続「パンよりもミサイル」を優先する岸田首相

投稿者 曽我純, 12月19日 午前8:31, 2022年

臨時国会の閉会から1週間で安全保障関連3文書が閣議決定され、日本の安全保障政策は戦争のできるような体制に転換された。これほどの大転換を超短期間で決めてしまう国を民主主義国などと言えるだろうか。中国やロシアなどの強権国家を非民主主義国と罵るけれども、日本もなんら変わらない強権国家なのだ。日本は上っ面だけの民主主義国であり、中身は半ば自民党独裁であり、しかも米国の支配下にあるという2重の支配下に置かれている。

バイデン大統領の要求には応えるが、国民の切実な問題は適当にあしらう。米国の考えに沿わない行動を取れば、政権は立ち行かなくなることが怖くて、受け入れるしかないと腹を括っているのだろう。米国のご機嫌を取っていれば、支持率は低下しているが、政権を維持できると読んでいる。なんとも浅ましい政権ではないか。

日米安全保障条約と日米地位協定によって米国の日本支配は戦後持続し、米軍は我物顔で日本の空を自由に飛べる。今度の安全保障戦略の大転換によって自衛隊は米軍の行動に追随せざるを得なくなり、危険性は飛躍的に高まる。矛の役割を担えという米国の要求を呑んだ。

憲法第9条は有名無実となり、自衛隊は海を越えて戦地に出撃する機会に遭遇するだろう。戦後、継続して米軍が駐留していることと、憲法第9条は矛盾している。朝鮮戦争やベトナム戦争時には兵隊や膨大な軍事物資が日本から現地に供給され、日本はそれらの戦争に関わってきたからだ。

2023年度から2027年度までの防衛費は43兆円、年当たり8.6兆円となる。来年度から段階的に引き上げ2027年度にはGDPの2%まで増額する。今年第3四半期の名目GDPは554兆円、これの2%では11兆円となり、2022年度の当初防衛費5.36兆円に比べると2倍強となる。現状から向こう5年間で17兆円ほどの増額だが、これだけのカネを捻出することは不可能で、国債の増発に頼らなければ確保できない。いまでも世界のトップ10に入る軍事費だが、2027年度にはトップ5入りするだろう。憲法第9条の下で世界有数の軍事大国になることに、なにの矛盾も覚えない岸田首相のこの無神経さが怖い。

ロシアのウクライナ侵攻や台湾の緊張を絶好の機会と捉え、でっち上げた安保戦略だ。だが、これらの侵攻や緊張は特殊なケースであり、もとは同じ国であり、同一民族の国なのである。そこへ米国が関与し、火種をつくるような介入をしてきたことが戦争になり、緊張を生んだ。

日本列島北から南まで米軍が駐留しているが、そのことが東南アジア緊張の最大の要因なのだ。自分のすぐ近くに世界最大の軍隊が存在していることの威圧感は相当なものだろう。東南アジアの緊張を取り除くには、日本列島から米軍を一掃しなければならない。

資源ない日本に攻め込む、あるいはミサイルを撃ち込む、このようなことが何の切っ掛けもなく、突然、地震のように降り掛かってくるのだろうか。沖縄もかつては独立国であったが、侵略したのは薩摩であった。自ら戦争放棄を宣言している国に、武力で侵攻してくることは考えられない。

地震の巣であり、しかもそこに原発を作ることに執着することのほうが、はるかに危険なことだ。自分で自分の墓穴を掘るようなものである。東南アジアの国で戦後、戦争になったのは米ソの対立からであった。それ以外の侵略戦争はほとんどなかった。仮想敵国を作り上げ、軍備拡大を図る。軍拡競争を続けることになるが、資金面を考慮するだけで日本は行き詰まることは明白である。経済がほとんど停滞状態にあるので、軍事費を増額すればそれだけ非軍事費に回せる資金は不足するからだ。

IMFによれば、日本の一人当たり名目GDPは3.93万ドルで世界27位であり、G7では6番目。10年前の2011年は4.87万ドルとカナダ、米国に次ぐ3位であった。

2022年第3四半期の名目GDPは554.1兆円だったが、5年前は557.1兆円であり、微減である。このような長期停滞経済において軍事費を拡大するのは暴挙である。経済的に行き詰まり衰退するというプロセスを歩んでいるときに、非軍需支出を削減することは、弱体化に拍車を掛けることになるだろう。こうしたときに巨大地震が起きたら立ち直ることができるのだろうか。戦闘機、戦車、ミサイルは大震災には何の役にも立たない。

少子高齢化と人口減が急速に進行しているが、これに対する抜本的政策はひとつも打ち出されていない。すべてが中途半端であり、人口減と少子高齢化の進行を望んでいるかのようだ。自民党の企業・富裕層優先の政策が、日本を自壊の道へと推し進めてきたのである。低い法人税と金融課税、累進課税の大幅な緩和、労働条件の改善の遅れ、男女平等の不徹底などの現代社会を機能させる仕組みが整備されておらず、過去を踏襲する制度がボディーブローのように日本社会にマイナスに効いてきている。

そのようなときに安全保障政策の大転換で軍事費を大幅に増やすと宣言する。敵に攻撃されることよりも内部が瓦解することを防ぐことが先決ではないか。岸田首相はそうは思わない。民生部門よりも軍事部門を重視し、前者を弱体化させることを選択したのだ。

米国は日本を子分のままにしておきたい。そのためには、日本が経済的な力を保有することは好ましくない。経済成長はしないほうがよいが、潰れてしまってはこまる。なんとか食べていけるくらいの状態がベストだと判断しているのだろう。そのほうが、米国の主張を日本が素直に聞き入れるからだ。

米国と日本の名目GDP(IMF、購買力平価、ドル表示)を比較すると1990年には日本のGDPは米国の42.0%の規模であったが、2000年33.9%、2010年30.1%、2021年24.3%という具合に、日米のGDP格差は拡大の一途をたどっている。今では、日本のGDPは米国の4分の1にすぎないのである。かつての経済パワーは見る影もなく、経済も2流3流になってしまったのだ。政治はもともと後進国の部類に入っていたが、経済も先進国と言えるか疑わしい。

老人国家になり、ほぼ成長が止まってしまった国にミサイルを配備し、敵基地を攻撃するなど宣言して、なにの効果が期待できるのだろうか。隣国は反発するだけで、地域の緊張を高めるだけだ。日本は資源の大半を海外に依存しており、少なくても普通の付き合いができていなければ、もしものときは悲惨な状況に陥ることになる。軍事費の拡大ではそのような付き合いは断たれてしまう。

米国にべったりの外交では国際社会で相手にされなくなる。また、もしものときに、本当に米国が助けてくれるか、と言えば期待しないほうが賢明だ。中国や北朝鮮を威嚇し抑え、米本土を守るために日本を利用しているだけ、なのだから。他人のために血を流すような人はいない。戦争のない平和な社会を築き上げるには「覇道ではなく王道」の政治を進めるしかないのである。

曽我 純

そが じゅん
1949年、岡山県生まれ。
国学院大学大学院経済学研究科博士課程終了。
87年以降証券会社で経済・企業調査に従事。
「30年代の米資産減価と経済の長期停滞」、「景気に反応しない日本株」(『人間の経済』掲載)など多数