円ドル相場の転換点はいつか

投稿者 曽我純, 10月17日 午前8:52, 2022年

円安ドル高が止まらない。先週は3円超値下がりし、これで9週連続の円安ドル高だ。対ドルで主要通貨はほぼ下落し、ドル独歩高だが、円の値下がりが最大である。EUや英国などは金融引き締めに転換しているが、日本は超金融緩和を貫いているからだ。一方、円は安くなったが、ゼロ金利を継続しているため、欧米に比べて株式の下落率は小幅である。昨年末比、TOPIXは-4.7%にとどまっているのに対して、S&P500 -24.8%、ナスダック総合 -34.0%、DAX -21.7%といずれもTOPIXの下げよりも大きくなっている。もし、日銀がゼロ金利から利上げへと舵取りを変えそうだといった見通しが、そこはかとなく伝わってくるだけで、日本株は激しい売りを浴びせ掛けられるかもしれない。利上げするといっても1%程度が限界であり、その程度の利上げが果たしてどのくらい為替に効くのだろうか。小幅な利上げでも株式だけでなく実体経済にも悪影響するだろう。ゼロ金利の恩恵を住宅部門も受けているが、利上げすれば、住宅ローン金利も上昇し、不動産部門は冷え込むことになるだろう。

ゼロ金利を長期間続けていても、日本経済は名目1%に満たない低空飛行がやっとなのである。いつ失速して水面下に墜落するかもしれない飛行をしているときに、利上げのショックを受ければ、日本経済はどうなるだろうか。容易に想像できる。

日本の家計の貯蓄性向はゼロ金利下でも低下せず、高い貯蓄性向を維持してきたが、利上げは貯蓄性向をさらに高めることになり、家計の需要は低下することになる。家計の需要不足は景気の浮揚力を一気に奪い、企業の設備投資マインドを挫き、マイナス成長へと転落させることになる。貯蓄>投資の乖離幅はますます拡大し、これまでもそうだが、日本経済が生き延びるには、国債発行によって公的部門が需要不足を補うという方法を強化するしかない。

原油価格はピークに比べれば30%程度下落しているが、円ドル相場が前年比31%の円安ドル高のため、現状、円表示の原油価格は前年を38%上回っている。日銀の『企業物価指数』によれば、9月の石油・石炭・天然ガスの輸入物価指数は円ベースで前年比120.2%も上がっている。契約通貨ベースの輸入物価指数は頭打ちになっているけれども、大幅な円安ドル高が円ベースの指数を押し上げているのだ。こうした燃料などの輸入物価の高騰が消費者物価にも波及しており、消費者物価指数(CPI)はじわじわ上昇してきている。それでも、9月の東京都区部CPI総合は2.8%、生鮮食品・エネルギーを除くコアは1.7%と欧米に比べれば極めて緩やかである。消費者の手元に届くまでのそれぞれの生産・販売過程でコスト上昇分をすべて商品に転嫁するのではなく、一部にとどめているからだろう。国内需要はそもそも弱く、値上げに対して、消費者は非常に敏感なのだ。価格上昇によるコスト高をすべて転嫁すれば、需要は落ち込み、価格を抑えて販売したほうが売上高増を期待できるのではないか。

それにしても、今回の円安ドル高はいつまで続くのだろうか。ここまで円安が進むとは私もそうだが、ほとんどの人が思っていなかったはずだ。150円も通過点になるのだろうか。FRBは今年3月以降、5回のFOMCで政策金利をゼロから3%まで引き上げた。来月1日から開催のFOMCでも0.75%以上の利上げが実施されるだろう。11月8日は米中間選挙、同15日、16日はG20首脳会合、同18日、19日はAPEC首脳会合と重要な政治日程が控えている。本来ならば、中間選挙の前に大幅な利上げなど行わないはずだ。

長期債利回りと株式には逆相関関係があり、利上げは米株を一段下押し、利上げリスクは高い。ナスダック総合は、すでにピークから3割超落ち込んでおり、底抜けになることもあり得る。バイデン大統領は経済や株式にほとんど言及しないが、もし株式が景気の先行指標であるという見方に立てば、近いうちに、米国景気は後退に陥る確率が高い。

8月の米景気先行指数の6カ月比(年率)はマイナス5%以下に低下しており、景気後退のシグナルを発している。下降過程でマイナス5%超になったのは2000年以降、ITバブル後、リーマンショック、新型コロナに続く4回目である。4-6月期の米実質GDPは前期比-0.1%と2四半期連続のマイナスとなり、景気後退の定義にしたがえば、後退に入っているのだ。実質GDPは前年比でも1.8%に低下してきており、今年第4四半期にはマイナスになるかもしれない。米国経済は早ければ、今年第4四半期、遅くても来年第2四半期には景気後退に陥り、世界経済にも不況の波が押し寄せるだろう。

米10年債利回りは先週末、4.02%と4%を超えた。週末値で4%超は2008年7月第4週以来約14年ぶりである。過去10年間の米名目GDP成長率(年率、3.76%)よりも10年債利回りが高くなってきており、相当上限に近づいている。9月の米CPIは前年比8.2%と6月の9.1%をピークに3カ月連続で低下したが、食品・エネルギーを除くコアは6.6%と今回の上昇過程で最も高くなり、インフレの収束を見通すことができない。しばらく、FRBは物価目標2%を達成するために引き締め姿勢を堅持するだろう。米10年債利回りに追い付くようにFFレートを上げていくはずだ。

米10年債利回りとFFレートの足取りは似通っており、ピークの水準はほぼ同じである。米10年債利回りが4%を大幅に超えることがなければ、FFレートも4%台でピークアウトするはずだ。向こう10年間の実質GDP成長率が過去10年間以上に伸びるとは考えにくく、1年以内に、10年債利回りは3%台に低下するだろう。

現状では先行き10年債利回りはまだ上昇すると市場参加者は想定しているはずだ。ドルの流動性を溜め込む姿勢を崩してはいない。そうした美人投票が行われている限り、円安ドル高は続くことになる。10年債利回りがピーク近辺に達したと思われる時、流動性を手放し、米10年債を一気に仕込む。その時点が円安ドル高から円高ドル安への転換点となる。年末までにはそのような分れ目に出会えるかもしれない。

年内2回のFOMCでそれぞれ0.75%引き上げられるとFFレートは4.5%になる。そうなれば、2007年12月以来15年ぶりの高水準となり、すでに金利に敏感な部門は逆風に晒されているが、一層猛烈な風雨に曝されることになるだろう。過去14年間近くゼロ金利や低金利で慣らされてきた経済には、急速な利上げは相当堪えるはずだ。FRBの異常なゼロ金利政策が、株式や商品相場を舞い上がらせたことは間違いない。実体経済から掛け離れたゼロ金利だからこそ投機市場に資金が流れ込んだのである。それが、今度は逆回転しだしたのである。FRBは急ブレーキを踏み込み、投機市場から資金を流出させている。世界経済攪乱の原因はFRBの実体経済軽視の金融政策に尽きる。

FRBの独りよがりの金融政策が世界経済を混乱に陥らせているだけでなく、バイデン政権の政治も世界を不安定にしているのだ。恐らく、米国はウクライナへ報道されている何倍もの兵器を供給し、軍事顧問も派遣しているのだろう。まさに代理戦争なのだ。これまでに自ら仕掛けた戦争で米国は酷い痛手を受け、自ら銃を取ろうとはしない。米国に従属的な日本もウクライナと同じような扱いを受けることも予想される。米国の言いなりで、自己主張がほとんどない日本はアジアでの存在感も薄れ、だんだん相手にされなくなってきているのではないか。米国の主張と同じでは対話する意義がないからだ。経済的地位の低下に加え、政治についても世界から冷ややかな目で見られている。経済以上に自民党による政治が危うくなってきている。

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