米インフレの元凶はバイデン政権の近視眼的政策

投稿者 曽我純, 11月14日 午前8:27, 2022年

10月の米CPI(消費者物価指数)の伸びが予想よりも低かったことから、対主要通貨でドルは売られ、特に、円は激しく売られていただけに、10日だけで5円49銭もの円急騰となった。翌11日にも2円16銭値上がりし、今年8月末以来2カ月以上前の130円台に円は上昇した。10月20日には1ドル=150円を超える円安ドル高だったが、FRBの利上げ幅予測が下方修正され、もしかすると12月で打ち止めになるかもしれないとなれば、金利差だけで売買されていた為替相場の流れが変わるのは至極当然のことである。日本の国債利回りには変化がないので、米債券利回りの低下は直ちに日米金利差の縮小になるからだ。

米インフレのピークアウト感や景況感の低下などにより、米10年債利回りは10日、28bp低下の3.81%と4%を下回った。11月2日、FRBはFFレートを0.75%引き上げ、3.75%~4.00%としたが、10年債利回りはこの範囲に収まった。10月24日に付けた4.24%がピークになり、10年債利回りはこれを超えることはないのではないか。

2011年~2021年の10年間の米名目GDP年率成長率は3.4%、その前の2001年~2011年でも3.3%と米国経済の成長率は3%台前半の伸びで推移してきた。これからの10年間も過去20年間の成長率から大きくぶれることはないだろう。10年債利回りは概ね、長期期待経済成長率を中心に動いていくはずだ。10年債利回りの基準となるのは、あくまでも長期期待成長率なのである。

現状の米10年債利回りはこの基準の少し上の位置にあり、まだ低下の余地を残している。低下の可能性があることは、金利差のさらなる縮小の期待が膨らみ、為替相場の変化を掻き立てるかもしれない。

10月の米CPIは前年比7.7%と前月よりも0.5ポイント低下し、これで6月の9.1%をピークに4カ月連続で上昇率は低下した。食品・エネルギーを除くコア指数も前年比6.3%と前月から0.3ポイントの低下だ。CPIの伸びが低下したのはウエイト8%のエネルギーが6月の前年比41.6%から10月には17.6%へ鈍化してきたからだ。

エネルギー価格を支配しているのはWTIであり、WTIが低下すればエネルギー価格も低下し、やや遅れてCPIの伸びも落ちていくことになる。10月末のWTIは前年比3.5%まで低下してきている。WTIは2021年2月以降今年8月までの1年7カ月前年比二桁増、時には三桁の急騰を続けてきたが、9月以降は一桁に落ち着いている。また、米株式の回復やドル安などを背景にWTIの値上がりが懸念されるが、世界経済の減速から原油需要の低迷が予想され、WTIの大幅な上昇はないのではないか。

WTIが100ドル以下で推移していけば、米CPIの再度の大幅な上昇は起こらず、債券利回りは4%以下での値動きとなり、為替相場もドル独歩高とはならないだろう。WTIが再び100ドルを超えることになれば、世界経済の減速は一層強まり、原油需要は減少するだろう。

円ドル相場は金利差から別のテーマに関心は移りつつあるのではないか。過去1カ月間でドル流動性を手放し、米債を購入した投資家は多いはずだ。だが、ここまで急速に米債価格が上昇すれば、米債購入意欲は減退していくだろう。米債価格が緩やかに上昇するという期待下では一定のドル需要はあるけれども、これまでのような旺盛なドル手当てをする必要はなくなってきている。

米CPIは低下したとはいえ前年比7.7%である。一方、9月の日本CPIは3.0%であり、日米では4.7ポイントの開きがある。7.7%の上昇が向こう1年間続くと仮定すれば、ドルは年間7.7%減価するが、円の減価は3.0%にとどまる。ドルは減価するのでドルからものに換える動きが強まるだろう。円であれば3%の減価で収まるので、ドルから円に換えようともするだろう。ユーロ圏のインフレ率は9月、10.9%なのでドル以上に目減りしている。金利差よりもインフレ率の低い通貨が選択されることになるかもしれない。

FFレートはこれからさらに引き上げられるとしても、10年債利回りはピークアウトしたとみれば、今後の利上げの効果はほとんどないということになる。例え、10年債利回りが4%を超えるところまで上昇したとしても、その経済への影響は微々たるものだろう。

企業行動に債券利回りが及ぼす影響は大きくはない。自己資本比率が高く、巨額の内部留保を保有している企業などは、金利の変動に左右されることはない。金利の上昇が作用してくるのは、お金を借りなければならない人たちである。インフレは、ドルを減価させるので今でも、住宅ローンの実質金利はほぼゼロである。住宅ローン金利が今の水準を持続し、インフレが低下していくことになれば、実質金利は上昇し、住宅市場はさらに冷え込むだろう。

今回の米インフレの主因は新型コロナ対策のための給付金などの大盤振る舞いにある。新型コロナで経済が急激に悪化したところに巨額の財政支援をしたが、生産水準が極端に低下していたことから、超過需要状態に陥ってしまった。需要が供給を大幅に上回ることになれば、価格の上昇が起こることはやむを得ない。これはものやサービスだけでなく、同時に労働市場にも発生したので、賃金の上昇も引き起こした。

2020年2月の米製造業の稼働率は76.8%だったが、その2カ月後には62.3%に落ち込んだ。76.8%を超えたのは15カ月後の2021年4月だった。リーマンショック後、稼働率は2009年6月に最低(63.4%)を付けたが、発生後9カ月経過していた。リーマンショック前の水準に戻ったのは27カ月後であった。このように、新型コロナによる経済の変動は、過去にない短期の異常な振幅であった。需給バランスの崩れに賃金の高い伸びが加わり、約40年ぶりのインフレになったのである。2021年4月の賃金・俸給(民間部門)は前年比17.3%も急騰し、今年9月も9.1%と引き続き高い伸びを維持している。このような賃金・俸給の高い伸びは1960年代以降では初めてのことだ。

リーマンショック直前の2008年6月、WTIは1バレル=140ドルに急騰していた。その時のCPIコア指数は前年比2.4%であった。その後、不況でWTIは急落したが、2009年1月に底打ちし、2011年3月には100ドルを突破、100ドル前後の高水準を2014年第3四半期まで持続していた。だが、2014年12月のCPIコア指数は前年比2.5%であり、2015年央には2%を下回るところまで低下した。WTIの高騰だけでは今のインフレは説明できないのである。

価格メカニズムによって需給バランスが改善され、インフレは収まっていくのである。政策金利の引き上げでは、インフレを抑えることはほとんどできない。需給調整には時間が掛かり、時間がインフレを解決するのである。

今回の米国のインフレはバイデン政権がその種を蒔いたのである。経済の急速な落ち込みに慌てて対応するのではなく、事態を十分に観察、把握し、その病に適した処置を施さなければならない。短兵急な措置では、今回のように高インフレという高い代償を支払わなければならなくなる。近視眼的にしか事態をみない酷い政治が、政治や経済を乱す元凶になっている。

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