・建設、60年超の原発運転可能などで、2030年度の電力に占める原子力の比率を20%~22%に引き上げる、と記されている。要するに、再び、原発を主力電源にしたいのだ。福島第1の廃炉が進まず、『原子力緊急事態宣言』が解除されない状態でも、原発の運用を促進したいのである。

2011年3月11日、原発の過酷事故で日本は危うくなり、辛うじて最悪の事態は回避できたが、今もなお放射能汚染は事故当時からそれほど低減していない。これだけの大惨事を経験していながら原発の推進を図るというのだ。岸田首相は少しも懲りていない。安全保障関連法の改悪でも見られたように、憲法第9条を葬ろうとしていることから判断しても、第2次大戦も懲りていないのだ。日本では歴史は確実に繰り返されるのである。

東電にはすでに10兆3,407億円が国から投入されている。福島第1に、これから何十兆円掛かるか見当もつかない。まさにどぶに捨てる金だ。未だに溶け落ちた核燃料がどこにあるかもわからない。そのような進展のない深刻な状態でありながら、廃炉現場で作業している人たちの大半は東電社員ではなく、下請けなのである。東電社員は常に放射能から離れたところでぬくぬくと生活しているのだ。

今のような廃炉方法では「百年河清を俟つ」である。本来、衣食住などの生活に使えるカネが放射能の処置に消えていく。何十年も、あるいは何十万年もの気の遠くなるような時間、放射能を封じ込めなくてはいけない。なぜ、このような、だれにでもわかる原発の恐ろしさを思い起こすことなく、原発推進に邁進するのだろうか。

世界で発生する地震の約10%が日本で起こるという地震国である。北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートといった4つのプレートがひしめいているところに日本列島は存立している。プレートは非常に遅いけれども動いている。動けば、いたるところに歪みが生じ、地震が起こりやすくなる。福島第1の廃炉が長引けば、歪みは大きくなり、次の巨大地震に襲われるかもしれない。政府は、地震の巣に原発を建設するという甚だ非常識な方針を変えようとはしない。

目先の利権も関係しているが、原発は地球温暖化に不可欠だという点を強調し、推進の原動力にしている。核のゴミだけを捉えても地球温暖化以前の段階で地球を汚すものであることが理解できる。原発は地球温暖化を阻止するに資するというけれども、事実はそうではなく、温暖化を進める装置と言える。100万キロワットの原発では200万キロワットの熱を海に放出しているからだ。海水を温め、海水が温められれば、海面からより多くの二酸化炭素が出てくることになり、地球温暖化を推し進める。

廃熱の放出だけでなく、ウランの採掘から燃料棒に至るまでの過程で化石燃料を使用するだけでなく、原発の建設にも膨大な化石燃料が必要なことは言うまでもない。直接使用する化石燃料だけでなく、生産プロセスを遡って間接的にも使われる化石燃料の使用量を求めるならば、とても原発が地球温暖化の切り札などと位置付けることは間違いであることがわかる。

地球温暖化は停滞した、新機軸を見いだせない閉塞感の漂う先進国経済にとって格好のビジネスとして各企業が食らいついている。人為的地球温暖化説は、現実とは掛け離れた「天動説」を信奉する時代を彷彿させる。

鎌田浩毅著『地球とは何か』(2018年)によれば、過去5億年の気候変動は上下で約10℃あり、5億年のなかで現代は寒冷な時代であると。1億年前の白亜紀のころは、今よりも10℃以上も温暖であり、恐竜が繁栄していた。

80万年の短い時間軸から現代をみると数少ない温暖化の時代なのだが、この80万年は、暖かい時代はわずかで、ほとんどは氷期だった。しかも、温暖な時代は約10万年ごとにやってくる。この周期的な変動は、地球が太陽の周りを回る公転軌道の変化、地球の自転軸のぐらつき、地軸の傾きの変化による、と指摘している。

人間活動によって出る二酸化炭素よりも地球全体から出る炭素のほうが圧倒的に多く、地球に炭素循環という仕組みが備わっており、人為的に炭素を制御することはできない。「地球の歴史をみてみると、現在の二酸化炭素濃度は、寒冷期にあたっているため、異常に低いレベルにあります。……地球史の中では、これから氷河時代へ向かう途中の、一時的な温暖化といってもよいのです」(鎌田浩毅)。

天動説のようなとんでもないドグマを世界が信じ切って、それに熱中している。人間ではどうにもできないことに取り組んでも結果はあきらかである。いくら資金を投入したところで地球温暖化は止めることはできない。地球温暖化という天動説から我々は抜け出さなければならない。

 

日銀は12月20日の金融政策決定会合で「長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する」と発表した。だが、黒田総裁は「利上げではない」、「市場機能の改善」だという。詭弁としか言いようがない。

「市場機能の改善」の指すところは債券市場での資金調達を円滑に進めることだと受け取る。だが、国内での社債による資金調達は2021年度、8.6兆円と借入金12.8兆円を下回る。こうした外部調達は資金調達の9.5%に過ぎず、残りの90.5%は内部調達なのである。「市場機能の改善」を図ろうが、資金調達に及ぼす影響はたかが知れている。ことさら強調すべき問題ではないのである。

0.25%が維持できなくなったから0.5%に引き上げた。そもそも長期金利をコントロールしようとすることが間違いなのである。日銀のすることは政策金利を決めることとオペによる日々の資金需給調整だけで、それによって長期金利が形成されるのだ。長期金利まで介入すると金融市場は何のために存在するのかということになる。イールドカーブの形状は操作するものではなく、市場に委ねておくべきなのだ。イールドカーブが本来の変化をするならば、そこから重要な景気等の判断材料を汲み取ることができるからだ。

長期金利は短期金利の先行きを予測しながら変化していく。景気が底入れしそうな状況になれば、政策金利の引き上げ期待が強まるので、長期金利も上昇していくだろう。さらに景気が良くなれば、短期金利の上昇力はより強まり、それにつれて長期金利も右肩上がりとなるが短期金利ほど上昇しない。そこで、短期金利が長期金利よりも高くなる逆イールドが形成される。景気拡大の末期、ピーク近辺では逆イールドは最大になりがちである。景気のピークの手前から景気の下降が懸念され、長期金利は短期金利の低下を織り込んでいくことになる。景気のピークアウトが鮮明になれば、利下げ期待の高まりによって、短期金利の低下速度は加速し、長期金利を下回り逆イールドの解消が起こる。

金融当局がイールドカーブを操作することになれば、資本主義の市場機能が十分に機能しなくなり、経済に悪影響を及ぼすことになる。「市場機能の改善」のために長期金利を引き上げたというが、そのように長期金利を扱うこと自体、市場機能を歪めていることなのだ。日銀が長期金利に介入することは「百害あって一利なし」なのである。

 

★次号は休みます。良い年をお迎えください。

 

 

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