インフレを引き下げるための追加利上げが必要との地区連銀総裁の相次ぐ発言にもかかわらず、先週末の米10年債利回りは3.82%と前週末とほとんど変わらなかった。おそらく、今後、10年債利回りは3%台で推移するだろう。そうであれば、円ドル相場は円高ドル安の方向に進んでいくことになる。10月の米PPI(生産者物価指数)は前年比8.0%と4カ月連続で低下し、3月のピーク(11.7%)から3.7ポイントも伸びは縮小している。PPIのピークはCPI(消費者物価指数)よりも3カ月先行している。10月のPPIエネルギー指数は前年比21.8%とまだ高いが、6月の52.9%に比べれば半分以下に鈍化した。10月の米輸入物価指数も前年比4.2%と3月のピーク(13.0%)から大幅に低下しており、インフレが弱まる兆候が随所にみられる。来月の13日、11月の米CPIが公表されるが、10月の7.7%よりも低い伸びになるだろう(次回FOMCは12月13日~14日)。FFレートの最大値は今の予想よりも低く、到達時期も前倒しとなり、債券利回りの低下やドル独歩高も修正されるのではないか。
10月の日本CPIは前年比3.7%と9月よりも0.7ポイント高くなった。生鮮食品とエネルギーを除くコア指数も2.5%と前月を0.7ポイント上回った。が、ウエイト7.1%のエネルギーは15.2%と依然高いが、3月の20.8%をピークに緩やかに低下しつつある。エネルギー高の原因である原油価格は1バレル=80ドル台で推移しており、昨年末の水準に近づいている。円ドル相場も円高ドル安に向かえば、今のエネルギー高はかなり修正されることになるだろう。
総務省の『家計調査』によれば、総世帯の一世帯当たりの年消費支出は2021年、282万円である。CPIが3.7%上昇すれば、年間約10万円の支出増となる。やっと生活をしている限界的な家計では、貯蓄を取り崩すとか借入をしなければならなくなるかもしれない。このような限界的な家計には支援が必要だが、今のような物価上昇でガソリンや電気代などまで政府が援助する政策はばかげている。2桁の真のインフレや不況になったら、今の何倍もの政府支出が求められるだろう。そういう本当に経済が行き詰ったときに出動し、手助けするのが本来の政府の役割なのだ。
今年7-9月期のGDPが公表されたが、名目では前期比-0.5%と昨年第3四半期以来4期ぶりのマイナスとなった。原因は原油等の高騰により純輸出が大幅なマイナスになったからだ。民間最終消費支出と民間設備投資の寄与度は0.6%、0.4%のそれぞれプラス、公的支出の寄与度も0.4%となり、国内需要の寄与度は1.3%だったが、純輸出がマイナス1.8%となり、結局、-0.5%成長となった。だが、内需(民需+公需)は575兆円、前期比1.3%と4期連続増となり、新型コロナ前の水準を上回り、過去最高を更新、民需も1.2%増加し、過去最高である。
民間最終消費支出や民間設備投資は、昨年第4四半期以降4期連続の前期比プラスであり、内需は成長している。前年比では、民間最終消費支出は7.2%と4期連続で前年を上回り、2011年以降では最高の伸びである。民間設備投資も8.6%と6期連続で増加し、2014年第1四半期以来8年半ぶりの高い伸びだ。民需は前年比7.4%増加し、2011年以降ではもっとも高い伸びとなった。純輸出の赤字が前年よりも6兆円超拡大したため、名目GDPは前年比1.3%にとどまった。
実質GDPは前年比1.8%と2021年第2四半期以降6四半期連続増で新型コロナ期を除けば、2017年第4四半期以来約5年ぶりの高い伸びだ。民間最終消費支出は前年比4.3%と新型コロナの急反発を除けば、2011年以降で最高となったほか、民間設備投資も4.1%の高い伸びとなり、民需は4.0%と2011年以降4番目の高成長である。民需の水準は新型コロナ以前の2019年第3四半期以来3年ぶりの高水準である。
実質GDPの前年比1.8%の伸びは低いように受け取られるが、2022年第3四半期までの過去10年間の実質年率成長率は0.43%に過ぎず、名目でも0.77%なのである。こうした長期成長率に比較すると今年第3四半期の実質GDPの前年比1.8%は過去10年間の年率の4倍超の高い成長だと言える。民需は過去10年間、実質年率0.2%とGDPの半分程度に落ち込んでおり、ほとんど横ばいであった。それが、今年第3四半期では前年比4.0%も伸びているのだ。新型コロナによる急激な景気の収縮に対する反発の側面もあるが、民需が過去10年間でも稀な4.0%もの高い成長をしているときに、大規模な経済対策を施すことは道理にかなっていない。
政府の経済対策は、現状の経済状態を詳しく調査することなく、少しの物価上昇や為替に幻惑されて、一夜漬けの施策を取りまとめただけだ。多数の公僕を抱えている政府が、受験生のような対策に終始してきたから、日本経済は実質年率0.43%の成長しかできなかったのである。
日本ではインフレは起こらない。過去10年間の家計最終消費支出(持家の帰属家賃を除く)は名目でも年率0.73%にすぎず、実質では-0.04%とわずかではあるがマイナスであり、このような超低調な需要状況では深刻なインフレは起こらないはずだ。たとえインフレになったとしても一過性で、短期間に元の安定した物価に戻るだろう。
賃金が上がらないから消費が増加しないのだ、と考えられているが、雇用者報酬の今年第3四半期までの過去10年間の伸びは名目年率1.27%と家計最終消費支出を0.54ポイント上回っている。先行きを慎重にみる習性、超高齢化による購買意欲の減退、予想を上回る人口減等が消費よりも貯蓄に向かわせているのだ。
総務省の2022年5月1日現在の『人口推計』によれば、総人口は1億2507万人、前年比-0.56%(70.4万人減)である。さらに深刻なのは、15歳未満が前年比-1.79%(26.6万人減)、15歳~64歳は-0.71%(53.3万人減)と若年世代ほど減少率が大きくなっていることである。65歳未満の人口は前年比79.9万人の減少だ。一方、65歳以上は+0.26%(9.5万人増)と増加傾向にあり、65歳以上は3624万人だが、男1573万人、女2051万人と女の割合は56.7%である。女の割合は75歳以上では60.7%、85歳以上では68.0%と高齢化と共に上昇している。日本の総人口は前年比で70万人減少し、しかも65歳未満が約80万人も減少、高齢者では女の割合が高くなるといった人口減と人口構成の変化が消費にマイナスに影響していることは間違いない。
総人口の年0.56%減を仮定すると、10年後の日本の総人口は1億1823万人と2022年5月1日から683万人減少することになる。年0.56%減も甘い仮定かもしれない。新型コロナによる不安から2020年の婚姻件数は前年比12.3%減少し、2021年も4.6%減の501,138件である(2011年は661,895件)。出生数は婚姻に遅行して表れるため、これから、出生数は大幅に減少するだろう。2021年の出生数(811,604)は2011年(1,050,807)と比較して22.8%減だが、仮に向こう10年間の減少率が25%だとすると、2031年の出生数は60.8万人となる。そのときの年間の総人口減少数は90万人を超えるだろう。経済対策よりも人口対策を最優先課題として取り組まなければ、内部崩壊は加速することになる。社会が崩れる時は、いつも外部要因ではなく内部要因に起因していることを忘れてはならない。